モリッツ・グロスマン アトゥム・エナメル ジャパンリミテッド 納品式

 By : CC Fan
優れたグローバルモデルに、卓越したセンスによるアレンジを加えたモリッツ・グロスマン(Moritz Grossmann)の日本限定ジャパンリミテッド(Japan Limited)シリーズ、去年発売されたアトゥム・エナメル ジャパンリミテッド(Atum enamel Japan Limited)も限定数の完売間近だそうです。
そんなタイミングで、WMO読者の方がほぼ最後の1本を購入を決意し、納品式にお誘いいただいたのでご同席させていただき、掲載許可もいただけたので、納品式の様子と実機のレポートです。



にわか雨の中のモリッツ・グロスマンブティック、個人的にはかなりご無沙汰してしまいました。



最寄り駅は東京メトロ丸ノ内線の茗荷谷駅、閑静な住宅街の中にあります。
地理的にも"指名買い"で訪れるお客さん多いようで、無理解な喧騒とは無縁、広い店内の統一されたテーマの落ち着いた雰囲気の良い環境で時計を堪能することができます。



エナメル文字盤!
ローズゴールドに合わせた"クリーム"エナメルの美しさはなかなか写真で捉えるのは難しい…
実際の美しさを堪能できるのはオーナーの特権でしょう。
古典的なローマンインデックスですが、グロスマン流のアレンジが加えられた独特のフォントになっています。

他のグロスマンの時計に見られる長針のカウンターウェイトが省かれているのは、"ウェイトの分、余白を開けてエナメルの質感を堪能してもらいたい"という狙いがあるそうです。
これによる機構への影響はないとのことですが、オーナーの好みによって、カウンターウェイトありの仕様もあるそうです。



工芸的なエナメルダイヤルに勝るとも劣らない仕上げが施されたキャリバー100.1、仕上げもさることながら、直径36.40mmのムーブメント半径18.20mmのギリギリに迫る直径14.2 mmの大型テンワの大きな慣性モーメントにより優れた精度を実現します。
理論的には慣性モーメントが大きくなると外乱による影響が相対的に小さくなるため、振動数が少なくても、精度を上げやすくなります。
グロスマンは理論に忠実にできる限り大きなテンワを与えることで振動数に頼ることなく、精度を上げようとしています、低振動であれば機械の摩耗も抑えられ、頑丈な造りと相まって寿命と信頼性は高いでしょう。

完璧さを求める姿勢として印象的なのは緩急調整です。
一見すると特徴なネジによって緩急針を動かす方法ですが、出荷状態では緩急針がセンターの状態でテンワのチラネジと追加工によるバランス取りだけで緩急調整が行われているそうです。
チラネジの調整だけで追い込めるのであれば、緩急針がないフリースプラングにもできそうですが、調整範囲の広い緩急針方式であれば、将来の経年変化にも対応できるという考えで2段構えにしているようです。

定期的なオーバーホールを前提とした部品交換ではなく、各部をなるべく頑丈にし、同じ部品を使い続けられるようにするというのは懐中時計時代の時計作りを彷彿とさせます。

テンワが大きいためか、巻き上げトルクはかなり強めで、パワーリザーブは42時間です。
香箱の逆転を防止するコハゼはかなり戻るタイプですが、これは巻ききった時にもコハゼの分戻すことにより、トルクが急激に上昇する部分を使わないようにするためとのこと。

各7本の限定番号表記は〇/7ではなく、“Limitation 7"(7本限定)のみ、下手に番号をつけるよりも7本しか作られていないことを強調しています。



高橋店長(左)から説明を受けていると、ジャパンリミテッドにかける並々ならぬ思いを直接お話したいということで、日本CEOの工藤氏(右)も登場!
"クリーム"エナメルを実現するために何度もサンプルを差し戻したエピソードや、カウンターウェイトを省いたエピソードを伺うことができました。

4番車の位置がちょうどいいことを発見して7時位置にスモールセコンドを追加したテフヌートの3針や、赤色の挿し色を抜いたブランドロゴなど、ジャパンリミテッドのために提案したアイディアがグローバルモデルとしてレギュラー化したものも多く、世界で唯一の直営ブティックとして本国への影響力は強いようです。
ケースサイズが37mmのモデルもジャパンリミテッドとして企画が進行していたものが、レギュラーラインになったそうです。

モリッツ・グロスマンの従業員は現在30人程度、年産数は400本だそうです。
生産数は増えていますが、クオリティを下げてまで数を追うことは絶対にしないそうです。



こちらはボックス。
キズミ(アイルーペ)が付属するブランドはありますが、グロスマンはしっかりと堪能してほしいとの思いから使いやすい虫眼鏡(ハンドルーペ)が付属します。
オーナー氏は、木製のキズミと木製のボックスが湿気で噛み合って抜けなくなり、割れてしまった経験があるそうで、その意味でも多湿な日本ではハンドルーペの方が良いかもしれません。



ボックスのロゴは挿し色仕様、個人的にはこちらが好きです。
高橋店長に伺うと、黒一色の方が優勢ながら、やはり好みは分かれるそうです。



オーナー氏の"初ドイツ時計"、A.ランゲ&ゾーネ(A.LANGE & SÖHNE)のリヒャルト・ランゲ(Lichard Lange)ブティック限定モデルと。
ローマンインデックスの三針が好きというオーナー氏、こうやって見ると要素は同じでも印象はかなり異なります。
リヒャルト・ランゲは古典を踏襲し、アトゥムは少しアレンジが加えられている印象です。



古典の例、ブティックに鎮座するクロックです。
全体的にリヒャルト・ランゲの方が近いデザインに見えます。
このクロックをレストアしたのはかのイェンス・シュナイダー氏です。



ムーブメント側。
こちらは文字盤側以上に印象が異なります。
リヒャルト・ランゲのムーブメントは直径30.6mmで充分大きいですが、直径36.40mmのアトゥムに比べると小さく見えてしまいます。
圧巻なのはテンワのサイズの差、改めてグロスマンのテンワの大きさを実感します。

逆に、ムーブメント厚みはリヒャルト・ランゲ6.0mm対アトゥム5.00mmでリヒャルトの方が厚いです、これは4番車からセンターセコンドを駆動するためのブリッジが追加されているためではないかと。
ちなみに有効数字の桁数が異なっているのは間違えているわけではなく、各ブランドの発表値を尊重しています。



ケースサイズはリヒャルト直径40.5mm・厚さ10.5mm、アトゥム直径41.00mm、厚さ11.35mmですが、文字盤のサイズの違いなのかアトゥムの方が数字よりも大きく見えます。
厚みの差はリヒャルトのシルバー文字盤に対し、アトゥムのエナメル文字盤が厚いためではないかと予想されます。

ケース・リュウズの違いのほか、4時位置のグロスマン式プッシャー時合わせ機構のプッシャーが特徴的です。
今更説明するまでもないかもしれませんが、針合わせ(リュウズの回転)とストップセコンド・針合わせの解除(プッシャー)を分けることにより、秒単位であわせやすく、原理的に針飛びがおきなくなっています。



オーナー氏のリストショット。
まさに腕化した懐中時計という感じです。



オーナー氏にとっては"上がり"時計になるかもという、この一本。
とても素晴らしい選択だと思います、おめでとうございます! (本当に上がれるかは…)

オーナー氏ご希望の1ショット(2ショット?)も…



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最後にグロスマンさんから色々と伺った追加の情報を。

今年のバーゼルで発表されたモデルのうち、バックページ、37mm、アトゥム・デイトのシャンパンゴールド文字盤は来週に迫った三越ワールド・ウォッチ・フェアに出展されるそうです。
バックページの107.0 "ミラード・ムーブメント"は文字盤側に輪列を持ってくるために部品をかなり作り直した専用設計、単純にひっくり返しただけではなく、回転方向も逆にして最適化した設計で、余計な中間車は計時輪列にはないそうです。
巻き上げ方向をそろえるために巻き上げ輪列には一枚中間車が挟まります。
ベースは100.1ですが、トゥールビヨンキャリバー103.0から石受け付きの香箱(ジュエルド・バレル)を受け継ぐなど細部のアップデートが行われています。
輪列が文字盤側に配置されたかわりに、ムーブメント側には今まで直接見ることが叶わなかったストップセコンドレバーが可視化され、大きく抜かれた開口部からテンワを停める様子を見ることができます。

初の自動巻きにして、ユニークな機構を持つハマティックは現状では年末ごろになりそうとのこと。
ハマティックのキャリバー106.0の出自はテフヌートの102.1キャリバー(21600振動/時)をベースに地板をアトゥムサイズまで拡張してハンマー式自動巻き機構を入れたもので、ハンマーに繋がった2組のラチェットレバーが香箱と噛み合った2組の歯車(回転方向の整流用)を直接押して巻き上げるため、ほぼ空回りせず、巻き上げ効率はフルローターに比べても高いとのこと。
副次的な効果として、テフヌートの輪列にアトゥムサイズの香箱が付いたためパワーリザーブは72時間とモリッツ・グロスマン最長の長さになっています。

関連 Web Site (メーカー・代理店)

モリッツ・グロスマン・ジャパン株式会社
www.grossmann-uhren.com

モリッツ・グロスマン・ブティック
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