MB&F 超徹底解説! レガシー・マシン パーペチュアルの新発想パーペチュアルカレンダー

 By : CC Fan

イエローゴールドモデルも発表された
MB&Fのレガシー・マシン パーペチュアル(Legacy Machine Perpetual)、”月末に早送り”ではなく、”月末以前に月末の日付を追加する”という新発想のパーペチュアルカレンダーは、基本の原理そのものを塗り替えたという意味で、誇張抜きでパーペチュアルカレンダーに対する最大の発明だと思っています。
レバーを廃した歯車式も、”月末に早送り”という基礎原理は変わっていないからです。

私このモデル大好きなので、WMO初期に解説記事を書いたのですが、今読むとわかりにくいとかふわっとしているところも多く、もっと詳しく見たい!という気持ちがわいてきましたので、熱いうちにレポートです。


Legacy Machine Perpetual - MB&F - How it works (YouTubeのMB&Fチャンネルより)

前回の記事にも掲載したCADによる動作説明動画、これをベースに見ていきましょう。



まず全体図、ベースムーブメント+永久カレンダーモジュールという構成ではなく、完全に統合設計された永久カレンダー専用ムーブメントです。
部品数は驚異の581部品、18,000振動/時(5振動/秒)という古典的な振動数のテンワが文字盤側中央に配置され、ダブルバレルで72時間のパワーリザーブを持ちます。

12時位置のサブダイヤルに時分、3時位置に曜日、6時位置に月、9時位置にレトログラード式の日付、7時半位置にレトログラード式の閏年の表示、4時半位置にパワーリザーブインジケーターとバランスよくシンメトリックな配置で機能が配置されています。
12時のサブダイヤルの両端から伸びたレガシーマシンのアイコニックなブリッジにより、テンワが支えられています。

6時から9時に配置された永久カレンダー機構を見ていきましょう。



結構シンプルな構造に見えます。
この機構の”キモ”ともも言える要素は、中央にある黄土色と緑色で表されたユニークな歯車、メカニカルプロセッサー(Mechanical Processor:機械処理装置)と呼ばれる機構です。



メカニカルプロセッサー、カレンダーの日送りを行うベースとなる黄土色の歯車部分に、日付の追加を行うための緑色の5歯の可動式の歯、可動式の歯を片方向にしか動かないように止める水色のラチェットレバー、そしてラジェットの規制バネがあります。
正面から見て緑色の歯車が見えているように、黄土色のベースは27歯分の歯車が3歯が欠けていて、そこに可動式の歯車が飛び出しているような構造です。



分解図、黄土色のベース部分は2つあり、欠けている位置が違います。
これは片方が24時間車から駆動される入力レバー、もう片方が出力となるレトログラード歯車に噛みあうためです。



緑色の部分は高さの異なる扇状の歯車2枚を組み合わせています。
先程も述べたように入力と出力で別の歯車に噛みあうためです。
黄土色の歯車はピンで連結されているため、上下は連動して動き、緑色の部品もピンで連結されているので同じ位相で動きます。



白いベース部分には1か月に1回、”日付の追加”動作を行わせるためにレバーを通すための溝がついています。



組み上げると、可動する歯が追加された歯(緑と黄土色が重なっている部分)と固定の歯(黄土色だけの部分)があるのがわかります。
水色のラチェットレバーを持ち上げることにより、黄土色に対して緑色が動くことがわかります。

これが、”日付の追加”の”キモ”になります。



横から見るとこんな感じ。
これは、レトログラード歯車に噛みあう場所で、奥側に日付送りレバーに噛みあう高さの違う場所が見えます。



これは1か月に1回、レバーが押し込まれて”日付の追加”をするための溝。
これにブロックされるので、所定の日付以外ではレバーをブロックするので日付の追加は行われません。



では、”日付の追加”を見ていきましょう。
オレンジ色の部分は日送りを行うためのレバー、時分の24時間車から駆動され、爪が機械処理装置の歯をひっかけて進めることで、日送りを行います。



日付の追加は25日に行われます。
ただ、ここの説明でちょっとわかりにくいなと思ったのは、レバー自体は毎日動いていて、爪が日送りを行っていますが、溝にブロックされるため日付の追加を行わないという動作を、25日だけレバーが動いてそれ以外は動かないように見えることです。



オレンジのレバーが溝に突っ込むことで、扇状の歯車でかみ合っている黄色のレバーも突っ込みます。
あとから見ますが、この黄色のレバーは月情報と閏年情報を読み取り、”日付の追加”に何日足せばいいか判断する機能を持っています。



オレンジ色のレバーが水色のラチェットを解除しつつピンを押し込むことで、”日付の追加”を行いました。



レバーが戻ることでラチェットが落ち、追加された日付が確定しました。



日付を送る爪が歯を押して1日ずつ送る様子。
ラチェットが1方向にのみ動くように規制するため、1日ずつ送られます。



28日より長い日付に対して日付を追加する…と表現されていますが、実際には25日 1日に最大5日分追加されるので、26日 追加という動作に見えます。
(数え方の問題かもしれません)

では追加する日付はの数はどうやって決めるのでしょうか?



”モダン”な、12か月カムです。
12個のスリットがあり、深い溝が大の月(31日)、浅い溝が小の月(30日)、そして溝がない部分が2月(28日or29日)です。



月のプログラミング。
1月は大の月なので、深いスリットです。
ただ、このままでは12か月なので閏年がわかりません。

いかにもなレバーの分岐が見えますね…



追加の12か月車と遊星カムによる閏年のプログラムです。
実際に、月を駆動している歯車はこちらの12か月車の方で、先に出ていたピンク色のカムは駆動されている側になります。
遊星カムは自転しながら12か月で公転し、2月の時だけレバーに当たるようになっています。



これは閏年じゃない2月の様子。
カムが一面だけ凹んでいるのが、閏年(29日)で、日付を1日追加します。



3月には遊星カムはいなくなっているので動作に影響はありません。
3月も大の月です。



4月は小の月…



12月から1月に進むときに、濃い紫色の爪(遊星カムの向かって右)が遊星カムの太陽ギアを送ります。
これにより、遊星カムの位相が変わり、遊星カムが1/4回転分余計に進みます。



再び2月。
前の2月と比べ、遊星カムが1/4回転分進んでいることがわかるかと思います。
この仕組みにより、閏年だけを進めるということが可能となりました、詳しくは後から見ます。

ではプログラムの様子を見てみましょう。



水色の歯車はレトログラード式の日付表示の歯車です。
機械処理装置に噛みあっており、1日に戻るようにひげゼンマイでテンションがかけられています。

現在24日。



25日に”日付の追加”が行われ、31日までの日付が加えられました。



26日、機械処理装置の緑色部分が1日分戻っています。



29日、機械処理装置の黄土色の部分は動かず、緑色の部分だけが戻っていく様子がわかるかと思います。



31日、緑色の部分が戻りきると、黄土色の部分が動くようになります。
これにより、黄土色部分が回転…



機械式処理装置の歯が欠けている部分に到達するとレトログラード歯車とのかみ合いがなくなり、レトログラード歯車はレトログラードを始めます。



このレトログラードの戻る動力により、月送りが行われ、次の月へ進んでいます。
また、レトログラード歯車の一番最初の歯は少し大きくなっており、他の歯と違いこの状態でも機械処理装置に噛みあうようになっています。



1日まで戻り、機械式処理装置も初期状態に戻り、次の月が始まります。



次は2月。



”日付の追加”を行う25日までは通常のカレンダーと何ら変わりがない動作です。



25日になり”日付の追加”を行います。



2月なので、遊星カムから日付を読み取り28日までの分を足します。
この、”レバーによってカムを読みだして処理する”ということだけ見ると、旧来のレバー式永久カレンダーと何ら変わりないと思われるかもしれません。
しかし、旧来のレバー式では、比較的重く針を動かないようにする強力な規制バネのトルクがかかっている日付車を動かさなければいけなかったのに対し、機械処理装置の小さな可動部だけ動かして追加分を設定していることが異なります、設定の時にはレトログラード歯車ともかみ合っていないのでトルクはかかりません。
複雑な設定作業は軽い負荷で行い、それ以降の日送りは”日付の追加”に対して普通のカレンダーと同じ方法で行うことで、月末の複雑な動作を一部25日に送り込み、分散させることに成功しています。
これが”日付の追加”の一番のメリットだと考えています。



永久カレンダーとしての複雑な動作は25日に終わっているので、月末までは単純に日付を進めるだけです。



28日で機械処理装置が再び回転するポジションまで進み…



噛みあいが取れて、レトログラード。



レトログラードの動力で月が進み…



3月がスタート。



月の脇には閏年表示が。



既に説明したように、12月から1月への移動で太陽ギアを動かすことで遊星カムの位相を進めて閏年を表現します。



これに伴って、レトログラード針も進みます。
この太陽ギアが閏年を表現しているというシステムのため、太陽ギアだけをプッシャーで単体で勧めれぼ閏年を個別に調整することができます。
48か月カムを使っている古典的なパーペチュアルカレンダーは言うに及ばず、12か月カムを使っている”モダン”永久カレンダーでも単純な減速機構で4年カムを動かしている機構ではこうはいきません。
地味ですが優れたシステムです。



閏年の2月。
遊星カムの凹んだ面がレバーに向いているのがわかります。



日付が進み…



一日多く足され、29日分。



29日まで進むとレトログラード。



この時は月が進まないのはおそらくアニメーションの都合かと。



再び組み立て。
実際には各部にレトログラード用のひげゼンマイ・規制バネ・伝え車などがあるということがわかります。

4か所に配されたプッシャー(全てを1日進める、曜日のみ、月のみ、年のみ)により、簡単に合わせられ、なおかつ問題が起きる組み合わせの時はプッシャー自体を切り離す機構により破損を防止しています。
止めた時間が数日であれば全てを1日進めるプッシャーで、それ以上は個別調整になるかと思います。



テンワを取り付け、特徴的な地板を貫通している長い天真を通すための開口部が見えます。



順を追ってみると改めて凄まじさがわかる作品ではないでしょうか。
最初にもお伝えしたとおり、個人的には誇張抜きでパーペチュアルカレンダーに対する最大の発明だと思っていますが、あまり日本には伝わっていないのかな?と思ったので今回気合を入れてレポートしました。

少なくとも、バリエーションが定期的に追加されるような好評さで展開できているということは信頼性も高いのだと思っています。
なかなか見られる機会はないですが、ぜひ知っていただければ…

関連ウエブサイト

MB&F
https://www.mbandf.com/en

M.A.D. Gallery
https://www.madgallery.net/