Maestro 答え合わせ

 By : CC Fan
予測を書いたら、その日の午後(スイス時間では朝)に公式リリースが届くというタイムリーさでクリストフ・クラーレ(CHRISTOPHE CLARET)の新作、マエストロ(Maestro)が発表されました。
公式リリースは英語のものを(意)訳しただけなので、こちらに私の思ったことなど書きたいと思います。

"マエストーゾ(Maestoso)の意匠を活かしてデテント脱進機を外す"という見ればわかるレベルは当たってはいましたが、付加機能については全く外れてしまいました。
そういえば、クラーレは機械式花占いのマルゴ(MARGOT)の"Accessable"バージョンで、Wowエフェクトを使ったメッセージが登場するマルガリート(MARGUERITE)を作っています。

ムーブメントを比較して見てみます。


Maestroのムーブメント DMC16


Maestosoのムーブメント DTC07

輝きが違うようにも見えますが、両方ともCGなので、仕上げの差異などはこの画像からわかりません。
ただ、あくまで似ているのは意匠のみで、細部の構造などは全く違います。

香箱から見ていきます、どちらも縦に2段積み重ねた香箱を中心の角穴車から巻き上げる仕組みです。
巻き芯の位置が違うためブリッジの高さなど細部が異なりますが、似たような構造に見えます。
出力は香箱のサイドに切られた香箱車にピニオンが噛み合う方式ですが、DMC16の方はピニオンが上側にしかないのが気になります。

香箱出力のピニオンがそのまま時分針を回す軸となり、本来は文字盤側にある筒カナ相当の部品や日の裏車は逆にケースバック側に配置されています。
通常は内側から二番車の芯→筒カナ→筒車という順番で配置されますが、ケースバック側に配置しているため、二番車の芯が一番外→筒カナ相当の部品→筒車になり、一番中心が時針になります。
クラーレのアップサイドダウン(ソプラノやトゥールビヨンエボーシュ)はすべてこの方式で時針が分針の上になっているので見分けやすいです。

DTC07では2番車は4時側のコンスタントフォース機構の入力軸(フローティング機構の軸を兼ねる)に接続された以降も文字盤側でトルクが伝達されますが、DMC16では3番車以降はケースバック側か地板の中に輪列が組まれているようで、ガンギ車に到達するまで歯車を確認することはできません。


Maestro ケースバック側


Maestoso ケースバック側

マエストロはカレンダー機構や"MEMO"機構の輪列が裏面にあるためブリッジが組まれていますが、マエストーゾはフローティング機構の支持バネとリュウズ周りの機構以外は地板のみです。

マエストーゾはデテント脱進機を腕時計に載せるためのフローティング紀行やトルクを安定させるコンスタントフォースが場所を取るため文字盤側には、これ以上機能を載せらなかったようです。
某ブランドに供給したウェストミンスターミニッツリピーター付タイプはソプラノ相当のモジュール構造をケースバック側に追加し、ハンマーは9時位置のブリッジの根元しかない部分を削って配置した構造です。

対してマエストロはデテント脱進機を通常のスイスレバー脱進機に変更したことで空いたスペースに独特のビックデイトとユニークなコンプリケーション"MEMO"を追加しました。
また、クラシカルの意匠のために2Hz(4振動/秒 14,400振動/時)だった振動数は一般的な3Hz(6振動/秒 21,600振動/時)に上げられています。
しかし、自社製テンワやシリンダー型ヒゲゼンマイ、マイクロメトリックウォームによる緩急調整などはそのまま引き継がれています。

コンプリケーションについて、先ずはビックデイトから見てみましょう。
様々な実装・表現方法があるビッグデイトですが、この表現はなかなか新しいのではないでしょうか。
円筒によるカレンダーはクラーレがムーブメント作成を担当したJean Dunandシャバカ(SHABAKA)で実現させていますが、このような円錐のオブジェとして表現したものはいまだ聞いたことがありませんでした。
ケースバック側の向かって左下に見える大きな歯車は各桁の送りを制御するプログラミング車のようで、ビックデイトの仕組みを直接観察することができます。

そしていまいち全容が掴めない"MEMO"コンプリケーションです。
これは昨今のスマートウォッチなどに搭載されている目標管理を機械式時計の仕組みで実現したもののようで、自動リセット付きのカウンタとでも言うべき機能でしょうか。


3時と4時の間の円錐が"MEMO"コンプリケーション

"MEMO"の円錐上には、ルビーまたはサファイヤとダイヤモンドで作られた三角形(矢印?)が備えられ、目標を達成するたびにボタンを押すたびに円錐が回転し、現在の進捗を表示するという仕組みです。
アプリと同様に一日単位で目標を管理するために、日付が変わるとカレンダーと同様の半瞬転システムにより、自動的にリセットされ、次の日に備えると言う訳です。
機能としてはカレンダーの一部とみなせると思います。
カウンタを設けた時計といえば、グラスヒュッテ・オリジナル(GLASHÜTTE ORIGINAL)のパノマティック・カウンターXL(00~99をUp/Down/Resetできるカウンタを搭載)という前例がありますが、カレンダーに連動してリセットされるというところ新規性ではないでしょうか。

プッシャーはデイト送りと"MEMO"のアクティベートがそれぞれ設けれれています。

全体としては"Accessable Pieace"であっても他社と違う事を入れたがるクラーレの個性がうまくハマったのではないかと思います。
私は既存のケースも好きですが、如何せん大きすぎると言う事であまり日本の愛好家に受け入れられていませんでした。
マエストロは厚みは相変わらず大きいですが、45mmのケース径が42mmになっただけでも日本の愛好家には訴えるのではないかと思います。

ここからは気になった点です。
個人的に一番残念に感じたのが、クラーレの特徴でもある2トーンの針で貴石を使うのをやめてしまったことです。
カンタロスや旧ソプラノではルビーやサファイヤを使っていました、アレグロや新ソプラノでは"ラッカー"サファイヤ(おそらく透明なサファイヤにラッカーで裏面から色を付けたもの)に変わり、マエストロではアノダイズド処理で色を付けたアルミニウムになりました。
ルビーは硬い割には割れやすく、組み立て性に問題があるのはわかるのですが、ここは拘ってほしかったかなと。
また、クラーレの"お家芸"であるサファイアクリスタルを使ったブリッジも使われていません。

予測記事で心配していた部品数が多すぎるというやらかしですが、ムーブメント部品数は342個と、301個のマエストーゾより多いです。
ただ、マエストーゾはほとんどがメインのデテント脱進機とコンスタントフォース部分の部品だと思われるのに対し、複雑なのは切り替え時以外は負荷がかからないカレンダー機構であればまだ大丈夫ではないかと思われます。
メインの輪列は信頼性のあるスイスレバー脱進機ですし、コンスタントフォースもついてません。

個人的にはカンタロスやゲーミングピースの一部以来久しぶりにフルチタンケースがラインナップされたのがうれしいところです。
とりあえずSIHHにて実機を見られるのが楽しみです。


チタンバージョン (記事内でRGを使ったのはマエストーゾとの比較のため)

2017年1月12日追記 公式PVが公開されました
2017年1月30日追記 公式PVをYouTubeへのリンクへ変更しました



文章だけでは分かり辛かったビッグデイトや"MEMO"コンプリケーションの動きが分かります。
ビッグデイトは10の桁と1の桁が逆向きに回ると言う事に気が付いていませんでした。

"MEMO"コンプリケーションはステップ状に回転するかと思っていましたが、一気に半回転してます。
"全ての課題を解決したら押す"と言った使い方でしょうか。

角度を変えながら見ると新しいケースが良さげに見えてきます…
ドーム状のベゼルレス・インナーベゼルという構造は良いのかもしません。


関連 Web Site (メーカー・代理店)

CHRISTOPHE CLARET
http://www.christopheclaret.com/

Noble Styling Inc.
http://noblestyling.com/