第21回 三越ワールドウォッチフェア チャペックCEO ザビエル・デ・ロックモーレル氏 トークショー

 By : CC Fan
現在開催中の第21回三越ワールドウォッチフェア、期間中は様々なイベントが予定され、大手に加え、フィーチャーされている独立系メゾンも登場します、すべては無理ですが、個人的に注目しているものについてレポートしたいと思います。
まずは18日(土)に行われたチャペック(Czapek)のCEO、ザビエル・デ・ロックモーレル(Xavier de Roquemaurel)氏のトークショーです。

手前味噌ですが、散々掲載して注目を集めているのか、会場は立ち見が出るほどの大盛況。
もちろんファーストオーナー(兼取材)としてはあらかじめ最前列を確保します。



最終的な打ち合わせを行うザビエル氏・通訳の方・ノーブルスタイリング山口氏。



蝶ネクタイで決めたザビエル氏、右手に新作クロノグラフのフォーブル・ド・クラコヴィ(Faubourg de Cracovie)、左手にトゥールビヨンのプラス・ヴァンドーム(Place Vendôme)と"鉄壁の布陣"で挑んでいます。
タイトルは"伝説的なウォッチ・ブランドの復活"、ブランドのヒストリーと復活後に大切にしているテーマについてのお話です。



まずはヒストリーから、一部以前のレポートと重複するところもありますが、新しい情報も。
1830-31年のポーランド暴動でアントワーヌ・パテックとフランソワ・チャペックが亡命したところから歴史がスタートしました。
パテックとチャペックは同じポーランド移民・同じ動乱を戦ったということから意気投合し、会社を設立しますが、6年後に別々の道を歩むことを決め、会社を分割します。
アントワーヌ・パテックの方の会社は、皆さんご存知のあのトップブランドではありますが、今回は具体的な名前は一切登場しません、三越WWFにも出てますからね…
ここら辺はおそらく綿密な打ち合わせがあったのでしょう。



独立したチャペックはCzapek&Cieとしてジュネーブを拠点にリピーターやタイムピースを製造しました。
評判を高めたチャペックは、パリのヴァンドーム広場に時計師としては初めて販売拠点を設け、故郷ワルシャワにも販売拠点を設けました。



ジュネーブの公文書保存施設でザビエル氏が自ら撮影してきたというチャペックの記録。
後述するように残されている資料はとても少ないため、貴重な情報です。



フランソワ・チャペックのもっとも有名な功績は、ナポレオン三世の宮廷時計師に任命されたこと、そして初めてチェコ語(曰く、日本語のように複雑)で書かれた時計製造についての指南書を残したことです。
このように華々しい実績を誇っていたチャペックですが、病に倒れ、後継者もいなかったことから会社を清算し、最期も明らかになっておらず歴史の中に消えてしまいました。
肖像画なども残っていないため、往時を知るための手掛かりはわずかに残った時計と書類のみです。



そして現代、忘却の彼方に消えていたチャペックを復活させるための動きが始まります。
まずチェアマンのハリー・グール(Harry Guhl)氏が2012年12月12日に会社を登記し再開させます。
そして、実務を行うためのCEOとして"当時失業中だった"ザビエル氏が合流、二人とも時計作りは専門ではなかったので時計師としてザビエル氏が別のイベントで知り合っていたセバスチャン・フォロニエ(Sébastien Follonier)氏を迎え入れ、3人のボードメンバーが集まりました。



3人ともオリジナルの高級時計を作れるほどの充分な資金は持っていなかったため、資金調達をしなくてはなりません。
ここでユニークなの大口のファンドに頼るのではなく、時計愛好家が小口の出資を行えるクラウド・ファンディングの手法を使って資金を調達することに決めたことです。
これにより、100人以上の愛好家からの出資が集まり、副次的な効果として"生の声"を聞くこともできました。



ブランドの差別化(価値)について説明するザビエル氏。
ヒストリーとデザインについて話しつつ、二つの大きな原則として、"ビリオネア(億万長者)のおもちゃのような時計は作らない"ということと"チャペックの精神に忠実"という点が挙げられました。
前者はまともに使えず、ケースにしまい込まれるだけのコンプリケーションではなく、信頼性が高く、日常的に使えて、寄り添うような時計を作るという姿勢、後者は名前だけを復活させるのではなく、チャペックの考え方・作品作りまで踏まえたブランドにしていきたいと理解しました。



ケ・デ・ベルクに用いられたブランドとしてのデザインコードについて、ナポレオン三世の時計No.3430を例に説明を行いました。
特徴的な4時30分と7時30分にサブダイヤルを備えるデザインは左右は対称(シンメトリー)ながら、上下は非対称(アシンメトリー)という対比を生みだします。
これは人の体も同じで左右は対称ですが、上下は非対称で、これは上下左右が対称よりも実は自然に近いのではないか?というデザインとのこと。
また、針の形も各々異なっていて、一見すると奇妙に見えますが全体としては調和がとれています。

様々なデザインを検討した結果、伝統を引き継ぎつつもアレンジ次第でモダンに見える3430のデザインに行きつきました。
変えすぎると奇をてらっているだけになり、変えないとありがちな没個性になってしまうので、さりげないけど特徴的というのはかなり難しいと言えます。



ムーブメントも同様、No.3430ムーブメントのデザインコードの要素を抽出し、腕時計に"再構築"した造りになっています。
一見すると地味なサンドブラスト仕上げはNo.3430のサテン仕上げに倣ったもの、サテン仕上げは水銀の蒸発を使って金属表面を荒らす手法ですが、現在は当然使えないためサンドブラストを使っています。

ムーブメントは信頼と実績のクロノード(Chronode)社製、後ほど伺ったところ、ユーザーのミスで破損したもの(巻きすぎてゼンマイを切る、磁気帯び)以外のトラブルは起きていないとのことで、"初物"のムーブメントとは思えない信頼性です。



そのほかにも様々な要素があり、全部説明したいけど、30分の時間ではとても足りない…ということで駆け足な説明で各要素を。
初代チャペックと同じミツバチのホールマーク、サブダイヤルに隠れたCzapekのシークレットサイン、特徴的なフルール・ド・リス針。



5人の子供の父親でもあるザビエル氏、子育てになぞらえてケ・デ・ベルクの各モデルを説明します。
曰く、長男(貴金属モデル)は親が思った通りに育つ(クラシックなイメージをそのまま引き継ぐ)が、次男(チタンモデル・写真)は"反逆"し、思いもよらぬこと(モダンな印象を備える)になると述べました。
しかし、日本で初めて売れたのはチタンであり、想定外だったとのこと。

ちなみに、チタンおよびカーボンダイヤルは(生産性が)ナイトメアということで、あまり数は作れていない様子で、次に作るとしても別の表現になるだろうとのこと。



そして、いきなりの快挙として2016年のGPHG Public Prizeを獲得したことです。
"識者"が選ぶほかの賞と異なり、Public Prizeは一般からの投票によって選ばれるため、より多く受け入れられたと言えるのではないでしょうか。
個人的には一番価値があると思います。



新たなアイコンに成長しつつある、"リコシェ"・ギロッシェ。
特徴的な二つのサブダイヤルを焦点として波紋が広がるような"干渉"を表現したギロッシェです。
このダイヤルのために特別な合金を製作した上に、制作難易度は"グラン・フー・エナメル以上"という難産プロジェクトでしたが、見事作り上げ、豊富なカラーと共に特徴的なアイコンとなっています。



こればかりは写真ではなく実物を見ていただきたい!としか言えません。
特にカラーのダイヤル各種は印象がガラッと変わります。



続いてプラス・ヴァンドーム。
プロジェクトとしてはケ・デ・ベルクよりも先にこちらが進んでおり、3430の意匠もこちらからケ・デ・ベルクにもたらされたそうです。
トゥールビヨンとデュアルタイム機能の24時間計が良いコントラストを形成しています。



プラチナケースにエングレーブを施したモデルの紹介。
これはヌーシャテル近郊に住む個人作家とのコラボレーションにより実現しています。
プラチナは金に比べて硬く、エングレーブが困難であるそうですが、あえて挑戦し見事な作品を作り出しました。



最後はフォーブル・ド・クラコヴィ。
キービジュアルはアイコニックな"リコッシェ"・ギロッシェを纏った、ブルー・アワー。

ブランド初のクロノグラフですが、ケ・デ・ベルクとプラス・ヴァンドームと同様のリューズガードの意匠にスタート・ストップ、リセットボタンを融合させることで一見してクロノとはわからない造りになっています。



ムーブメントSXH3はボーシェのムーブメントをベースにしたビスポーク仕様。
サンドブラスト仕上げをより緻密にし、プラス・ヴァンドームと同じレベルで仕上げたそうです。

クロノグラフ機構まで一体設計されたインテグレート・クロノグラフで、設計に時間がかかるので、このレベルのムーブメントが登場するのは5年に1度で、採用できたのはタイミングが良かったそうです。
クラシカルな見た目とは裏腹に、10振動/秒の最新スペックです。



最後にまとめとして、ブランドのバリューについて述べました。

透明性…水平分業やサプライヤーについて公開し、知ってもらう
コラボレーション…優れた技能を持つ工房・職人と協力し作品を作る
シェア…時計作りの情熱を一方通行ではなく互いに共有する
クールネス…一目でチャペックとわかるさりげないけど特徴的な時計
勇気…困難に挑む勇気をもって時計作りを行う

最後の勇気については、象徴するピースとしてOnly Watchに出品されたNo. 25ter « Courage every second »(いつでも勇気を)が掲載されました。

"チャペックを始めたとき資金は1万6000スイスフラン(およそ200万円)しかなかったが、勇気をもって困難に立ち向かい、ここまでやってくることができた、これからも様々な困難に挑戦していきたい"という言葉で締めくくられました。

初めて遭遇してからわずか2年で三越WWFに出展しプレゼンテーションを行うまでになるとは想像もつきませんでした。
これからもますます発展していってほしいと思います。

さて、日を改め…



こちらは別途レポートします。

関連 Web Site

CZAPEK Geneve
https://czapek.com/

Noble Styling
http://noblestyling.com/