時計愛好家のためのヨーロッパ(オーデマ・ピゲ ミュージアム&工房編) by k.hillfield

 By : Guest Blog


言うまでもなく、世界三大時計ブランドのひとつですが、ロイヤルオークのイメージが強いためか、あまり知られていないことも多いであろうオーデマ・ピゲ。本記事ではその謎を解き明かします。


●オーデマ・ピゲ本社付近。非常にのどかである。(著者撮影。)


訪れたのはスイスの時計産業の中心地であるジュウ渓谷にあるル・ブラッシュという村。
オーデマ・ピゲの本社、ミュージアム、工房はこの村にあります。
近くにはヴァシュロン・コンスタンタンやブランパンの工場などもあります。

 <オーデマ・ピゲと創業家>
オーデマ・ピゲは現在も、ジャスミン・オーデマ、オリヴィエ・オーデマという創業家一族が経営しています。
長い歴史を有するスイス高級時計ブランドは多くありますが、その中でもオーデマ・ピゲは創業家一族が現在も経営を続けている唯一の会社です。

 

<オーデマ・ピゲのアイデンティティー>
1875年創業のオーデマ・ピゲ。創業初期は複雑機構を搭載した懐中時計で有名となりました、それがブランドの原点です。



複雑機構こそオーデマ・ピゲのアイデンティティーなのです。


●コンプリケーションの傑作。(著者撮影。)

 

<オーデマ・ピゲ ミュージアムにて>
写真撮影は禁止でしたので、文章でお伝えします。

各モデルの変遷(右側が現行モデル)

1970年代 オーバルシェイプ → ミレネリー

1920年代 クッションケース → トラディション

1972年 ロイヤルオーク誕生
ロイヤルオークのデザインは、時計界の有名デザイナーであるジェラルド・ジェンタによるものです。その際、心がけたことは下記の点だそうです。

①すべてステンレススティール ②防水 ③ブレスレットまで統一されたデザイン
(補足:それまでは腕時計本体と、ブレスレットのデザインは別々でした。)

そしてロイヤルオーク誕生20周年を記念し、1993年、オーデマ・ピゲはロイヤルオーク・オフショアを世に送り出し、大きなヒットとなりました。
オフショアは、ジェラルド・ジェンタのデザインではありません。
ジェラルド・ジェンタの手を離れ、オーデマ・ピゲは独自に新しいデザインの歴史の一歩を踏み出したのです。

オフショアと言えば、意外と知られていないことがいくつかあるそうです。

まず、ロイヤルオーク・オフショアと言えば、アーノルド・シュワルツェネッガーとのコラボレーションが有名ですが、そもそも一番初めのコレボレーションは「エンド・オブ・デイズ」モデルです。「ターミネーター3」モデルはその後となります。

もう一点はオフショアの女性向けのファーストモデルは小さいということです。

~ミュージアムその他メモ~
◆フィリップ・デュフォー氏が作ったオーデマ・ピゲ銘の懐中時計も、会社としては今も所有しているそうですが、当日は見ることができませんでした。

◆1931年の生産本数は1本。(補足:1950年代までのオーデマ・ピゲの時計は生産本数が少なく、特にクロノグラフ腕時計はアンティーク市場において高値で取引されています。)

 

<オーデマ・ピゲ 時計工房にて>
オーデマ・ピゲで最も複雑な時計は何か?

その答えがこのモデルです。


●ユニバーサル。(著者撮影。)

オーデマ・ピゲで最も複雑な時計「ユニバーサル」。
1899年製。 ユニオン・グラスヒュッテからの注文により製作。

ミニッツリピーター、グランソヌリ、プチソヌリ、アラーム、パーペチュアルカレンダー、ムーンフェイズ、スプリットセコンドクロノグラフ、フドロワイヤントなど17の機能・17本の針により構成されます。 

オーデマ ピゲはこの時計に敬意を表し、「ユニバーサル」修復の過程を撮影、パーツや機構の詳細、操作方法を含むその記録を一冊のブックレットとしてまとめています。

●「ユニバーサル」のブックレット(WMOアーカイブより)


なお、オーデマ・ピゲはアンティークモデルに関して、ジュウ渓谷の時計産業の盟主として、すばらしい取り組みを行っています。

①ジュウ渓谷の全てのブランドの修理の受付。
(実際、訪問当日、無名ブランドの指輪の時計(19世紀前半製)や他社製の製品も修理品として置いてありました。)

②サーティフィケイト(製造証明書類)の発行に関しては無料
(注:配送等諸費用がかかる可能性あり。検討されている方は正規輸入総代理店などで要確認。)

③創業以来の全てのムーブメント情報を保管。
(カルティエなど、他社銘で出されたモデルに搭載されているムーブメントに関しても全てのデータを保管しているそうです。)

 

~時計工房その他メモ~

◆ジャンシャン(ジュウ渓谷に自生するリンドウの一種で、面取りの仕上げに使われる)も工房の周りに自生しており、時計師自らが取りに行き、修復作業時に使っているそうです。


こうして工房を見学すると、オーデマ ピゲというブランドのアイデンティティーはジュウ渓谷の複雑時計にあり、ジュウ渓谷の時計作りを守り続ける時計ブランドということがよくわかります。

 

オーデマ・ピゲ ミュージアム(一般には非公開なので、ブランドからの招待が必要です)
https://www.hautehorlogerie.org/jp/encyclopaedia/watchmaking-museums/s/audemars-piguet-museum/


(参考)
※現在は新たなミュージアムを建設中です。
https://watch-media-online.com/news/617/

※Ay&Ty StyleさんのAPミュージアム訪問記事
https://watch-media-online.com/blogs/449/