ヴァシュロン・コンスタンタンの超複雑機構 「レ・キャビノティエ・グランド・コンプリケーション・スプリットセコンド・クロノグラフ -テンポ」のムーブメント構造を探る

 By : CC Fan

24もの複雑機構を搭載するというヴァシュロン・コンスタンタンの新作「“ラ・ミュージック・デュ・タン” レ・キャビノティエ・グランド・コンプリケーション・スプリットセコンド・クロノグラフ -テンポ」

複雑極まりないムーブメントの仕組みを知りたい!という事で、ムーブメントの図にキャプションを入れる「いつもの」方法で分析してみました。
ムーブメントの写真は公開されてはいますが、説明は一切なし、どのように重なっているか?と言う情報すらありません。

まずは外形を。


文字盤には4つのサブダイヤルがあり、左上が時間と24時間表示(GMT)のデュアルタイム表示、右上が分とクロノグラフの30分積算計、左下が永久カレンダーの曜日と日付、右下が永久カレンダーの月と年です。
そしてセンターにあるのはクロノグラフの秒積算計とスプリットセコンド表示になります。
内部の構造を分析したところ、クロノグラフは1つのプッシャーでスタート・ストップ・リセットを行うモノプッシャークロノグラフで、2時位置のプッシャーで操作します。
4時位置のプッシャーはスプリットセコンドの作動ボタンで、モノプッシャークロノグラフの弱点である「いったん止めたら再始動できない」をスプリットの「クロノを止めずにラップタイムを計測する」で補っています。
9時位置にあるのはミニッツリピーターの起動レバーです。



通常であればムーブメントが見えるケースバック側にも文字盤があるダブルフェイスの構造です。
中央にあるのはランニングイクエーション(連続表示均時差)、平均太陽時に均時差を足し合わせた真太陽時を直感的に分かりやすく表示する機構です。
9時位置は日の出と昼の長さの表示、3時位置には日の入りと夜の長さの表示があります。
そして6時位置にはレトログラード表示の高精度(1000年に1日)のレトログラードムーンフェイズがあり、12時位置にはトゥールビヨンが可視化されています。



ストラップに取り付けられたワンタッチ機構により、どちらの面を上にしても使えるようになっています。

「ムーブメントの画像」として5枚の画像がありました、結論から申し上げますとベースのトゥールビヨン・ミニッツリピータームーブメントに、表側に永久カレンダープレートとクロノグラフプレートの2枚、裏側に天文表示プレートの1枚が付いたベースムーブメント 3モジュールという構成になっています。

それでは順を追ってみていきましょう。



まず、ベースになっているのはトゥールビヨンミニッツリピーターのムーブメントです。
最終的には埋まってしまうムーブメントではありますが、ちゃんと各部が仕上げられています。



通常のムーブメント側には通常の計時輪列、トゥールビヨン、リピーターのハンマーとガバナーが配置されています。
後述するようにこちら側には天文プレートが付くため、天文プレートへの出力軸が設けられています。

永久カレンダープレートから折返してきた日付の情報を使い、天文表示へ1年で1周になる回転を送るためのムーブメントを貫通する軸があります。


文字盤側にリピーター機構を配置する古典的なムーブメントです。
時間情報を筒カナから読み取るクオーターカムとミニッツカム、アワーカムがあり、リピーターラックが読み取ることでリピーターを鳴らします。
しかし、外観で見たようにオフセンターの時分表示と上側にプレートが付くため筒カナには針が取り付けられず、出力軸から取り出して使います。

左下に見える軸は裏側の天文表示に日付情報を永久カレンダーモジュールから送るための軸です。


ベースムーブメントの上に重なるのはスプリットセコンドクロノグラフプレートです。


古典的な水平クラッチを用いたクロノグラフで、6時位置にあるトゥールビヨン軸(4番車軸)に中間車を取り付けて入力軸とすると予想されますが、その部品は描かれていません。
水平クラッチで動力の接続と切り離しを行い、中央の秒積算計と右上の30分積算計でクロノグラフ動作を行います。
2時位置のプッシャーを押すたびにコラムホイールが1歯分進み、スタート→ストップ→リセットの状態を繰り返します。
4時位置にスプリット制御のコラムホイールとスプリットを動かすためのペンチとレバーがあり、秒積算計同軸のスプリット歯車を停止させたり開放したりしてスプリット動作を行います。

下にあるベースムーブメントと上側プレートの間をつなぐための中間軸が2つあり、これによって上側のプレートに必要な動力を送っています。
更に、永久カレンダーの日付情報を折返してベースムーブメントを突き抜けて天文モジュールに送るための軸もあります。


クロノグラフプレートの上に、時分・第二時間帯/24時間とパーペチュアルカレンダーのプレートが重なっています。
先程のプレートで中間軸だった部分と秒積算計・スプリットセコンドと30秒積算計の部分は開口部になっています。


パーペチュアルカレンダーは24時間車がレバーを押して日付を送るいわゆるレバー式と呼ばれる形式です。
通常時は日付送りレバーが1日ずつ送るだけですが、月末だけはカムによってより多くの日付が送られることで月末の余計な日付を「早送り」します。
ユニークな点として、年表示(1・2・3・うるう年)が月表示のトルク蓄積による瞬転方式になっており、12か月カムと2月カムは遊星歯車による重ね合わせ方法をとっています(同様の方式は過去にも説明しました)。
これにより、年表示は常にぴったりインデックスにあっており、年末にまとめて進み、ゆっくりと進む通常の永久カレンダーよりも読み取りやすいです。

左上・左下・右下と右上のうちの分表示はこのプレートからの軸が、中央と右上の分積算計はクロノグラフプレートからの軸が担当し、10本もの針を持つ表側の表示が完成します。

日付の歯車に先程のクロノグラフプレートに合った折返し軸が噛み合うことで天文表示に日付情報を送っています。


裏側はトゥールビヨンを可視化するための大きな開口部をもつ半月状のプレートです。
こちらはカムと1年で1周する歯車による表引き動作によって均時差や日の出・日の入り時刻を読み出し、そこからランニングイクエーションや昼の長さ・夜の長さを計算する機械式計算機と言った出で立ちです。


1年で1周する歯車を使い、日の出・日の入り・均時差を動かしています。
このカムは緯度・経度にあわせて作り直す必要があり、この例では「シンガポール」と地名が書かれています。

これらのカムをレバーで読み取り、差動歯車を使った計算機構でそれぞれ必要な情報を作り出します。
時刻に均時差を足したものが連続均時差、日の入りの時刻から日の出の時刻を引いたものが昼の長さ、24時間から昼の長さを引いたものが夜の長さになります。

ムーンフェイズは時刻表示から駆動し、レトログラード表示用のムーンフェイズカムによって29と1/2日後に0に一気に戻るレトログラード表示を行っています。

パワーリザーブ表示はベースムーブメントから送っていると思われるのですが、今回は読み取ることができませんでした。

極めて複雑なムーブメントですが、順を追ってみていけば恐れることは無い…と思い今回は解析しました。
如何だったでしょうか?


【お問い合わせ】
Vacheron Constantin
0120-63-1755(フリーダイヤル)

その他、詳細はオフィシャルサイトにて
www.vacheron-constantin.com