第21回 三越ワールドウォッチフェア グローネフェルド 1941ルモントワール

 By : CC Fan
現在開催中の第21回三越ワールドウォッチフェア、既にモリッツ・グロスマン(Moritz Grossmann)の作品やチャペック(CZAPEK)のトークショーを取り上げましたが、他にも注目した作品についてレポートしたいと思います。

コンスタントフォース(ルモントワール)機構への興味から、SIHHに参加するたびにレポートした時計師兄弟(Horological Brothers)、グローネフェルド(Grönefeld)の1941 ルモントワール(1941 REMONTOIRE)、実機が出展されており、手に取って見ることができます!
過去の記事で"追って報告する"と言い続けて、ルモントワールの詳細を後回しにしてきましたが、良い機会なので改めて向かい合って考え、理解してみたいと思います。
機構の詳細の前にまずは改めて外観を。



一見するとシンプルなスモールセコンド3針の時計ですが、9時位置に何か変わった物が見えます。
これはルモントワール機構の速度を制御するためのダンパー(慣性ダンパー)です。
今更ながら、ダンパー軸のブリッジがインデックスを模したデザインであることに気が付きました。

可視化されたダンパーが只者ではない雰囲気を出しているとはいえ、ダイヤルからは内包する複雑性を知る術は控えめに書かれたEIGHT SECONDS REMONTOIRE(8秒ルモントワール)という文字のみとなっています。
個人的には機構を見せびらかすようなものより、このような"爪を隠した"デザインが好みです。



エッジ部分をレリーフ状にし、凹部をサンドブラスト、エッジをポリッシュで仕上げる独特のブリッジ。
とてもユニークで、エッジを明確にして綺麗に仕上げるには相当な手間が必要でしょう。
機構抜きにこの見た目だけでも素晴らしいと思います。

香箱からのトルクは加速輪列を経て8秒ルモントワールに入力されます、ルモントワールとガンギ車をつなぐ4番車(1分で1回転)相当の歯車は文字盤側に配置され、スモールセコンドを駆動しています。

ルモントワール機構の動きを理解するために公式の動画を見てみましょう。



0:14からルモントワール機構の動きが見えます。

この機構は遊星歯車機構をベースに以下のように機能を割り振っています。

Wikipedia 遊星歯車機構

内歯車(outer gear)…加速輪列からの入力軸、爪がレバーで固定される、反時計回り
遊星キャリア(planetary carrier)…トルクを蓄積するスプリングに接続、レバーを制御する、スプリングのテンションは時計回り
太陽歯車(sun gear)…4番車への出力軸、時計回りに回転して出力

動きを順に見ると
  1. 内歯車の爪がレバーで固定されている状態では、遊星キャリアがスプリングのテンションによって時計周りに回転、固定された内歯車にかみ合った遊星歯車が回転することで、キャリアの動きが太陽歯車に伝わる
  2. 遊星キャリアが決まった角度だけ回転すると、レバーが爪を解放し、内歯車に輪列からのトルクがかかる
  3. トルクにより内歯車が回転し、遊星キャリアを反時計回りに回転させ、スプリングにテンションが蓄えられる
  4. 遊星キャリアが反時計回りに回転したことで、レバーが爪を固定する位置に戻り、爪一つ分を送った状態で再び内歯車を固定、1に戻る
この繰り返しで動いていると理解しました。

3の時に太陽ギアにもトルクが素通しになるのではないか?と思いましたが、放出する方向と蓄積する方向が逆なので、蓄積時は太陽ギアは止まっていると見なせるのではないかと思います。

放出と蓄積を逆方向にすることにより、遊星キャリアは一定の範囲の往復運動のみでよくなります。
カンタロスは蓄積と放出を同じ方向に行うため、コンスタントフォース全体が回転しなくてはなりません。

3から4に移る際にあまり早く輪列が動いてしまうとレバーが戻る前に爪が通り過ぎてしまうため、輪列の速度を制限するために9時位置にダンパーが備えられているようです。

トルク供給で見ると、ルモントワールより下流のスモールセコンドは連続的に動きますが、時分針は8秒ごとに断続的に動きます。

遊星歯車をうまく使ったエレガントな機構で、資料によると教会などのクロックに使われていた差動歯車を使用したルモントワール機構にインスピレーションを得て、腕時計用にしたもののようです。
教会のものではトルク蓄積に安定した重力(錘)を使い、ゼンマイや水力などのトルクが一定しないソースを整え、高い精度を実現ていたようです。
錘を使うので、エネルギー蓄積の機構は一定範囲を往復するような動きにする必要があり、その点でも都合がよかったようです。

改めて考えたことで、機構が理解できてスッキリしました。
この状態で、改めて拝見したいです。

最後に改めてブランドを紹介する公式動画もご覧ください。



百聞は一見に如かずではないですが、いくら素晴らしいと言っても実機を見るに勝ることはありません。
またとない機会なので、ぜひご覧ください!

関連 Web Site (メーカー・代理店)

Grönefeld | The Horological Brothers
https://www.gronefeld.com/

Les Artisans
http://www.lesartisans.jp/