チャペック アンタークティック SXH5 マイクロローターセンサーセコンドムーブメントを探る

 By : CC Fan

ついに発表されたチャペック初のラグジュアリー・スポーツ、アンタークティック(Antarctique)
今回のバリエーション、テール・アデリー(Terre Adélie)は7月15日までのオーダー受付で最大99本というユニークな方法で販売され、市場からは好意的なレスポンスが得られているとのこと、まずは良い滑り出しでしょうか。

去年のBBQでザビエル(Xavier de Roquemaurel)から、「クロノの次は、ラグスポだ!」とアイディアスケッチを見ながら意見交換をした際に「ラグスポもムーブメントに拘って作る」と伺っていました。
今回発表されたSXH5についていろいろユニークなポイントがあるのでレポートしたいと思います。
ちなみに、クロノのSXH3から1番飛んだのは、砂時計がSXH4だからだそうです。
この番号はムーブメント番号と言うより、プロジェクト番号と捉えた方が良いかもしれません。



まず一目でわかる特徴として、各歯車を独立して支えるスケルトン・ブリッジがあります。
これは、ジュネーブで作られた古典の懐中時計に見られる意匠を取り入れて作られ、よりジュネーブのブランドという事を意識したものだそうです。

また、リサイクル素材で作られた18金マイクロローターによる自動巻きとセンターセコンド表示もあまり見ない組み合わせです。

センターセコンド表示を実現するためには、ムーブの真ん中にある2番車(1時間で1周する)に4番車(1分で1周する)を重ねる方式や、4番車から1:1の中間車で伝える方式などがありますが、SXH5ではそれらを更にアレンジしたような方法を使っています。


巻き上げと計時輪列のトルク伝達を矢印で示しました。
赤色の矢印が本来の計時輪列の流れで、香箱→ムーブメント中央からオフセットした2番車→3番車→4番車→ガンギ車→アンクルとテンプと伝達し、終端の脱進作用により輪列全体が調速されます。
この図で7:30の位置にあるのが本来の4番車であり、ここに針をつければスモールセコンドにはなりますが、センターセコンドにはなりません。

センターに1分で1周の回転を伝えるのが青色の矢印で、2番車らから輪列を分岐させ、センターセコンド用3番車から4番車のピニオンと同じ歯数のセンターセコンドピニオンに回転を伝えます。
香箱から見た加速比は4番車と同じなので、センターセコンドピニオンは1分で1周します。

上面図だと重なりとセンターセコンドピニオンの位置が分かりにくいので斜めから。
2番車に高さの違う3番車2枚が噛み合い、折り返してムーブメント中央のセンターセコンドピニオンに伝わっています。
センターセコンド用3番車ととセンターセコンドピニオンが一番地板に近い位置にあり、本来の3番車と2番車がその上に重なっています。
この図ではほとんど見えませんが、センターセコンドピニオンに圧力をかけて摩擦力でバックラッシによるふらつきを防止するための板バネも設けられています。

3番車を二つにするというのは個人的には見たことない方法です。
4番車を二つはSXH1のスモセコでありましたが…


センターセコンドは同軸構造(秒-分-時)の中心で、地板を突き抜けて文字盤側の一番上まで伝わります。


次に巻き上げについて。
緑色の矢印が自動巻きの力の伝達で、ローターの回転はワンウェイクラッチで1方向のみの回転に整流されたのち、減速輪列で速度を遅くトルクを大きくし、最後に角穴車から香箱を巻き上げます。

紫色がが手巻きの力の伝達で、リュウズの巻き上げの力によって歯車が動き、角穴車に噛み合って巻き上げます。
リュウズに力がかかっていない状態では歯車が外れるため、自動巻きからの巻き上げを妨げることはありません。
逆に手巻きの力もワンウェイクラッチで遮断されるため、マイクロローターまで回転することはありません。

ここまでは分かったのですが、謎が一つ残っており、2番車(分針)の力をどうやって伝えているのかが解けていません。


文字盤側の図は24時間車によるカレンダー送り機構と、カレンダー修正機構以外はプレートに覆われており構造が窺い知れません。
2番車はオフセットしているので、文字盤側に出した後中間車で伝えるか、センターセコンド同様香箱から分岐させるかだとは思うのですが、今回は読み取れませんでした。


向きとスケールを合わせて重ねてみましたが、うーん?
センターセコンドが伝わる様子は分かるのですが…



表裏の対比が取れるような図も、点線でひっくり返す前提です。

2番車の取り回しについてザビエルに質問したところ、コンセプト担当のダニエル・マルティネスに確認して折り返すとのことでした。
本当なら1本にまとめた方がよかったかもしれませんが、センターセコンドの構造が面白かったので取り急ぎレポートします。

最後に、ムーブメント素材について、ブリッジと地板は伝統的な洋白(ジャーマンシルバー)ですが、ビッカース硬度が200以上になるスペシャルな洋白を使っているとのこと。
エマニュエル・ブーシェがどのように関わっているかなどまだまだ気になるポイントはあります。


【関連 Web Site】

CZAPEK Geneve
https://czapek.com/

Noble Styling
http://noblestyling.com/