ピアジェ: 厚さ2mmのコンセプトウォッチ 「アルティプラノ」アルティメート・コンセプト 日本初上陸 + 910P 実機 拝見!

 By : KIH
さて、筆者の今年のSIHHレポートでも触れていますが、ピアジェが「ムーブメントメーカー」として創業したことをご存知の方はどれくらいいらっしゃるでしょうか?  しつこく言っても皆さんの頭には、「ピアジェは女性ブランドだから」というイメージが染み込んでいますよね。

イメージだからやむを得ないですが、違うんです! ピアジェはムーブメントメーカーなんです!

と、それを証明したかったかのように、ピアジェは今年、当社としては初めての「コンセプト ウォッチ」を発表しました。すなわち、



そうです。「我々(ピアジェ社)は、これ以上どれだけ薄さを追求できるだろうか?」と、開発に4年間をかけて、この厚さがたった2㎜というコンセプト・ウォッチを生み出したのです。

すなわち、これは「自分たちへの挑戦」、そしてその実力を世に問う、という意味で、初めての「コンセプト・ウォッチ」という位置づけで誕生したのです。この時計の市販は予定されていません。しかし、各所に使われている新たな試みや特許機構は、今後のピアジェの薄型ムーブメントに使われることになります(すでにいくつかは「910P」にも搭載済み)。

この「ケースも含めて2㎜」という厚さを可能とした特筆すべき新たな試みや新たな機構はいくつもありますが、その中でも特にお伝えしたい点を、写真やピアジェの用意したスライドを交えてご紹介します。



隣にあるムーブは、1957年発表の「9P」、厚さ2㎜のムーブメントです。60年を経て、時計全体で2㎜を達成したわけですが、60年も前にすでに2㎜厚のムーブメントを世に出していたこと自体が凄すぎです。話はずれますが、昔は時計は小さかったですよね。すなわちムーブメントも小さかった。最近になってやっと減ってきましたが、一時ブームだった「デカ厚」、それはすなわちムーブメントもデカ厚。もちろん機能が多いのであればやむを得ないとしても、シンプルな時計だったら大きく分厚いものよりも小さい薄い時計の方が、よりムーブメント製造技術を感じるのは私だけですかね・・・。



今回、スイス本国から、マーク•メナント(ウォッチマーケティングマネジャー)と、ジェローム•ニコレ(ムーブメント開発責任者)の両氏がそのコンセプトウォッチを持って来日し、プレゼンテーションと、実機をじっくり見せてもらう機会に恵まれました。ある時はコレクター、そしてある時はプレス扱いされるところに、妙なメリットを感じています(むろん、プレスとしてはまったく商売っ気がないので、単なる情熱を持った趣味人として各モデルに接しているところが、皆さんにとってもメリットかな、と)。

さて、コンセプトウォッチ、触ってみました!



横から見ると、あまりに薄くて折れてしまいそうです。

- 実用に耐える硬さにすべく、ケース素材は「コバルト合金」を使用。時計では珍しい合金ですね。
- そもそも普通の時計は4層のサンドイッチ構造(ケースバック、地板、ムーブメント/文字盤/針、風防)が一般的ですが、この時計は2層(ケースバック=地板+ムーブメント+ベゼル、風防)。ケースバックからベゼルやラグまでも一体成型されており、ワンピースケース。
- 普通の革ストラップは厚さが2.7㎜程度。この時計にはそんなに「分厚い」ストラップは使えず、これも新たに開発。ワニの表皮を薄くスライスし、芯にケブラー繊維を入れて強度をつけています。ちなみに、バネ棒も小型ではありますが、従来品です。


ではムーブメントを見て行きましょう。一番目立つこちらから。





一番下に位置する「香箱」。周りを約100個のボールベアリングに囲まれ、巻き芯は丸。巻き芯はケースと一体成型されており、香箱との摩擦を減らす為に、黒くPVD加工されている。

ちなみに、この香箱に使われているメインスプリングも、幅が狭いものではなく、従来品。このコンセプト・ウォッチを作るにあたっては、「できるだけ伝統的時計作りを引き継いで(従来通りの部品、素材、加工方法を使う)挑戦する」ことにこだわったとのこと。



文字盤と、9時位置にあるテンワを囲んで「ブリッジ(受け)」があるのがわかるだろうか。このブリッジ(の厚さ)により、文字盤・針、テンワが風防と当たらないように守られている。












そして、このテンワであるが、緩急針はもちろん、上から押さえてもいない。いわば、フライング テンワ、である。緩衝装置として、ここではテン芯メカニズムは横に揺れてショックを逃がすように設計されている。レギュレーションは、ひげゼンマイ止めを調整して行う。

ちなみに、ここでもひげゼンマイは従来品を使っている、とのこと。シリコンでもないし、特別に薄いものを作ったわけではない。



そして、風防。このクリスタルはケースとパッキン(ガスケット)を挟んで接着剤でくっついているだけである。もっとも、その接着剤や、その塗り方には試行錯誤が繰り返されたとか。

さらに、日本人には大事な話ですが、このクリスタル(含む、内側の各種コーティング)は「日本製」である! 

風防は薄さ0.2㎜!




ちなみに、どうやってこの時計をオーバーホール、修理、調整するのでしょうか?  実際に見せてはもらえなかったが、リューズの上(2時のあたり)に「穴」があり(もちろん、防水性能のために、ガスケットつき)、そこにガスを急速注入して気圧で上にのっているクリスタルを外す、とのこと。ワンピースケースの分解はそもそもそういう感じではありますが・・・。

というこのコンセプト・ウォッチ。リストショットをあと数枚どうぞ。重さも、してるかしていないかわからないくらい軽いです。









ほんとに、紙の上に描かれた模様のようです。軽さはもちろん、極めて二次元に近い外観の時計。最初にも言いましたが、これは実用時計としてのスペックを満たしてはいますが、量産・市販する予定はありません。ピアジェのムーブメント作りの実力を示すのはもちろんですが、今回来日した開発責任者が毎日着用し、長期的な耐久性などを見つつ、中に使われているいくつもの特許をこれからの時計に活用していくのが目的です。




アルティプラノ アルティメート オートマティック 910P

というわけで、その技術の一部を利用している、「アルティプラノ」アルティメート・オートマティック (キャリバー 910P)も実機を初めて触る機会が今回同時にありましたので、ご紹介します。むしろ、今後皆さんの目に触れる機会が多いこちらに注目していただきたいです。コンセプト・ウォッチはすぐにスイスに帰りますが、この910Pは量産され、市販されていますのでお店では是非こちらをチェックしてください。



オートマティックです。全厚4.3㎜。十分薄いですが、これを実現するために、ケースバックが地板を兼ねている点はコンセプト・ウォッチと同様です。果て? そうすると、ローターは? ケースバックが地板ということは、ローターが回るスペースはなさそうですね。写真をよーく見て下さい。一番外側に「910P」と書かれ、白線が入った黒い「輪」があります。これが「ローター」なのです。ペリフェラル・ローターですね。色は黒いですが、24金が使われています。ローターがムーブメントと同じ「面」にあります。そして、ブリッジが文字盤やテンワを守っている点も同様。厚さに余裕があるので、緩急針が使われています。このペリフェラルローターの周りに、実はボールベアリングが使われているのです。早速の応用ですね。

デザインも美しいです。




数年前に発表された900Pという手巻きバージョンよりもじゃっかん大きく、41㎜です。









ブリッジの表面が文字盤よりも上の位置にある(ブリッジの方が厚い)ため、万が一の時にもクリスタル風防から文字盤やテンワなどを守ります。



黒く色がつけられた。24K金のペリフェラルローター。個人的には機構としてのペリフェラルローターは好きです。しかし、時計の径がそれで大きくなるのは悩ましい。。。




でも、よくできてる。きれいな良い時計だと思います。



ピンクゴールドバージョン。


ホワイトゴールドバージョン。







すべての展開図。

厚さ(薄さ?)4.3mm



いかがだったでしょうか。しつこいですが、ピアジェはムーブメントメーカーとしてスタートしました。その薄型ムーブメント製造技術は今でもトップの実力と言っていいでしょう。究極のドレスウォッチとして、一見の価値ありですので是非!



ピアジェ ウェブサイト
https://www.piaget.jp/