レゾナンスの歴史とアーミン・シュトロームによる現代版レゾナンスの神秘 by L’Hiro

 By : Guest Blog

先ごろ開催されたアワーグラス銀座でのイベント、“レゾナンス in GINZA"に参加されたL’Hiro さんより、レゾナンスのヒストリーをテーマとするたいへんに興味深い研究を、ゲスト・ブログにご投稿いただきましたので掲載いたします。




レゾナンスの歴史と
アーミン・シュトロームによる現代版レゾナンスの神秘


The Hour Glassさん主催の アーミン・シュトロームのイベントで、「ミラード・フォース・レゾナンス」の実機を見てきました。まさに、その名のとおり、鏡像的に配置された「エキサイター(励振器)」と「レゾネーター(共振器)」のレゾナンス(共振現象)でした。

ところで、「レゾナンス」とは何でしょう?


言語としてのフランス語を守りその質を維持する団体であるフランス学術界の最高権威を持つアカデミー・フランセーズが出版する辞書によると、「Résonance(レゾナンス)」とは、
「Phénomène d'oscillation caractérisant un système mécanique, électrique ou magnétique qui réagit à une excitation dont la fréquence égale ou avoisine sa fréquence de vibration propre.(等間隔の振動に反応する、また、その振動に同調しようとする二つの近接する振動体の機械的、電気的、磁気的な共振現象)」と表現されています。

簡単に言えば、「近接する二つの振動体は互いに影響をおよぼし、最後には同期する」ということです。
これは天文観測をより正確に行うために、精度の高い振り子時計の開発に没頭していたクリスティアーン・ホイヘンスが見つけた物理現象です。ホイヘンスといえば17世紀に振り子時計を世界で初めて作ったオランダの物理学者であり天文学者です。彼は通貨ユーロになる前のオランダの通貨であるギルダー紙幣に肖像が刷り込まれていたほどの有名人でした。

 
●オランダギルダー紙幣


彼は、Horologium Oscillatorium(振り子時計)という書物(Paris、1673年、First edition)の中で、航海用時計、クロノメーターを考案するために、ガリレオの振り子の等時性の先例にしたがい振子時計の仕組みと振り子の振動の数学的解析法の研究の成果の全てを本書に収めました。
この書物には時計以外の力学に関する新しい知識についても多く書かれています。あまり知られていませんが、ニュートンはこれを活用して万有引力理論を発表しました。

話はそれますが、この書物の原版は日本では金沢工業大学の図書館に所蔵されており、先日まで上野の森美術館で開催されていた「世界を変えた書物展」に展示されていました。

 ●【ピサ大聖堂】振り子の等時性を証明したと言われるイタリアのピサ大聖堂にあるランプ


●【万有引力】


●【ホイヘンス書物】

 

次に、ホイヘンスのレゾナンスの発見経緯を紹介しましょう。
1665年のある日、病で床に伏せているとき、彼はふと 二つの壁掛け時計の振り子の一方が右に振れるタイミングで,もう一方は左に振れ、完全に同期し、「チック」と「タック」が同時に鳴り続けていることに気付きました。
二つの振り子が対称運動を繰り返し、まるで鏡に映った時計を見ているかのようでした。不思議に思った彼は片方の振り子を一瞬止めて、振り子の周期を少しずらしてみましたが、しばらくすると,二つの時計が、また対称な運動に戻っていきました。そのカラクリは双方の時計の振り子が揺れるときの振動が壁で伝わっていて互いに影響し合っていることでした。
つまり、一方の時計の振り子の振動が壁を伝わり、もう一方の時計の振り子を同調させるように影響をおよぼした後、双方の振り子が互いに影響し続けることを発見しました。ホイヘンスは更にこれを深掘りして、この仕組みが時計の精度を落とさなくすることだと見抜きました。

さて、肝心の実機の説明に戻りましょう。

ミラード・フォース・レゾナンスではどのように、この「レゾナンス」を実現しているのでしょうか。極めて簡単に説明しましょう。



●【実機拡大図】

二つのテンプの上を半ばぐるっと蝶の二つの羽のように囲んでいる「バネ」がありますよね。これがスチール素材でできたレゾナンス・クラッチ・スプリングという、ホイヘンスの二つの掛け時計でいうと振り子の振動を伝える「壁」にあたるものです。振動を起こす側のテンプ(励振機)が、振動をレゾナンス・クラッチ・スプリングという「バネ=壁」を通して、もう一方の振動を受ける側のテンプ(共振機)に伝えるということです。
見た目だけでいうと、最初は回転が同期していなかった二つのテンプが、やがて同期し、その後は同期の精度を落とさずに動き続けるということです。

ホイヘンスが発見した「壁」の振動の神秘が「バネ」の振動として目に見えるということは、ある意味、世紀の大発見である物理現象を"見える化"しているという点で凄いことですね。この機構はアーミン・シュトローム社の特許になっているそうですが、それが良く理解できます。
耳では聞こえませんが、ホイヘンス時代の掛け時計の「チック」と「タック」の音の同期が、バネの真ん中部分(バネを蝶に例えると胴体部分)の上下運動をとおして、目に見える動きに変換されたようです。

 

●【実機(蝶胴体】

 

ちなみに、この特殊機構は、世界でレゾナンス時計を公式に販売しているもう一つのF.P.JOURNE社から特許侵害ではないかと言われたそうですが、当局からはアーミン・シュトロームの独自特許として認められたとRegional Market DirectorのC.EMANUEL BITTONさんが仰っていました。
物理の「レゾナンス」の理論を、複雑な特殊機構を裏で使いながら、表では非常に分かりやすく見える化した画期的な逸品でした。

素晴らしかったです。






いかがでしたでしょうか。
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