ライネ 初来日レポート ノーブルスタイリングギャラリー&日本橋三越
By : CC Fanバーゼルでの出会いから、ワークショップ訪問、見ようの会でのオーダー、お持ち帰り、ファーストオーダーピースのデリバリー、自分用のカメレオン・カスタム(オマケ)と怒涛の展開をお伝えしてきたフィンランド出身の”普通にいい”時計、ライネ(Laine)、年産20本の生産規模に対し日本から12本のオーダーが行われる良い反響だそうです。
怒涛の1年の締めくくりとして、時計師トースティ・ライネ氏の来日が実現、代理店のノーブルスタイリングさんの直営店 ノーブルスタイリングギャラリーと日本橋三越にてトークショーとオーダーイベントが行われました。
というわけで、密着したのでレポートです。
まずはノーブルスタイリングギャラリーで行われたプレゼンテーション。
創業の経緯、各モデルの紹介が行われました。
もともとIT関係のエンジニア・先生を行っていたライネ氏ですが、40歳の時に新しいことに挑戦することになり、その過程で時計作りを知り、地元フィンランド出身のカリ・ヴティライネンやステファン・サルパネヴァが高い評価を得ていることを知り、さらに、住んでいるところから10kmのところに時計学校があることを知り、書類提出期限の3週間前に出願します。
その後、時計学校で学ぶと同時に、学校のツールを個人的なプロジェクトに使うことが可能だったので、サブプロジェクトとしてクロックを作り始め、3年をかけて完成させます。
遊星歯車機構を備えたクロックです。
そして、ランゲが主宰し、各時計学校の優秀な時計師を競わせるウォルター・ランゲ ウォッチメイキング エクセレンス アワードの2014年の学校代表に選ばれます。
この年のテーマは”ムーンフェイズ”で、ランゲ&ゾーネの資料によると7つの作品がエントリーしたようです。
ベースムーブメントは全てユニタスですが、彼の作品はそのままでもケーシングすれば、売れそうな出来ということがわかるかと思います。
彼が作ったのは表面に地球から見た月(ムーンフェイズ)と裏面に月から見た地球(アースフェイズ)を備えたダブルフェイスの時計…だと思っていたのですが、実はそれに加えもう一つのポエティックな機能が追加されたものでした。
この機能については、完全に見逃していたので別途レポートします。
大きなムーンはMOFを使い、文字盤側にムーンフェイズ。
アポロ計画によって撮影された有名な”地球の出”、これがムーブメント側のアースフェイズの着想となりました。
周期とデザインを計算しているメモ帳。
文字盤側から貫通したシャフトによって駆動される地球ディスク。
ポエティックな機能や機構的な詳細は別にレポートします。
優勝し、賞金の1万ユーロを得て工作機械に投資、更にはランゲ&ゾーネで無試験で入社する権利を得ますが、家族がフランス語圏で生活する準備をしていたことからこれは辞退し、ランゲ社の仕上げ部門でのインターンシップ、ヴティライネンの工房でのインターンシップを経験、その後はフィンランドの時計学校の講師として残る選択肢もあったそうですが、より深い世界に飛び込むためにスイスに移住し、ル・ロックルに工房を構えます。
最初に取り組んだのはバルジュー22をベースにしたクロノグラフ。
アンティークのムーブメントをレストアし、自分で作ったホワイトゴールド製の錘を追加したテンワをはじめとし38個のパーツを新造。
クロノグラフのレバー類も新造。
高級化の定番改造である水平クラッチの軸を4番車と同軸にする改造も行っています。
このクロノグラフは非常に手間がかかり、価格も高くなってしまい、わずか2個が生産されただけ、一つはライネ氏が”名刺代わり”にいつも着用しています。
この後に作られた1817というモデルはユニタスにエングレーブが施されたプレートを追加したムーブメントを備えたモデル。
ユニタスのブリッジは全て作り直し、より古典的な仕上げを行っています。
エングレーブは外注ですが、最終仕上げと電解メッキは自身で行います。
現在のレギュラーモデルはGelidusというモデル。
ラテン語で霜と氷を意味する単語で、ムーブメントとダイヤルのフロスト仕上げからインスピレーションを得ています。
社内製のダイヤルのほか、ギロッシェモデルもあり、ギロッシェは外注ですが、最後のメッキは社内とのこと。
Gelidusのダイヤルの作り方を惜しみなく公開!
まずは3D CADを使い、デザインを起こします。
この時点でブランド名のプレートがはまる凹みも作られています。
これのおかげで、組み合わせやフォントを変えるなど様々なオーダーに対応可能です。
CNCフライス盤を使い、削り出します。
複数の刃物を使い、両面から削り出しを行い、最も細いエンドミルは0.3mmとのこと。
この状態で一気にインデックスまで含めたモノブロック構造を作り出します。
手動のサンドブラストをかけた後。
これによって、凹部のフロスト仕上げが行われます。
この後、色によってメッキまたはPVD処理による着色を行い、フュメ(グラデーション)の場合はそれに加えて回転する旋盤にセットした状態でエアブラシによるグラデーション処理を行います。
最後に、インデックス部と内外周のリング部分表面の塗料を剥離させ、地金を出します。
これによりコントラストに優れたくっきりとした文字盤になります。
このままで参加してくすんでしまうのでラッカーによって保護し、1晩乾燥させたら完成です。
KIHさんによるクロノのリストショット。
ファーストオーダーピースも駆けつけました。
カメレオン・カスタムも並べてしばし歓談。
カメレオン・カスタムに使われているコーティングについてもいくつか伺いました。
ゴールド・フュメなど電解メッキを行う文字盤に対しては地板にシルバー(銀)を使っているそうですが、カメレオンやブルーはアルミ合金A7075、いわゆる超々ジュラルミンを使っているそうです。
これは、PVD処理によるコーティングとの”相性”やA7075は硬いのでサンドブラストの”乗り”が良いなどの理由だそうです。
PVD処理は危険な薬品やプロセスがあるので社内でやるのは”とても無理”で、外部の専門業者を使っているそうで、MB&Fのカラー地板も手掛けているプロだそうです。
また、新しい表現にも挑戦しており、現在のコーティングとハンドエングレーブを組み合わせた文字盤の構想や、深い垂直な彫刻を可能とするファイバーレーザー加工機を導入したという話も…
ムーブメントは言うまでもなく…
改めて確認したところ、大きなブリッジは洋銀に電解メッキ、ガンギとテンワのブリッジは鋼鉄(カーボンスチール)を磨いたもの、銘板はステンレススティールとのこと。
ベースとなるユニタスはクロノメーターグレードなの?と聞いたところ、”多少装飾が入っているだけで他は同じ、どうせ捨てる部分だし、調整しなおすから要らない”とのこと、なるほど…
イベント終了、この後はまあ、Yakitoriですが、カメラを仕舞ってしまったので写真は無し、ライネを葛西氏に紹介したビックカスタマー氏とライネ氏が盛り上がっていました。
日はかわって日本橋三越のイベント。
初来日を祝してギフトが贈られます。
プレゼンテーションはほぼ同じ内容なので割愛。
プレゼン後は私のカメレオン・カスタムも動員されました。
ただ、やはりカスタムで自由度が高すぎる(一個作りの文字盤もOK)というのはなかなか難しい…
恒例となったサイン。
どこに書くのか?と思っていたら、”頂上が空いてるじゃないか!”、起こるどよめき。
やりやがった!
ワールドウォッチフェアから続く時計師イベントの締めくくりとして、とても面白い展開になったかと思います。
この後、会食にご一緒させていただけることになったものの、2時間ほど空き時間ができたのでライネ氏、ノーブルスタイリング葛西氏、山口氏、私という一団でビールを飲みながら次回作の構想を聞いたり、それでも時間がつぶれないので秋葉原まで行って、電気街だったが今はメイドがいっぱいいるんだ!とか説明したり、壽屋(模型店)でウォッチメイキングや什器に使えるものがあるんじゃないか?と廻ったりと、謎の時間つぶしを行いましたが、写真は撮り忘れ…
現在、1日13時間働いているというモーレツなライネ氏、”嬉しい悲鳴”状態のようです。
紹介できてよかったというノーブルスタイリング葛西氏、ちょっと気が早いですが、来年も頑張りましょう!
関連 Web Site
Laine Watches - Independent watchmaker in Switzerland
https://www.lainewatches.com/
Noble Styling
http://noblestyling.com/
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