第21回 三越ワールドウォッチフェア クドケ ステファン・クドケ氏トークイベント

 By : CC Fan
いよいよ今日(8月27日)までとなった、三越ワールドウォッチフェア、今回は初のオリジナルキャリバーを携えて初来日したクドケ(Kudoke)の時計師、ステファン・クドケ(Stefan Kudoke)氏のトークイベントのレポートをお送りします。



既にラング&ハイネのマルコ・ラング(Marco Lang)氏、イヴ・クドケ(Eve Kudoke)氏を通じて何度もお会いし、お話を伺っていたのでその情報も統合してお送りします。

今年はクドケ名義で独立して10年目の節目となる年で、新たにオリジナルキャリバーの開発に挑戦することに、合わせて初来日が実現しました。



氏は旧東ドイツ出身、修復・復元のお店で学び、時計学校を三番目の成績で卒業しました。
21歳で大手ブランドのプロトタイプを開発するる仕事で修業、その後大学へ進学し、学業の傍らオリジナルの時計を作り始めました。

これまでのキャリアは時計師の中でも、スケルトナイザーと呼ばれるムーブメントに手でスケルトン加工(hand-skeletonized)を施す職人です。
これは大手ブランド・コレクターからの依頼で既存のムーブメントをベースに手でスケルトン加工・彫金し、芸術的な仕上げを行う専門家で、工業的なセンスと芸術的なセンスの両方が問われます。
過去にはそれなりの人数のスケルトナイザーがいたそうですが、高齢化・後継者がいないという問題で現在はクドケ氏の他には一人しか知らないそうです。
ちなみに、マニュファクチュールになる前のアーミン・シュトロームもスケルトナイザーとして知られていました。

現在、工房は氏を含めて二人、年に50本ほどのピースを作っているそうです。



用意されたサンプル。
上半分がスケルトン加工、下半分がオリジナルキャリバーの仕上げです。

まずはスケルトン加工の方から、ムーブメントはETAをベースに、加工します。
最初の段階ではオリジナルの地板の写真をプリントアウトしたものに、スケッチを描き足し、イメージを膨らませます。
この際、穴石の位置は動かせないため、機能と芸術性を両立するためにはどのような造形にすればいいかを検討します。

スケッチが完成するとそのイメージを地板に手で直接描きこみます。
機械を使わず一つずつ描きこむため、それぞれに個性が生まれます。

そして、ドリルで糸鋸を通すための穴をあけ、糸鋸で地板を切り、肉抜きしていきます。
肉抜きが終わると面取り研磨や彫金を施し、最終的なイメージに近づけていきます。
最後に改めて表面にメッキをかけることで完成します。
作品によってはマスキングにより複数色のメッキを使い分け、色のイメージを与えます。



スケルトンの時計。
中央の特徴的な"蛸(octopus)"は時分針もたこ足になっています。
"なぜ蛸?"という質問には、"蛸の足がうねる様子がスケルトン加工に向いているというインスピレーションから生まれた"との回答が。
この蛸の彫金には一週間ほどの時間がかかるそうです。

右のスカルはハンマリング加工による文字盤、時分針も骨です。

ユニークな針も氏が手作りしており、スチール素材を糸鋸で切り、面取り・彫金を施し、最後に青焼きすることで完成します。



真ん中の2本は日本に向けて作ったスペシャルピースとのこと。
一見すると普通の文字盤ですが、ハンマリングによる緻密な表面。



右側の"蛸"は3色のメッキを使い分け、より生き生きとした蛸を表現しています。
そして真ん中が今回の主役、オリジナルキャリバー。

ムーブメント開発にはハブリング・ツー(Habring2)のリチャード・ハブリング氏が協力し、クドケ氏が理想とする意匠を持つムーブメントが完成しました。



ムーブメント名はキャリバー1(Kaliber1)、一見して特徴的なムーブメント中心に配置されたテンプのブリッジを持ちます。
これは古の懐中時計に見られた、プレート上にテンプブリッジを配するデザインをクドケ氏流に再解釈したもの。



発想の基となった懐中時計ムーブメントも。
この構造では輪列とテンプが別のレイヤーに配置されるので厚みが出てしまいますが、クドケ氏は同じレイヤーに配することで厚みを押さえています。



それぞれのパーツの加工前・加工後。

右側のメインのプレートは機械で削り出したものを、まず、砂と油を混ぜたものを使って表面を荒らして梨地にします。
この加工はとても繊細で力加減を間違えると梨地ではなくキズが入ってしまい使い物にならなくなるそうです。
その後面取りを行い、ロジウムメッキ、金メッキをかけて完成。
デザインソースとなった古典的な懐中のような仕上げのプレートが完成します。

左の特徴的なテンワブリッジも同様に、機械で削りだしたものを面取り、エングレーブ、そして再度の面取り後メッキをかけて完成。
削り出し直後からは信じられない美しい彫刻入りのブリッジが完成します。

中央の上に見えるKUDOKE銘のプレートも手彫りで一つずつ彫られています。

中央の中に見える部品は香箱の逆転を防止するコハゼ、小さい部品ですが3/4プレート状になって直接輪列が見えないムーブメントで、人の目に触れる数少ない部品であり、重要です。
面取りと研磨が施されています。

同じくムーブメント表面に露出し、香箱を巻き上げる角穴車もサンバースト仕上げで仕上げられています。



特徴的な意匠が上手くまとまっています。



特徴的なムーブメントに対し、文字盤側は普通…と思わせてユニークな針です。
これは無限大を表す∞(インフィニティーマーク)からインスピレーションを得たオリジナルのデザインで、これも氏が一つずつ加工し、青焼きしているそうです。
まずは少しひねったスタンダードな意匠からスタートし、スケルトナイズも期待できそうです。

個人的にも数学的要素を感じさせる∞針はなかなか惹かれます。

"蛸"やこのようなデザインのインスピレーションはどこから生まれるのか?という質問に対し、氏は自転車競技者でもあり、長距離を走り、疲れ切って、へとへとになっている時にふと浮かぶとのこと。
まさに天啓です。



今回トークイベントを行ったドイツの両雄のサインが!
最終日ですが、是非ご覧いただければ。

「第21回 三越ワールドウオッチフェア~時の伝道~」
会期:8月15日(水)~8月27日(月)10:30~19:00 
(※最終日は18:00終了)
会場:三越日本橋本店 本館7階催物会場

https://premium.lavida.jp/wwg-page/wwf

関連 Web Site (メーカー・代理店)

KUDOKE Handmade in Germany
https://www.kudoke.eu/about-kudoke.html

シェルマン
http://www.shellman.co.jp/

シェルマン クドケ紹介ページ
http://www.shellman.co.jp/item/kudoke/