ショパール:「アルパイン イーグル」の歴史 ー ”祖父、父、息子” ショイフレ家 三世代インタビュー + 本邦初公開字幕付き動画

 By : KIH
 

アルパイン イーグル
ファミリーメンバー インタビュー


左から: ショパール共同社長 カール‐フリードリッヒ・ショイフレ、ショパール会長 カール・ショイフレ、カール‐フリッツ・ショイフレ

会長のカール・ショイフレ氏は最近はあまり表舞台に出てきませんが、工場には毎日正装(スーツにネクタイ)で出勤されているそうです。


受け継がれる紳士たちの物語
「アルパイン イーグル」コレクションの歴史は、一つのファミリーの明確なビジョンと大胆さ、そして同じ決意のもとに結ばれた3世代にわたる男たちのコラボレーションによって築かれた歴史なのです。

「サンモリッツ」のクリエーションにまつわるストーリーを教えてください。
ショパール会長 カール・ショイフレ: 当時、息子のカール-フリードリッヒは、この年頃の例にもれず、野心に燃えた若者で、すべての物事が実現可能だと希望に満ちていました。あふれんばかりのエネルギーで、カーレースやスキーでスピードへの好奇心を満たし、仕事に対しても意欲的に取り組んでいました。当時の息子は、ショパールで一刻も早く自分の成果を実現したく、躍起になっていたのです。

息子は、アートに対し優れたセンスの持ち主だったので、私は彼がショパールには入社せずに、アーティストとして身を立てていくものだと思っていました。現在の彼の様子を見ていて、自分の才能を生かし、それをショパールに捧げている姿は、親として非常に誇りに思います。22歳の時、息子が私のオフィスにやってきて、非常に斬新でモダンな提案をしました。当時、私たちのメゾンはゴールド素材を使ったウォッチのみを生産していたのですが、彼はあえて、スティール製のウォッチを発表したいと語ったのです。「ゴールドと同じようにスティールを使ってみたい。それがこのプロジェクトの最も革新的な部分なのです」。彼には確固たるビジョンがあり、それはまさに企業家としてのアプローチでした。真剣な彼の様子に、自分の若い頃の姿を重ねた私は、彼の提案を受け入れることにしたのです。「サンモリッツ」は、すぐにベストセラーとなり、われわれメゾンの代表的なモデルのひとつとなりました。今回、そのアイコニックな「サンモリッツ」が、新たに生まれ変わることとなったのです。
「サンモリッツ」のデザインアイデアの元となるインスピレーションの源を教えてください。
ショパール共同社長 カール‐フリードリッヒ・ショイフレ: 美しい自然に囲まれたアルプスの素晴らしい環境と、私たちのファミリーが第二の故郷と愛してやまない山村の暮らしにインスピレーションを得て「サンモリッツ」は誕生しました。スイスアルプスは、私たちファミリーが鋭気を養う場所、私自身にとっては自らのクリエイティビティを育む場所なのです。しかし、そこはまた、アルペンスポーツへの情熱を傾けられる場所、スキーまたはシールスキンの防寒具で身を固めトレッキングを堪能できる場所でもあるのです。ご存知のように、ショパールのクリエイティビティは、私たちファミリーの情熱によって育まれ、それこそが最高のウォッチ&ジュエリーコレクションを作るためのインスピレーションの源となっているのです。40年前のアルプス、そしてサンモリッツリゾートの素晴らしい環境が、メゾンの歴史に名を残すウォッチを誕生させたのです。

「サンモリッツ」のリデザインをお父様に依頼した理由を聞かせてください。
カール‐フリッツ・ショイフレ: 5年ほど前、父のデスクに「サンモリッツ」のウォッチが置かれているのを見かけました。私はすぐに、その斬新なデザインと機能的なスクリュー、そして、まるで「第二の皮膚」のような快適な着け心地のブレスレットに魅了されました。「サンモリッツ」は、静けさに包まれた雪で覆われた山中でも、喧噪にあふれた都会の真ん中でも、場所を選ぶことなく、いつでも自分の腕にぴったりとフィットします。「サンモリッツ」を着用してから数日経つと、私は、このウォッチ独自のエッセンスとキャラクターを損なうことなく、ちょっとしたデザインの工夫を凝らし、再解釈をしてみたいと思うようになりました。

リデザインの話に、父は全く興味を示しませんでした。彼にとって、「サンモリッツ」は、誰にも触れさせたくないメゾンの不変の「アイコン」だったからです。それでも私は、自分のアイデアを諦めきれず、父を説得するために、祖父に相談を持ちかけたのです。祖父と私はプロトタイプを制作し、父にプレゼンテーションを行いました。この時、父の表情がぱっと明るくなったのに気付きました。彼は、このウォッチの魅力の可能性を予見し、プロジェクトを進めることを認めてくれました。父から同意を得るまでの道のりは、決して容易ではありませんでしたが、私は自らの信念に従って、説得したのです。そもそも、何でも簡単に進められるやり方など、ショパールの「労して手にする」哲学に反しているのですから。
 

サンモリッツの美しい村から…
さほど遠くない昔、エンガディン峡谷の息を飲むほどに美しい景色が望める小さな山村がありました。そこでの生活はおおらかで、充実した日々を過ごすことができました。村の発展と共に、ここサンモリッツに、スポーツとエレガンスに駆り立てられたエピキュリアンたちが次第に集まってきました。当時のサンモリッツのスピリットから着想を得て、カール‐フリードリッヒ・ショイフレは、サンモリッツのライフスタイルを反映した、シックでありながらスポーティなウォッチのアイデアを生み出しました。「サンモリッツ」は、ショパールが初めてスティールを素材に使用したウォッチで、従来のメゾンのウォッチメイキングとは全く異なるスタイルを採用し、極めて革新的で画期的なモデルでした。
アメリカの建築家であるルイス・サリバンが残した名言「形態は機能に従う」という機能主義のコンセプトに従って作られた「サンモリッツ」。このウォッチの特徴であるベゼル部分に据えられたポリッシュ仕上げの8本のスクリューは、ダイヤルを固定する機能としてだけでなく、優れたデザインエレメントとして完成されています。「サンモリッツ」は世界的に人気を博し、時代を代表するアイコニックなウォッチとなりました。

自然からのインスピレーション
- 太陽に向かって飛ぶことができる唯一の鳥類であるワシの虹彩を彷彿させるテクスチャーの文字盤
- ワシの羽毛から着想を得た秒針
- 100mの防水機能を実現する4カ所のカーディナルポイントを固定する機能的なスクリュー
- リューズに刻まれたコンパスローズ
- 中央に立体的なキャップを冠した一塊のインゴットシェイプのリンク

ショパール ルーセント スティール A223
ゴールドのような重量感と希少性、そして複合組成による強靭性を備えた新たなスティール合金が、4年の歳月を経て研究開発されました。ルネッサンスの錬金術師の夢が、ここに実現したのです。

「ショパール ルーセント スティール A223」は、3つのユニークな特徴を持つ再設計プロセスにより誕生したスティール合金です。低刺激性の合金組成により、サージカルスティールに匹敵する金属特性を持ち、皮膚との適合性が高く、さらに摩耗耐性は50%アップし、高硬度を実現しています。また、優れた均質性を持つ結晶構造と、純度の高さにより、独特の輝きを放ちます。不純物の有無によってダイヤモンドの輝度が変わるように、この革新的なスティールは、従来のスティールと比べて、不純物の混合が極めて低く、ゴールドに匹敵する輝きと光度を実現しています。

この新たな合金を使用してウォッチ製造することは、非常に困難を強いられる作業でした。従来のスティールよりもはるかに硬い素材のため、「アルパイン イーグル」ウォッチの製造には、より多くの時間を要し、加工工具の摩耗も激しいものでした。製品の開発と製造は、極めて複雑なものであると同時に、非常に価値あるものでもありました。この上なく洗練された「ショパール ルーセント スティール A223」は現在、レア&プレシャスメタルに属しています。

インハウスでのハンドクラフト・メイキング
ショパールの高級時計製造に対するコミットメントに忠実な「アルパイン イーグル」ウォッチに搭載された2種類の自動巻きムーブメントは各々、スイスクロノメーター検定局認定クロノメーターです。同検定局に認定された数々のクロノメーターの中でも、最小クラスのひとつとなる直径36mmの「アルパイン イーグル」のケースに搭載された8リーニュのキャリバー 09.01-Cは42時間、また直径41mmケースに搭載されたキャリバー01.01-Cは、60時間のパワーリザーブを実現しています。
垂直統合型の生産体制により、ショパールは、ムーブメントからケース、ブレスレットに至るまで、またスティールやゴールドの素材を問わず、「アルパイン イーグル」のすべてのパーツ製造、および組み立てをインハウスで行っています。

イーグル ウイングス ファウンデーション
「アルパイン イーグル」は、ショパールの主要課題である環境への取り組みを反映したコレクションです。2000年代初頭、カール‐フリードリッヒ・ショイフレは、既にサドルディン・アガ・カーン王子のアルプスの環境問題への取り組みに共感し、「Alps Action Programme」に参加しました。今回、アルプスの自然からインスピ―レーションを得た新作「アルパイン イーグル」ウォッチコレクションを発表するにあたり、彼は、「イーグル ウイングス ファウンデーション」を新たに共同設立することで、このコレクションを新たなサステナブルな活動と結び付けようと考えました。革新的で学際的なこの環境プログラムは、アルプスのビオトープの貴重さと美しさ、その脆弱性に関する人々の意識を高め、保護活動の活性化を意図して立ち上げられました。このプログラムは、5年以上の長期にわたるプログラムとして設立され、人間の視点のみならず、鋭い眼光を放つワシの視点を通じて、アルプスに新たなビジョンを提案します。最初のプロジェクトは、「アルパイン イーグル レース」と呼ばれるもので、5カ国5カ所の有名なアルプスの山頂より飛び立つワシに搭載されたカメラで取得したビデオキャプチャー画像を通じて、アルプスの空中観測を推進します。



以上がニュースリリースであるが、ここでまた魅力を伝える動画を紹介しましょう。字幕付き本邦初公開でしょう。


このアイコンモデルの歴史について:





デザインについて:





そして、時計のディテールを:



とにかく、この新コレクション ローンチにかける意欲は並々ならぬものが感じられる。歴史あり、その現代版デザイン、イノベーション、三代それぞれの思い・・・。前回も申し上げたが、写真だけで「これはいい!」などというウェブサイトでないことはご承知の通り。ぜひ、触っていじって、操作して、時間をかけて(これがミソ)、ご自分で判断していただきたい。私は、30分もいじっていると、その魅力・美学がようやく理解でき、「うーむ」と唸り始めたほど時間はかかった。

ショイフレ家=ショパールには、この家族の情熱を余すことなく実現する余裕がある。これは、いわゆる「コングロマリット系、上場企業」にはできないことである。その点では、いまや非常に数少ない「独立系・創業者オーナー・経営」のブランドである。昼間の仕事にも関係あるので書いてしまうが、「上場する」ってことは、資金を一般株主からもらうかわりに、大きな責任を負うのである(外部株主の多寡に関わらず、日本の上場企業企業はそれをまったく理解していない企業が多い)。すなわち、株主のための経営をしなければ経営者は普通はクビになるのだ(資本市場後進国の日本ではそれはめったに起きないが)。そうならないように、ブランドを創業者が持ち続け、経営もする(すなわち、経営者としての資質を創業家が持ち続けなければならない)、ということはラグジュアリーブランドとして、大きなメリットなのである。この自由度が、時計作りの自由度に活かされることは言うまでもない。

この、Alpine Eagle、是非この好機に羽ばたいてもらいたいものだ。本当の時計好きに持ってもらいたい。