グルーベル フォルセイ 「QPイクエーション」のチョコレートカラーゴールド文字盤 5Nレッドゴールドバージョンを発表~永久カレンダー機構を振り返る

 By : CC Fan

去年末の時点でSIHH(W&WG)からの脱退を表明していたグルーベル フォルセイ、ワールドツアー方式で4月には日本にも…という事は伺っていましたが、昨今の状況ではそれもなかなか厳しいのではないかと思っています。

さて、そのような状況ではありますが、3月20日の春分の日を祝う形で天文時計のQP イクエーション(QP à Équation)に新しいバリエーションチョコレートカラーゴールド文字盤5Nレッドゴールドケースのバージョンが追加されました。



資料が英語とフランス語しかないため、公式情報を伝えるニュースではなく、ブログという形で紹介いたします。

QPイクエーションのQPは永久カレンダー(quantième perpétuel:フランス語)で、イクエーションは均時差を表します。
複雑な日付計算を行う第7の発明メカニカルコンピュータによって文字盤側にビッグデイト・曜日・月・うるう年が、ムーブメント側に季節・均時差・西暦が表示されています。
個人的には永久カレンダー固有の問題、「合わせにくい」と「壊れやすい」を極限までエンジニアリングによって解決した最もグルーベル フォルセイの姿勢を表した作品ではないかと思っていて、カレンダーウォッチの大傑作だと思っていますし、WMOにも何回か書いてきました。
改めて見てみましょう。

永久カレンダーの問題の根本的な部分は止めてしまったら合わせにくいという事です。
これは古典的な設計では、それぞれの項目を合わせるためのコレクターがケース各部に散っており、なおかつ永久カレンダー特有の月末処理の都合で動かせる順番に制約があるためです。
このために、自動巻きと組み合わせてワインダーを付属させる、手巻きであっても竜頭から巻き上げるワインダーを付属させ、止めなくするという「対処療法」がとられてきておりました。
珍しい方法では、パワーリザーブを伸ばして止まりにくくするというのもありますが、これも万が一止めてしまった場合の合わせにくさは同じです。

月末処理の都合で動かす順番に制約があるという事は裏返すと、間違った順番で動かすと機構内部が変なかみ合わせになって破損してしまうことを表しており、これが壊れやすいという特長にもつながります。

ではQPイクエーションではどうしているのでしょうか?

まず、メカニカルコンピューターすべての表示が連動したシステムであり、外側から送れる信号は日付を一日進める/戻すだけで、それ以外は個別調整できません。
個別調整できないというのは一見すると不便に思えるのですが、西暦まで入れると年・月・日・曜日の組み合わせは一意に定まるので、ある地点で正しい組み合わせから出発して1日ずつ進めていけばずっと正しい組み合わせのままになり、それを繰り返せば「今日」にあわせれば終わり、個別調整の必要はありません。
これによりコレクターがケースわきに乱立することもなく、リュウズのみで調整できるシンプルさを実現しています。
ただ、メカニカルコンピューターが想定していない100年に一度の平年の時には機構内の再調整が必要ではありますが、オーバーホールのついでと考えれば特に問題にはならないでしょうし、次は2100年なので、西暦表示の上の桁を取り換える意味でもどちらにしてもメンテナンスは必要です。

メカニカルコンピューターは特殊な歯形の歯車と両方向に噛み合うデテント(爪)のみで構成されており、旧来の永久カレンダーのような片方向にしか噛み合わないレバーを使っていません、これにより順方向/逆方向どちらの方向にも操作可能(BIDIRECTIONALの書いてある理由)になっており、ちょっと進め過ぎても戻せます。



これは以前に破損覚悟の「いじわる」で送り途中をでリュウズを戻したりした時、このような状態でも表示はズレますが機構内部で変なかみ合わせになり、リュウズから伝わる「嫌な感触」は皆無。
本当に安心して使えると感じました。
また、全てのディスクはメカニカルコンピュータ同軸に重なるような構造なのですがディスクの切りかけを変えることでまるで周辺から登場しているような視覚効果を生んでいます。

さて、メカニカルコンピュータ単体は日付の進み・戻ししかないので破損しにくくなりましたが、カレンダーウォッチはそれ以外にも壊れる要因があります。

まずはリュウズのポジションで日付送りと時合わせを切り替える仕組みです。
1段引きで日付、2段引きで時合わせという組み合わせが多いですが、個人的にはこれ良くないと思っています。
なぜなら夜中の時間は回転させてはいけない制約がある日付の方がアクセスしやすい位置にあり、容易に回転させて破損しうるからです、これを逆にするだけでもだいぶマシでは?ないでしょうか。

QPイクエーションは更に完全を期しています、リュウズ自体は1段引きのポジションしかなく、リュウズ同軸のプッシャーで時合わせ(H/M)とカレンダー日合わせ(QP)のモードを切り替えて設定します。
これにより、「時合わせしようとして日付を進めまくる」という事故も防いでいます(もっとも進めすぎても戻せるので特に害はないのですが)。
更に安全機構が盛り込まれ、7時30分位置の24時間表示で赤色で示される時分針とメカニカルコンピュータが噛み合う22時半から24時少し過ぎの間はQPモードでリュウズが引けなくなります。
これはグランソヌリと同じ、「破損する操作をユーザーに禁止するのではなくそもそもできないようにする」という発想です。

メカニカルコンピューターは厚みはありますが、直径はそこまで大きくないので表示が文字盤全体に散る古典的な永久カレンダーに対し、4時位置に集中する独特の表示を実現、読みやすいと思います。



今までは灰系統のどちらかというとクールな印象だった文字盤にチョコレートカラーを使うことで温かい印象になったと感じます。
針もゴールドで視認性は抜群!
文字盤の要素は一見すると散らかっているように見えつつ、全体としては調和がとれているユニークなバランスです。

コンプリケーションのベースとなるトゥールビヨン24セコンズはトゥールビヨンの回転軸を1軸に減らす代わりに高速回転(24秒で1周)によって姿勢差キャンセル効果とサイズ効率を高いレベルでバランスさせた機構で、グランソヌリやGMTのトゥールビヨン以外のコンプリケーションも持つピースに使われています。



素晴らしく大きな歯車…
グルーベルの世界観は腕時計というよりも古典懐中時計と感じるサイズ感です。
非対称のアシンメトリーケースによって機構をうまく納めています。


最後にQPイクエーションやグランソヌリ、ハンドメイドワンに使われているmillesime(ミレジム)という限定方法について。
これはもともとワイン用語で、収穫年の西暦を表しており、シリアルナンバーや限定番号ではなく「西暦何年に作られた」という形がムーブメントに記載されます(ハンドメイドワンがわかり易い)。
もともと非限定であっても並みのメゾンの限定よりも数が少ないグルーベルフォルセイ、よりキャラクターに合った表現ではないでしょうか?

最後に理解をされに助ける公式動画とスペックを。






実機が紹介できる日を祈って…

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