Noble Styling Gallery 四周年

 By : CC Fan
三周年と同様、ノーブルスタイリングさんのNoble Styling Gallery(2013年12月3日グランドオープン、前日にプレオープン)にお邪魔しました。
同社には現在、ショップニュースという形で、WMOもご協力いただいています。
いろいろお話を伺いながら、クリストフ・クラーレ(Christophe Claret)のカンタロス(Kantharos)の里帰り延長(詳細は別途)についても相談してきました。





何度も書いていますが、ギャラリーは恵比寿のウェスティンホテル東京内という珍しいロケーションにあります。



記念らしいことを何かやりましょう!ということで、オーナー兼社長の葛西氏(向かって左)とマネージャーの山口氏(同じく右)に記念撮影をさせていただくとともに、今まで断片的に聞いていた昔話を時系列を追って改めて伺いました。

葛西氏は現在60歳、22歳で大学を卒業後、某大手外資系商社に就職し、そこから一貫して時計業界のキャリアを歩んできました。
当時の業界は製造するメーカーと流通させる商社が分かれている構造だったそうですが、徐々に大手グループがメーカーの買収を繰り返し、さらにはグループ内に販売子会社を作ることで製造側が流通まで行うようになったため、"商社の時代"は終わったそうです。
商社畑にてキャリアを積んだ葛西氏ですが、勤めていた商社が取り扱っていたブランドが製造元ごと大手グループに買収されることになり独立を決意、ノーブルスタイリングを立ち上げて約15年が経ちました。

山口氏は、"IWC125周年の年に東京に出てきた"そうで、現在Pre-SIHHでIWC150周年モデルが発表されているので25年ぐらい経っていることになります。
伝説的なIWC125周年モデル、イル・デストリエロ・スカフージア(Il Destriero Scafusia)の当時のカタログ・資料をはじめ、貴重な資料と知識を多数お持ちで、マネージャー職のほか同社のWeb SiteやBlog構築、SNS対応などもマルチにこなす多才な方です。
葛西氏とは20年来ぐらいの付き合いになるそうです。

ギャラリーに展示されている各取り扱いブランドの時計を見ながら、お話を伺いました。



ポルシェデザイン(Porsche Design)です。
数年前に、私がクラーレ目当てで初めて伺うとき、人づてに聞いた噂で、"あそこはポルシェデザインが一番普通に見えるぐらい尖った商品ばかり扱っている"と言われ、恐れおののいたことを思い返します。



先ほどの記念写真でも写っていますが、特等席のケースに置かれたチャペック(Czapek)です。
元々は尖ったブランド(クラーレとか…)を得意としていましたが、葛西氏が還暦を迎えて心境の変化があったこともあり、"落ち着いた時計"も重視していく方針になったそうです。
チャペックは国内市場の反響も上々で、Place Vendômeギロッシェの38.5mmのほか、公式Web Siteには掲載されていない38.5mm WGケースとエナメル文字盤のモデル(No.29s:38.5mmの記事内に記述あり)など珍しいモデルも入荷していました。



チャペックとともに"現在のツートップ"を構成するというラング&ハイネ(Lang & Hyene)、去年どころか、今年のバーゼルの時点でも、まさか前の国内代理店の宝石のたなかさんから引き継ぐ形で国内代理店になるとは思いもよらなかったとのことで、これも合縁奇縁かもしれません。
こちらも反響は上々ですが、年産50本の上、細かいカスタムの要望が入っているオーダーで精一杯で、当たると大きいものの、タイミングが難しい"ロングシューター"と評されていました。
しかし、注文品のみではなく、常に何らかの実機はみられるようにはしたいとのことです。
対するチャペックは細かいシュートを正確に決める、"ショートシューター"と評されていました。



ショーケースの一部には、葛西氏がキャリアの中で集めた蔵書も飾られています。
手前に見えるのはペラトン自動巻きの5倍(5:1)拡大模型です。



こちらは山口氏の蔵書、国内時計専門誌のさきがけ、"世界の腕時計"、20世紀のバックナンバーで、今となっては当時を知る貴重な資料です。



ペラトン自動巻きの模型とともに目立っていたのはフランソワ・ボデ(François Bodet)氏によるブレゲ再興の回顧録です。
年代からもわかるように、書かれているのはまさにブランド復刻として最初の立ち上げを行ったころです。



こちらがボデ氏、葛西氏は商社時代にボデ氏がブレゲの次に復興した某ブランド(現在は大手グループが買収済み)の立ち上げにかかわったそうです。
そういえば、ハンドペインターのアンドレ・マルティネス氏と知り合ったのもこのブランドだったとのこと。
この本はバーゼルワールドで再会したボデ氏から直接、頂いたそうです。



ボデ氏の直筆サイン、"To Norimichi Kasai"と記されています。
2015年のバーゼルにてと書かれているので、割と最近です。



“ちょうど机の中から出てきた“という、そのブランドの懐中時計のサンプル。
直径は30mmぐらい、"Kimono Watch"として、着物の袖に入れることを想定していたようです。
エナメル装飾は今年のGPHGでSpecial Jury Prizeを受賞した、エナメルの名手アニタ・ポルシェ(Anita Porchet)氏によるものです。
文字盤側は残念ながらサンプルのため針が付いていないのとブランド名が見えてしまうので非掲載とさせてください。



この時計師机とタイムグラファーは最初に勤めていた商社から独立するときにもらったものだそうです。
タイムグラファーは精度わかりませんが、まだ動作はします。
カンタロスを測るとコンスタントフォースの打音を拾って誤測定しましたが、ケ・デ・ベルクは測定可能でした。



時計師机の上には取り扱いブランドの所在地が記されたスイスの地図が掲載されています。
こうやって見るとフランス語圏が多いです。



時計師机がある入り口側からギャラリーを見るとこんな感じです。
この日はモンテカルロの宝飾ブランドVITALEとのコラボレーション展示の最終日だったのでタペストリーとビデオがVITALE仕様になっています。



一見すると尖っていますが、作りは至って真面目なフィオナ・クルーガー(FIONA KRÜGER)のスカル
スカル一筋で作られた造形は、流行に乗ってスカルモチーフを取り入れているようなブランドとは一線を画します。



こちらも好調というBernard Favre(ベルナール・ファーブル)のダブル・アクシスプラネット・ウォッチワインダーです。
実際に見てみると各部の作りは良く動作も滑らかで、ただ単に自動巻きを巻くだけではなく、鑑賞するためのケースとして考えると武骨なワインダーより魅力的です。



おなじみ、"作り手"の写真です。
三周年の時から、増えたり減ったりしています…

取り留めもなくお話を伺いながら撮った写真を掲載しましたが、最後に印象に残ったお話とエピソードを。

曰く、Noble Styling "Gallery"という名前には、販売を行うShop(=お店)よりも鑑賞がメインのGallery(=画廊または美術館)のようにまずはゆっくりと鑑賞して独特の世界を知ってほしいという意味を込めており、鑑賞しながら分からないことがあれば、充分な知識を持ったキュレーター(学芸員)が疑問に答えるので、理解してもらうことから始めてほしいとのことでした。
また、どのような人がお客さんになる可能性はあるということで、たとえ明らかな冷やかしであっても邪険にすることはなく、独立した路面店やビル内の店舗よりも知らない人が入りやすいよう、ホテル内にギャラリーを作り、予約などがなくても気軽に訪れられ、高価なタイムピースであっても直接触れることができるようにしたということでした。

この方針を伺うと思い出すのは、カンタロス購入前にクラーレのタイムピースを見せてもらっている時のことです。
当時はコレクターの知り合いもおらず、お店からすれば"素性が分からない冷やかし"だったので、リピーターをはじめとしたコンプリケーションはそもそもケースから出してもらえないことが多く、拝見させてもらえたとしても"操作はこちらがやりますので、あまり触らないでください"という扱いでした。
それに対し、葛西氏は自らクラーレのタイムピースをケースから取り出してくれた上に、アダージョ(Adagio)のスライダをぜひ引いて欲しいと渡して、何回か鳴らさせてくれたのが印象的でした。
思い返してみると、カンタロスの決め手になったのはユニークな仕様がクラーレ社の審査を通ったことだけではなく、このような接客のおかげもあったと思います。
後から、"クラーレ社があのユニーク仕様を受けるとも思えなかったし、正直な話をすると本当に買うとも思っていなかった"というぶっちゃけ話もありましたが、現に私はカンタロスをその後、購入しているので姿勢は正しかったといえます。
その後、カンタロスは散々な問題児っぷりを発揮、色々な縁もあって、クラーレ社に直接乗り込むという貴重な体験までできたのはコレクター冥利に尽きます。

ノーブルスタイリングさん、ギャラリー四周年おめでとうございます。
今後ともよろしくお願いいたします。

恵比寿は例年と同じく、ウィンターイルミネーションとクリスマスツリーが飾られていました。





今年も残すところあと一ヵ月となりました…
去年はチャペックの納品待ち、今年はカンタロスの里帰りと年末までお世話になりっぱなしです。

関連 Web Site

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http://noblestyling.com/