モンブラン ニコラ・バレツキーCEO インタビュー

 By : KIH
今年、2020年は、Watches & Wonders Geneve(旧SIHH)が中止になり、W&Wに出品予定だったブランドはそれぞれが別個に各マーケットにおいて、新作発表をしていくことになった。しかし、旧SIHHのだいご味の1つは、その場で実機を触りながらCEOに直接質問をしたりできたことであった。

残念ながら、今年は(来年はどうなっているだろう・・・)皆さんも、いわゆるテレワークなどでご経験中という情勢であり、在欧州のCEOが来日する状態にはない。むろん、バーチャル新作発表会を行ったブランドもあるだろう。しかし、ほぼ一方通行のコミュニケーションだ。

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しかし、今般、モンブラン ジャパンさんから、若干アナログなやり方ではあるものの、大変うれしいお申し出をいただいた。面と向かってのインタビューの代わりに、本社CEOの二コラ・バレツキーさんへの質問を投げて欲しいということであった。日本のコレクターやファンも忘れていない、という非常に明解なメッセージであり、我々日本の時計好きにとっては、本当にうれしい限りだ(WMOもそれなりに存在感が出てきたということであればさらにうれしい!)。
個人的な経験では、これまでもモンブランはコミュニケーションにおいて、大きなマーケットであるはずの日本をないがしろ(情報が少ない・遅い、素通り、等々)にしていなかった数少ないブランドの1つだ。


では、早速、以下にWMOとバレツキーCEOとの、バーチャルインタビューをどうぞ!


1. モンブランにとって、日本のマーケットは世界の中でどれくらいの位置にいるのですか?
ー 日本は、我々にとって最も重要なマーケットの1つです。日本のお客様やコレクターの皆さんとは、過去数年の間に、素晴らしい関係を築いてきました。これからは、従来以上に日本のマーケットとさらに心を通わせた関係を築くことが重要な時になっている、と考えています。



2. 日本市場は、他のアジア市場と比較して、ユニークな点はありますか?  それら微妙(あるいは大きな)違いに対して、どのように対処されていますか?
ー モンブランは、世界的なブランドで世界中にその存在を知られていて、拠点やブティック、販売店があります。各マーケット(地域)の特性をしっかりと見極めることが非常に重要です。我々は、各地域における顧客はどういった方々なのか、どうやってそれらの方々と最も意味がある方法でつながることができるか、にフォーカスしていて、各国における戦略をそれらの国々に最も適合したやり方に合わせ、それぞれのやり方でお客様との関係を構築していくのです。
日本におけるお客様はとても洗練されていて、非常に勉強もされていて、そして常に好奇心を持って我々のことを見てくださいます。我々の豊かな歴史に深く共感していただきながらも、革新的な製品を評価してくださいます。我々は常に、そんな日本のお客様と、店頭で、あるいはオンラインで、どのようにつながっていけばいいのか、どうやって我々の伝統、歴史、職人魂、デザイン、そして革新性を伝え、共感を呼び込むか、常に考えているのです。


3. モンブランは、どちらかというと、モンブラン ブランド全体でのプロモーションの方が目立ちますね。トータルメンズ「ライフスタイル」ブランドとして、当然のことだとは思いますが、時計ファンとしては、時計だけのプロモーションイベントなどがあると嬉しいのですが。あるいは、そのようなことをしなくても、時計も売れている、ということなのでしょうか。
ー 我々は、160年にわたる最高の時計作りの歴史を持つ「ミネルバ」の伝統を引き継いでいる時計部門を非常に誇りに思っています。我々は世界最高峰の時計展示会であるWatches & Wonders(旧SIHH)に参加することによりその「ミネルバ」銘を冠する時計を作る正当性と高い専門性を示していると考えています。そして、それら世界的な時計展示会の重要性は今後どんどん大きくなっていくでしょう。今年は、Watches & Wondersは非常に特別な方法、デジタル/ インターネットによるバーチャル空間で行われました。これは、時計産業がどんなに苦難の時にも、皆さんとつながることができる新たな方法で克服できることを示しています。
我々のお客様は、時計に精通しており、プロフェッショナルな人も多く、情熱的な時計ファンです。そんなお客様に我々の新作情報をお届けし、最新のイノベーションと情熱をお客様と、お客様の移動を伴わずして共有することはできないか、という点は我々の永続的な努力目標です。最近の数週間・数か月の間に、多くのお客様・コレクターの皆様とオンラインでお会いしました。まだ、次善の策と言わざるを得ませんが、このような時にもお客様とのつながりを保つ素晴らしい方法です。
時計の展示会で実際にお会いすることができる日がすぐ戻ってくるように願っています。


4. モンブラン ブランドの中で、腕時計の「立ち位置」はどのなのでしょう? 現状、メンズ「ライフスタイル」ラインアップの1つであるだけなのか、あるいは、ブランドとしてのターゲット顧客層に対してもっと中心的というかアピールをする位置にあることを望んでいますか? すなわち、革製品を買う顧客に時計ももっと真剣に見てもらい、購入してもらうようなブランド全体の戦略になっていますか、という質問です。
ー モンブランには、3つの大きな柱があります: 万年筆を中心とする筆記具、腕時計、そして革製品です。我々の伝統と遺産は、我々の企業哲学と、扱うすべての製品においてトップレベルの商品を提供するという野心から生まれています。筆記具はハンブルクで作られ、腕時計はスイスのル・ロックル、ヴィルレで手作りされ、そして革製品はフィレンツェの我々の工房で作られています。 我々の製品の3つのカテゴリーはそれぞれから独立していますが、モンブランというメゾンが114年の歴史の中で育んできた開拓者精神を共有しています。
時計部門の「立ち位置」は、「ミネルバ」の伝統に大いに依るところがあります。「ミネルバ」は160年以上のスイス時計作りの歴史と伝統、そして言うまでもなく卓越した匠の技を持っており、我々の時計作りの基礎に常にあるわけです。「ミネルバ」は、モンブランの時計作りの実力をそのまま体現していると言ってもいいでしょう。
結局のところ、このメゾンの素晴らしさは、お客様が、例えば、革製品と腕時計を同じお店 - モンブラン - から選ぶことができる、ということに尽きます。我々の製品の3本柱はお互いに競合しません。むしろ、メンズ「ライフスタイル」ブランドとして、相互補完しているのです。そして、選ぶお客様にだけでなく、我々にもシナジーが当然生まれてきます。例えば、腕時計のストラップは今はすべてフィレンツェの我々の革製品工房で作られています。これら一見独立した3本柱の製品カテゴリーは、お客様にも大きなメリットをもたらしていると同時に、我々にも大きなメリットがあると考えています。


5. その腕時計部門ですが、時計ファンとしては「ミネルバ」と「ル・ロックル」での時計作りをどのように統合していくのか、が非常に気になるところです。伝説的ともいえる「ミネルバ」を、言わば「汎用」とも言える「ル・ロックル」の時計作りにどう活かしていくのか聞かせてください。
ー ミネルバは160年以上途絶えることなく続いた、非常にハイエンドな時計作りをしてきた工房です。ハイコンプリケーションから小さな機能的なコンプリケーションまで、すべてインハウスで、開発・プロトタイプ製作・組み立て、をこなします。一方、ル・ロックルでは、そのような伝統的な時計作りと最新のテクノロジーが合体していて、デザインから開発・プロトタイプ・最終組み立てを行っており、アイコニックなモデルを作るために必要な専門性はすべてここに集中されています(訳注: つまり、ミネルバでは160年の歴史を活かし、今まで通りの伝統的な複雑時計づくりをしており、その伝統的時計作りで作られる部分の一部はル・ロックルに移植あるいは運ばれ、ここでは最新テクノロジーも駆使してモンブランのアイコニックな時計作りを行っている、と理解しました)。革製品はフィレンツェで作られ、筆記具は引き続きハンブルクで作られています。
この3本柱のモノ作りの間でのシナジーを利用していますが、それぞれのカテゴリーについては独立性を維持し、それぞれが最高のパフォーマンスを出せるようなそれぞれの「立ち位置」を考えるのが、我々の使命です。


6. 以前のTime Walkerシリーズのように、新進気鋭の独立時計師とのコラボはまたあるのでしょうか?
ー ミネルバ工房の実力を考えると、今後数年、あるいは数十年にわたって、自分たちだけでイノベーションをもたらすことは可能だと考えています。ですので、今のところ、社外の独立時計師とのコラボレーションは考えていません。ミネルバのムーブメントはすべて手作りであり、我々は非常に誇りを持っています。引き続き、良き伝統にのっとって、新たなイノベーションとそれを活かしたモデルを作り続けます。


7. (しつこくて申し訳ありませんが)「ミネルバ」の立ち位置は今後どうなりますか?
ー 例えば、今回の新作、「1858 スプリットセカンド クロノグラフ 限定100本」など、ミネルバの複雑機構時計は我々のラインアップに非常に大事な位置を占めています。


8. 時計ブランドとしてのモンブランと、メンズ「ライフスタイル」ブランドであるモンブランで、別々の計画がありますか?
ー 3本の柱のカテゴリー、それぞれが特徴と戦略を持っていますが、このメゾンのメッセージは一貫しています:
「情熱、イノベーション、そして卓越性の追求」を我々自身のエネルギーとして、総合的なヨーロッパの職人技を、生涯の友として、世代から世代へと受け継げる製品をお届けする。
従い、細かいところでの戦略の違いはありますが、ブランドとしてのメッセージ、戦略は1つです。


9. サミット ウォッチ(いわゆる、スマートウォッチ)の今後の進化の計画はいかがですか?
ー もちろん、新たなテクノロジー分野へのイノベーションは続けます。我々のような、強力なラグジュアリーブランドで職人技やテクノロジーも持っているプレイヤーには大きなチャンスがあると思っています。テクノロジーを、正当なラグジュアリー製品に組み込んでいくことができるブランドは多くはありません。
もちろん、我々のすべてのカテゴリーはお互い独立して動いています。それぞれの強みを活かして活動しています。しかし、どのカテゴリーも最終的にはこのメゾンの開拓者精神を共有し、常にイノベーションをもたらすべく努力している、ということは間違いありません。


10. しかし、それ(スマートウォッチ)は、総合的な戦略と矛盾しませんか? 先ほどお聞きした「腕時計」の立ち位置についての質問と関係しています
ー 確かに、伝統的な時計作りを確立し、それを腕時計部門の根幹に据えた上での、「スマートウォッチ」の提供は、一見「型破り」に見えるかもしれません。しかし、それは、時計が我々のお客様たちにとっていかに大事なものかということを一層実感させてくれる事象です。今日のデジタル時代には「コネクテッド」技術が必要とされていると同時に伝統的な腕時計の姿と感覚を求めている、ということなのです。我々はお客様の間に生まれてきた、いろいろなニーズを満たしていきたいのです。芸術作品のレベルにある腕時計と、現代の電子製品との比較です。どちらも今の時代、役割があるのです。そして、どちらも我々のお客様の興味の中心に来ているのです。

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以上が、バーチャル インタビューである。同じような質問、少々意地悪な質問や、ミネルバとル・ロックルについてしつこいほど質問してしまったが、すべてバレツキーCEOは懇切丁寧に答えてくれた。こういった、ブランドCEOの真摯な接し方に対してはいつも感謝の気持ちしかない。WMOはまだまだ小さなコミュニティーかもしれないが、ユーザー目線での記事を心掛けており、そんなメディアに真摯に接していただいたことは、読者の皆さんにとっても非常に意味のある事だと思う。しょせん、こういったラグジュアリーブランドも、人と人の関係だと考える。また買いたい、またブティックに行ってみたい、と思わせるのはやはり「誰が相手をしてくれるか」によるだろうし、究極的には、ブランドがどれくらい顧客を大事に思っているか、なのである。それは、こういうCEOの姿から強力なメッセージを感じる。私がいつも使う言葉だが、Buy the watchmaker (people), NOT the watch、は長期的な付き合いには非常に大切なことである。

最後になったが、モンブラン本社のバレツキーCEO、そしてアレンジしていただいたモンブラン ジャパンPRの久井さん、本当にありがとうございました。

バレツキーCEO、次回日本であるいはスイスでお会いすることを楽しみにしています。

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