BaselWorld2018 会場外 エマニュエル・ブーシェ

 By : CC Fan
2018/6/20:追記
ブランドの意向で記事の内容は時計のみにフォーカスしてほしいとのリクエストがありましたので、"奇妙な縁の話"は別の記事に分離させます。
写りが悪かった写真をオフィシャルのものに置き換えました。
2018/6/21:追記
EB02のオフィシャルフォトを追加しました。


バーゼルワールドで偶然が重なり、拝見することができたエマニュエル・ブーシェ(EMMANUEL BOUCHET)のレポートをお送りします。

まずは、エマニュエル・ブーシェというブランドについて。
独立メゾンの"登竜門"的なハリーウィンストンのOPUSプロジェクトでOPUS12を担当した時計師で、寡作ながらユニークな作品を製作しています。
OPUSプロジェクトについては過去にも何度か取り上げています。
このほか、チャペック(CZAPEK)のムーブメントを担当するジャン・フランソワ・モジョンはOPUS X(10)を担当しました。

OPUS12はかっこいい公式動画があるので、先ずはご覧ください。



地動説をからインスピレーションを得て、針とインデックスの関係を反転させた、"コペルニクス的転回"と言える作品です。
中心から伸びた針ではなく、周辺から伸びたインデックスに相当する部品が反転することで時間(ジャンピングアワー相当)と分(5分単位)を表示します。
5分以下は中心のレトログラードの補助ダイヤルとスモールセコンドが表示します。
レトログラードが戻ると長針相当のインデックスが一つ進み、分を表示します。
1時間に一回短針が動くときは単純に一つ進むのではなく、順次短針が回転しながら一周する動きをはさみ、次のインデックスへ進みます。
この瞬間がこの時計の最もドラマティックな動きでしょう。

よく見ると短針と長針は同軸構造で、長針は単純にひっくり返るだけですが、短針は回転して長針の上に出てくるような構造で、表示位置が重なっても長針が短針を隠してしまうことが無いように工夫されています。

機構的に見るとOPUS11までと決定的に違う点として、OPUS11まではコンスタントフォースなどを使い"メインの計時用香箱から何とトルクをねん出して表示機構の動きを作る"という考え方だったのに対し、OPUS12では独立した表示機構用香箱を搭載し、計時用香箱からはタイミングだけもらって独立した速度制御でアニメーションするようになっています。
この香箱は、ガバナーで速度制御されているので、ある意味ソヌリの表示板と言えます。
また、独立した香箱で動きを作っているという点ではオートマタ(からくり人形)の文法ともいえるかもしれません。
トルクを蓄積して何とかするのではなく、"面白い動きをさせたいなら香箱分ければ?"という考え方も、個人的にはコペルニクス的転回です。
この後に発表されたOPUS13とOPUS14も基本的な考え方は同じで、計時輪列と独立したコンプリケーション用の香箱をわけ、面白い動きを作っています。
これを進化とみるか、邪道とみるかは意見が分かれそうですが、個人的には理に叶っていると思っています。

さて、OPUS12(2012年)の後、しばらく作品を発表していませんでしたが、2014年に自身銘で発表したのがコンプリケーション・ワン(COMPLICATION ONE)というあまりにも"まんま"な名前の作品です。



OPUS12ほど複雑ではないですが、この時計も二つの香箱を一種のコンスタントフォースで連結したような構造です。



12時位置にあるのが18,000振動/時の計時用輪列によって駆動されるスモールセコンドで、この輪列が秒ディスクの下にあるルビーでできたルーローの三角形型のカム(ピンク色の部品)を動かします。
このカムがレバーを振ることで、15秒ごとに6時位置にある脱進車の歯が一つずつ解放され、表示用の輪列にタイミング情報だけが伝わるという仕組みです。



表示は時分秒が分離したレギュレーターで、8時位置の時は普通ですが、4時位置の分は10の桁と1の桁を別の針で表示するデシマル表示です。
長い針が1の桁、短い針が10の桁で、59分から00分に代わるときに短い針はレトログラードで帰零します。
慣れが必要でしょうが、確かに60分をこのサイズから読み取るよりは読みやすいでしょう。





サファイアクリスタルの文字盤やオニキスのベースプレート、一見すると奇をてらったようなデザインですがきれいにまとまっていると感じました。
また、コンスタントフォースは露出しており、あまり歯車っぽくないデザインで15秒に1回動くというユニークさが面白いです。

歯車は見えず、連結がうまく隠されており、まるで三角錐で支えられる各要素が"浮いている"ようなデザインです。



ルーローの三角形型カムがレバーを振る様子は伝わりますでしょうか…
ラング&ハイネのものと動作速度は異なりますが、設計としては近いように感じます。

ルーローの三角形カムやレバー、コンスタントフォースの止め石などの色を変えることもできるようです。





非常に特徴的なグリーンにした例。



こちらはよりシンプルなEB02というモデル。



ノーマルな三針のようですが、特徴的なケースデザインと、サファイアクリスタルのダイヤルによる"浮いたような"デザインは踏襲されています。



スモールセコンドが時分針より手前に出ており、分針はスモールセコンドのダイヤルの下を通過するあまり見ないデザインです。



ブラック文字盤のバージョンも。

本業との兼ね合いで酷いスケジュールとか、飛行機ミスとか、いろいろありましたが、こういう出会いがあるので現地に行く大切さを実感した…とまとめます。

関連 Web Site

EMMANUEL BOUCHET
http://www.emmanuelbouchet.com/