グルーベル・フォルセイ 新CEO ミシェル・ニデッグ氏インタビュー~卓越性へのこだわり、サプライズ新作情報も!

 By : CC Fan

日本に世界に先駆け「グルーベル・フォルセイ ブティック 銀座」をオープンさせた
グルーベル・フォルセイ。

ブティックの取材と共に、8月から新しいCEOに就任するミシェル・ニデッグ氏にブランドの現状をインタビューしましたので、以下、Q&A形式でまとめます。



――この度はブティックオープンおめでとうございます。ミシェルさんと最後にお会いしたのは2019年、「最後」のバーゼルの時だったので、5年ぶりと言う事になりますが、コロナ禍中にアントニオ・カルチェさんがCEOに就任し、ブランド運営の方向性をかなり変更したという認識です、まずは、その変化について教えていただけないでしょうか。
『はい、カルチェがCEOになる前は年産で100本ほどの生産体制で、そして販売店(小売店)は60拠点ほどありました、この状態では単純計算で1拠点あたり年間1本か2本しか新しい時計をお渡しできないことになります、そのためカルチェは拠点を20ほど絞り込み、一拠点あたりでご覧になることができる時計の種類を増やすという方向にかえました。また、生産本数も増やしていくことを目標にしています。』

――現在の年間生産本数は何本ぐらいになるのですか。
『当初の目標としては年産500本として取り組んできました、しかし最近になってやはり500本は無理だろう、と言う結論になりました。と言うのも500本を作ろうとするとどうしてもクオリティを犠牲にせざるを得ないので、それをするのであれば500本は作らない方が良いとなりました。グルーベル・フォルセイに求められる卓越性と言いますが隅々まで行き届いた素晴らしさは必ずキープしなければいけないと考えており、それを保ったまま、現在は250本~300本程度の実績があります。もちろん、多くの人を雇ったりトレーニングを行ったりして増強して体制を整えており、500本作れたらいいな、とは考えていますが、クオリティを維持したまま250本、はそれはそれでよいのではないかと考えています。』

――これは意地の悪い質問になってしまうかもしれませんが、生産本数の増加のためにクオリティを軽減する方向は全くないのでしょうか。
『下げる方向はあり得ません、むしろもっと上げることに挑戦することを計画しており、それが「カリテ・ミュゼ」というプロジェクトです。これは、「ミュージアムクオリティ」、すなわち芸術品として美術館に収容されるようなレベルを目指しています。一例を挙げれば、現在のグルーベル・フォルセイのネジの頭の部分はブラックポリッシュを施していますが、カリテ・ミュゼでは面取り部分・スロット・外周・内側…とすべての面に対して専用のツールを作って全面にブラックポリッシュを施していくという極限の手仕上げに挑戦しようとしています。
試しにやってみたら、ネジ一つの仕上げに8時間が必要だということが分かりました、これが本当に作品として完成するかも含めて挑戦しているところです。』

――なるほど、ディストリビューションと生産についてだけではなく、デザインもかなりスポーティーな方向に変化していると感じます。以前はロバート・グルーベルのデザインと認識していましたが、デザイナーが変わったりしているのですか。
『GMTスポーツから始めた新しいアプローチとして、有機的なカーブを描いたケースとムーブメントを使用しています。これは非常に人気を博しまして、既存のグルーベル・フォルセイコレクターからの評判も好調でした。ただ新しさと素晴らしいアーキテクチャではあったのですが、サイズが大きいことと素材にプラチナを使用していたためつけにくい、というコメントもありました。それを受けてクオリティを維持したまま身に着けやすく、若い世代にも受け入れられるものを考えるようになったという経緯でデザインの新しい方向性を模索しています。また、質問にお答えすると、元々のデザインもロバートひとりではなく、「チーム」で行っていましたし、現在も同様です。もちろんロバートは責任者として最後の承認を行い、気になる部分は手直しを支持しますが、彼一人の個性だけと言うわけではありません、現在のデザインもロバートが承認しています。』

――これからも新しい方向性のコンヴェックスコレクションと、従来のドレス的なデザインは両立していくと考えていいのでしょうか。
『はい、以前はグルーベル・フォルセイの時計をお持ちの方でも、日常的には金庫に仕舞われていることがありました、私たちとしては皆さん常に腕に巻いて楽しんでいただきたい、と考えています、コンヴェックスコレクションの登場により、より日常的に身につけていただけることが増えたと認識しています。』



――ステファン・フォルセイから「グランソヌリでも日常的に使えるように作っている」と伺ったことがあるのですが、それは今でも同じですか。
『はい、グランソヌリであっても30メートル防水で普通に使うことはできます、しかしやはりゴルフはしないでしょう、どうしてもリスクが先にあります、コンヴェックスは100メートルまでの防水、ショックテストによって振動にも強い、エルゴノミック形状によって腕に寄り添い、身に着けやすく、より広いシチュエーションで使うことができます。』

――コンヴェックスのような作品によって、グルーベル・フォルセイを購入する層に変化は出てきていますか。
『以前のお客様の傾向としては、グルーベル・フォルセイと言うとある意味「ゴール」という性質が強く、機械式時計の魅力に気が付いてから色々なブランドを購入、ロレックス、AP、パテックフィリップと進み、「独立系」という世界もあると気が付く、最後の最後でグルーベル・フォルセイにたどり着くと言う形が多く、比較的お年を召した方が多くなりがちでした。現在はいきなりグルーベル・フォルセイを指名するようなお客様もいらっしゃり、それに合わせてクオリティはそのままで価格を相対的に抑えたものにしていきたいとは考えています。』

――コンヴェックスコレクションは現在三針のものがメインですか、ここにコンプリケーション、永久カレンダーやグランソヌリを入れる、という方向性はあるのでしょうか。
『既存のムーブメントをすコンヴェックスに入れるという事はないです。例えばグランソヌリは実用性のために30m防水としていますが、この時点で非防水のケースと比べると音の大きさが20パーセントほど小さくなってしまいます。コンヴェックスの基準である100m防水に居れたとすると、音が聞こえなくなってしまうのではないかと思います。コンヴェックスはピュアでよりシンプルなもの、と言う方向性を考えています。実際にはシンプルなものを作るのはより難しいのでどこまで実現できるかはまだわかりませんが、シンプルで美しいものを作っていきたいです。どちらも重視し、バランスを取りながらやっていきたいと思います。もちろん常に最良のものを作っていけるよう常に進化を続けていきます。例えば、クロノグラフに現在挑戦しているところです。』

――ついにクロノグラフが?!
『もちろん、過去の機構をそのまま作るのではなく、グルーベル・フォルセイらしいクロノグラフを作っていきます。最も大切なのは創造性を維持しつつ、ビジネスとして成立させていくことが必要です、そこを見極めていく必要があります。ただ、ビジネスと言いましても仕上げの精度や卓越性を維持していきます、クオリティを維持することを第一に考え、それを保つためにどのようにしていくのが良いかと言う事を考えていきます。
私自身これまでのグルーベル・フォルセイが行ってきた時計作りにリスペクトがあり、「ヒーロー」は実際時計を作る時計師、仕上げを行う職人、開発や部品製造を行うエンジニア…と言った方々だと思っています。その「ヒーロー」が認知され、みんなにリスペクトされたり、光が当たる世界ができてほしい、作っていきたいと考えています。非常に長い道のりになると思いますが、私は「ヒーロー」が快適に働ける環境を作ること、そしてそれを伝えていくことが私の仕事の中心になるでしょう。
ひとつ、スペシャルなサプライズを出しましょう、あなたがステファン・フォルセイと2018年に長時間にわたって議論していた「メカニカル・ナノ」を覚えていますか? 今年、メカニカル・ナノテクノロジーを応用した初めての時計を発表することを目指しています。ただし、「メカニカル・ナノ」テクノロジーを使う、ということ以外は、現時点の記事では秘密とさせてください(笑)』



――わかりました!
『メカニカル・ナノは当初からスペースとエネルギーの制約を取り去るために、様々な技術を開発していき、総称としてメカニカル・ナノと呼んでいました。2018年のものからも大きく構造が変化し、より効率が良くなりメカニズムの構築の仕方が全く変わったことによコンポーネント(部品)の数も劇的に少なくなります。(註:メカニズムの詳細説明は今回は割愛、基本は論文記事をご覧ください)。このメカニカル・ナノを活用した作品を含めた4種類のキャリバーを今年発表することを考えています。一つはもちろんメカニカル・ナノ、残りはこちらも秘密とさせてください(笑)』

――このような新しいものを作り続けるためには「研究」への投資が必要と思いますが、これはかなり行っているのでしょうか。
『ロバートとステファンの時代は「研究」にかなりの投資、あとから見るととクレイジーと思う比率を投入していました、現在はより現実的かつ持続可能な会社組織としてのバランスを保ちながら行っていきます。繰り返しになるかもしれませんが、これはクオリティや卓越性を妥協する、と言う意味ではありません、あくまでより安定した時計作りを行う為により堅実な経営を行う、と言う意味です。』

――さきほどの4本の新作はどこで発表するのですか。
『8月のジュネーブウォッチデイズで発表します、もちろんいらっしゃいますよね(笑)』

――東京にブティックができましたが、日本のグルーベル・フォルセイの愛好家の方々に対してメッセージをいただけますか
『はい、ブティックができまして直接皆様に見ていただくことができる環境が整いました、現在はどのポイントよりも多くのコレクションが勢揃いしているので、ぜひお越しいただきグルーベル・フォルセイの時計作りに触れていただければ、と思います。こだわった内装も含め、グルーベル・フォルセイの「世界」を感じて下さい。 』



いかがだったでしょうか、
実際に作っている方々を「ヒーロー」とし、その力をサポートすることが経営側のミッション、と言う姿勢には非常に共感します。
「メカニカル・ナノ」が登場した時点で興奮して想定していた質問をすっ飛ばしてインタヴュー時間を取ってしまったのは我々らしいのか…。8月のジュネーブウォッチデイズ、これはもう行くしかないのか‥‥!!