グルーベル フォルセイ 2019年のバーゼルを振り返る

 By : CC Fan

あまり良い話が聞こえてこない昨今、過去の写真データを見返して未紹介のものを…と探していたところグルーベルの2019年バーゼルを紹介し忘れていたことが発覚しました。
バーゼル新作のGMTクアドラプルトゥールビヨンはバーゼル出発前の直前に「見てないふり」で取材できたので情報とブログは掲載していましたが、バーゼルの様子はすっかり失念。
1年越しになりますが、上記の記事で疑問に思っていたトゥールビヨンの取り付け方法について聞いたことをレポートします。

いつも通りの完全予約制でホテルの会議室を借りて行われた新作展示会。



身振り手振りを交えて話すステファン。
これはクアドラプルトゥールビヨンの2つのダブルトゥールビヨンの取り付け方法を180度逆にすることで姿勢差のキャンセル能力をさらに高めた?という質問に対する回答です。
「そのとおりだ!」と。

クアドラプルトゥールビヨンの開発経緯としては、まずサファイアブリッジを使った通常のクアドラプルトゥールビヨン(ダブルトゥールビヨンが同じ向き)→インベンションピースNo.2(ダブルトゥールビヨンが180度逆)→クアドラプルトゥールビヨンセクレ(ダブルトゥールビヨンが180度逆)→2018年のクアドラプルトゥールビヨン(ダブルトゥールビヨンが180度逆)、となっています。
初期のもので逆にできなかったのは、文字盤側にサファイアブリッジを使ったために固定歯車を固定することができず、ムーブメント側に固定歯車を配置するしかなかったからで、インベンションピースから先は金属ブリッジになり、文字盤側にも固定歯車を固定することができるようになったため、二つを180度逆に取り付けて文字盤上と文字盤下でイコールの条件になるようにしたという事です。



そして、図解による解説も。
これは先日、理解できたQPイクエーションのメカニカルコンピューターを解説しています。



理解してから改めて見直すと、なるほど感があります。



時計が登場!
左からSIHH新作の、コンテンポラリーテンプ、アートピース エディション イストリークの2本、2018年新作のGMTアース、そしてバーゼル新作のGMT クアドラプル トゥールビヨン!

バーゼル本会場やSIHHとの違いとして、人工的な照明ではなく川沿いのホテルの会議室で、窓から差し込む自然光の下で時計が見られるという事があり、SIHHの時よりも写りが良好!?という点が挙げられます。



コンテンポラリーテンプ、グルーベル フォルセイオリジナルテンワと初の40mm以下39.6mmサイズのケースを実現したモデルです。
懐中時計の文法と言うか、とにかく頑丈なことは良いことだというサイズ感のグルーベル フォルセイですが、これは日本でも受け入れられそうなサイズです。
オフセンターダイヤルと香箱と時合わせを可視化し、逆に計時輪列は隠すというレイアウトにより独特の面構え。
ダイヤルのレイアウトは不思議で、散らかっているように見えますが、ずっと見ていると妙にバランスが取れているように感じます。
言うまでもなく各部の仕上げは完璧で、わざわざ一つずつを拡大して見るのではなく全体の調和を楽しむのが良いのではと思います。



裏面は「碑文」のプレートで隠されていて、一部の石だけが見えている状態。
おそらく見えているのは巻き上げ輪列、香箱芯、2番車の軸だと思われます。
表側で見えている石を裏側で隠してミステリークロックのような構造が分からない効果を狙っている?



「動く彫刻」たるダブルトゥールビヨン30°を愛でるアートピース エディション イストリーク。

ダブルトゥールビヨン30°に繋がる駆動輪列は地板の中に巧妙に隠され、まるでどこにもつながっていないのに動き続けているような不思議な光景を実現しています。

リュウズ同軸のプッシャーを押すことで分表示のディスク開口部(12時位置)が閉じ、ミニマルな時刻表示(赤い矢印)と「時の流れ」を表すパワーリザーブインジケーターとダブルトゥールビヨン30°だけになり、ゆったりとした時の動きを堪能することができます。



ロバート・グルーベルとステファン・フォルセイのサインが入ったムーブメントと長いブリッジで支持されたダブルトゥールビヨン30°、こちら側でも歯車を極限まで見せずどこにもつながっていないようなトゥールビヨンが動いているような情景です。



GMTアース、ベゼルを省き、特殊な接着方法でサファイアクリスタルをケースに接着したことでより広い範囲から構造を見られるようになっています。
文字盤もサファイアクリスタルのリング状にして透けさせ、ムーブメントの文字盤側を堪能できるようになっています。



ムーブメント側からは特許取得済みのサマータイムを同時に表示する地域ディスクと、GMTアースで南極大陸まで表現するようになった地球儀が見えます。
地域ディスクは内周と外周で+1時間表示がズレるように竜巻上に致命が書かれており、黒色の地名はサマータイムなし地域(常に外周を読む)、白色の地名はサマータイム実施地域(サマータイム時は内周を読む)という方法で、国際特許を取得しています。
GMT表示を司る差動歯車機構も見えています。

グルーベル フォルセイは高精度だけど場所が必要なダブルトゥールビヨン30°とコンプリケーションのベースとして場所を取らずにほぼ同じ姿勢差キャンセル機能を持つトゥールビヨン24セコンズの2つのトゥールビヨンを持ち、追加のコンプリケーション(GMT、QPイクエーション、グランソヌリ)は全て24セコンズベースでした。
しかし、今回ダブルトゥールビヨンを飛び越してクアドラプルトゥールビヨンとアイコニックな地球儀によるGMTを同じムーブメントに納めるという快挙を実現、それが2019年バーゼル新作、GMT クアドラプル トゥールビヨンです。



2つのダブルトゥールビヨンと地球儀によるワールドタイム表示、そして補助文字盤によるGMT表示を備えます。
GMTアースでは独立していたパワーリザーブインジケーターはメインの時分ダイヤルのインダイヤルになり、GMT表示とスモールセコンドも同軸になったため表示部分の密度が上がり、それで浮いた分をトゥールビヨンを眺めるためのスペースにしています。

地球儀のケースサイドにはサファイアクリスタルの開口部があり、「昼」を表現する太陽の光は開口部からの光で表現されています。



トゥールビヨン部分は開口部でトゥールビヨン以外配置できず、地球儀部分も地球儀と地名ディスク以外は配置できないため、香箱やメインの輪列は三日月から半月状のスペースに押し込まれています。

この省スペース構造にもかかわらず、オリジナルのクアドラプルトゥールビヨンで50時間だったクロノメトリックパワーリザーブ(精度を保証するパワーリザーブ)は72時間に延長されています。



ダブルトゥールビヨン30°は外側ケージに切られた歯に直接駆動歯車が噛みあう形式で、駆動用歯車がトゥールビヨンを遮らないのでどちら側からもトゥールビヨンが良く見えます。
メインのムーブメントから出力された地球儀を駆動する動力は2枚の中間車を通って反対側の地名ディスク(=地球儀)に到達します。
地名ディスクはグルーベル フォルセイの特徴的なアシンメトリ(非対称)ケースで少し出っ張っていて、一部の時刻表示はケース側に記されています、この自由奔放さも「らしさ」でしょうか。
サマータイムの内側メモリはオミットされ、地名はスリーレターコードになっていますが、白黒のサマータイム区別表示は残されています。



「見て見ぬふり」の時と同じシャツ…
流石に直径46.50mm、厚み17.45mmは「大迫力」で懐中時計の領域に突っ込んでいる気がします。

私は大きな時計(カンタロスとか…)が好きなのでありだと思います。

オフィシャルで動画があったので掲載。



比較用にGMTアースも。





専用のルーペも「碑文」が刻まれたグルーベル フォルセイ仕様。
ライトもついています。



こうやって使うのだ!と実演するステファン。



気持ちの良い春の日差し…



ライン川、向こうにメッセバーゼルとハイペリオン(旧ラマダ)ホテルが見えます。
別の日のハイペリオンホテルのイベントでグルーベルの担当者に合ったものの、ド忘れしていて、「あったことあるよね?」と聞いたら、スッとGMT クアドラプルトゥールビヨンが出てきて、こちらもスッとマエストーゾ(当時「代車」で借りてた)を出したのも良い思い出です。



2004年からのクリエーションを時系列順に並べた表示。
こうやって見るとクアドラプルトゥールビヨンの開発順、インベンションピースは数字順に出ているわけではないという事が分かります。

非常に遅くなったグルーベルの2019年バーゼル情報。
私が言えた立場ではありませんが、日本語の情報で見かけなかったので遅くても意味があるかと思い今回書きました。

去年末に展示会方式からワールドツアー方式への移行をアナウンスしていて、今回の「中止」と「延期」の影響をダイレクトには受けていないグルーベル フォルセイ、昨今の状況ではどうなるかは不透明ではありますが、引き続き情報をお伝えしていきたいと思っています。


【グルーベル フォルセイに関する問い合わせ】
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