ラング&ハイネ ラウンチング・レセプション アウグストゥスI世実機 レポート

 By : CC Fan
2017年9月25日追記:ムーブメントの解説に図版を追加し、期間限定の情報を削除しました。


当サイトでも告知していました、ラング&ハイネの代理店移管に伴うラウンチング・レセプションが恵比寿のウェスティン・ホテル東京にて21日に行われました。
当日の様子とユニークなカレンダー・コンプリケーションを持つアウグストゥスI世(Augustus)の実機写真・機構のレポートをお届けしたいと思います。


公式什器に収まったゲオルグ(George)

今回のイベントは2部構成で、まずはホテル1階のノーブルスタイリング・ギャラリーにて時計師であり代表のマルコ・ラング(Marco Lang)氏より、ブランドのプレゼンテーションが行われました。


プレゼンテーションの様子

この時点でギャラリー内は移動も困難なほど満員の大盛況で、注目度の高さが伺えました。
コレクターやプレスだけではなく、有名時計店・デパートのバイヤーの方々の姿も…

ラング氏のお話はこのような形で、日本に来たのは約10年ぶりということから始まりました。
日本ではコレクターが評価してくださり、常に好調だったそうです、しかし本国のドイツでも評価されるように頑張って、気が付いたら10年以上たってしまい申し訳ないとのことでした。

ラング&ハイネ社は従業員18名の小さな工房で、うち5人が時計師の資格を持っているそうです。
年産生産量は現在は多くても50本、数はもう少しは増やしたいと思ってはいるそうですが、クオリティを下げてまで数を追うことは絶対にしたくないということでした。

個人的にはテクノロジーとの関わりの話が興味深かったです。
曰く、『アブラアム=ルイ・ブレゲは当時の最先端の技術を使って時計を作っていました。しかし、もし彼が現在に生きていたとしたら、間違いなく、CNC旋盤(Computerized Numerical Control=コンピュータ数値制御)や3D CAD(3‐Dementional Computer-Aided Design=三次元コンピュータ支援設計)を使って、芸術品のような作品を作っていたことでしょう。わたしたちは現在の最先端のテクノロジーを使って時計を製作しますが、その完成度を高める姿勢や時計に対する情熱は、当時のブレゲとまったく変わらないのです』とのことで、あくまで"手段"としてテクノロジーを積極的に使い、"目的"である時計の完成度が上がれば良いというスタンスのようです。
カタログでも伝統的な技法と合わせて1/1000ミリメートルの精度における最新のCNC技術についても触れらています。
このような目的と手段を分けるロジカルな考え(ドイツ的?)は個人的に非常に良いと思いますし、出来上がっている作品の質を見れば全く文句のつけようがありません。


プレゼンテーション後のマルコ氏

プレゼンテーションの後、ホテル内の"ドレスデンらしさ"を演出されたクリスタル・ルームにて移動し、立食形式で時計を見られるレセプションが行われました。



まずは集合写真を!



表だけではなく裏も!



こちらはイベント終盤に"全員集合"させていただいて撮影しました。
各ピースの概要は来日ピース決定の記事にてまとめてありますので、よろしけばご覧ください。

別ショットでコンプリ集団も!



同じく裏も!



会場のクリスタル・ルームはその名の通り、クリスタルのシャンデリア。



きれいなんですが、写真に光点として写りこみます…



ドレスデンのビジュアルイメージ。



ドレスデン城の"君主の行進"の壁画の写真も。
マイセンのタイルで歴代の王が描かれ、基本的に大きく描かれている王ほど影響力が大きかったそうです(a-lsさん談)。
各ピースはこの歴代の王のエピソードからインスピレーションを得て名づけられています。

会場の全景はこんな感じです。
こうやって見直すと、部屋の内装とかもドイツっぽいと感じます。



「時計に関してはすべてオープンですので、どんな些細な質問でもマルコがお答えします」とアナウンスされていた通り、時計を手に取って自らプレゼンしてくれます。



テーブルにもLANG & HEYNE DRESDENのロゴが。

さて、今回は貴重な特別モデル、アウグストゥスI世 (Augustus)の実機が来日しました。
このモデルは機構がカタログだけでは理解できなかったので、詳細を知りたいと思っていました。



ケースバック側から見ていきます。
先ほどの集合写真でも、明らかに他と異なる意匠を放っていたのに気が付かれたかもしれません。



基本的な輪列のレイアウトはほかのムーブメントと同様ですが、18金ローズゴールドで作られ、フローラルオーナメントのハンドエングレーブが施された特別なブリッジを持ちます。
地板もブリッジとのコントラストを強調するためかゴールドではなくシルバーで仕上げられています。
細かいところではリュウズがセレクター式(後述)になっているため、リュウズ周りの部品も変更されています。

ちなみに、全てのモデルで大きな歯車は14金・小さいピニオンは鉄で作られています。
金というと柔らかいイメージですが、使用している14金はビッカース硬度で言えば、真鍮よりも固く(具体的な数値は失念)、徹底した研磨と合わせ耐久性は高いとのことです。



青焼きの針が時分針で、それ以外の金の針はすべてカレンダーコンプリケーションに関連する針になります。
白文字盤に対し、時分針はコントラストが高い青色、それ以外はコントラストが低めの金色となっているため、針の多さほどうるさいとは感じませんでした。



カタログによるとこの機能はリマインダー機能と呼ばれています。
実際に触ったり、お話を伺い、より詳細に分けると以下の機能を統合したものです。
  1. 最大12個のイベントの年・月・日を機械的に記憶したプログラムリング
  2. 1のうち一つだけを選び12時の小窓に年・月・日、6時の小窓にイベント名を表示
  3. フルカレンダー
    1. 日(9時半位置・レトログラード針)
    2. 月(12時位置・レトログラード針)
    3. 年(3時位置・小窓表示)
  4. 2と3.3の年の差を表示する二つのサブダイヤル(7時位置に十の桁・5時位置に一の桁)
  5. 2の月に相当する位置を3.2に重ねて表示する針
  6. 時合わせ・巻き上げ・年の選択・イベントの選択・日付合わせを切り替えるためのセレクター(2時半位置)
一つずつ見ていきましょう。
まず最大の特徴である1のプログラムリングです。

見ての通り、イベント名と日付が書いてあり、窓位置に合わせてうまく表示されるようになっています。

例えば6時がL&Hという表示の時、12時は5 MAY 01(2001年5月1日)が表示され、これは工房設立の日です。
ディスクの裏にはイベントの以下の情報に相当したピンで読むための溝が切られています。
  • イベントが起きた年の10の位
  • イベントが起きた年の1の位
  • イベントが起きた月日が一年365日(366日)の中でどこに位置するか
この溝は個別に切ってあるわけではなく、同じ溝で読む位置(位相)を変えることで一つの溝に3種類の情報を畳み込んでいるようです(そう考えた理由は後述)。

ちなみに最大は12個ですが、減らす分にはブランク(イベント名なし・日付は適当な値またはキリの良い値)を作れば簡単に減らせるそうです。
例えば一つ置きにブランクとか、単なるカレンダーとして使うためのポジションを用意するとか…

2のイベント名の選択は簡単で、ディスク内側の歯車から回し、12か所のノッチに規制バネが引っかかることで所定の位置で止めています。

3のフルカレンダーは表示がレトログラードになってはいますが、普通のカレンダーです。
ムーブメント図を見てみます。

9時半位置の日に関してはレトログラードのためのスネイルカムが見えているのでわかりやすいです。
12時位置の月は月末に送るのではなく、日ごとに少しずつ進んでいくタイプで、これは後述するイベントの月表示との兼ね合いです。

年ディスク自体は20年分の表示のため、20年に一回交換が必要なようです。

4の差を表示する機能は1のプログラムリングと並び、この機構のキモです。
これを実現しているのが、表示の真下にある二つの差動歯車機構です。
差動歯車機構については以前、クラーレのデュアル・トゥマニュファクチュール・ロワイヤルのミクロメガスで少し触れました、ここではその名前の通り入力(角度)の差を取る機構と思ってください。

入力される差の片方は年ディスクからの現在の年入力です。
まず一の位に年ディスクから適切な変速を経て入力が入り、一の位の回転を10:1に減速したものが十の位に繋がります。
もう片方の入力はプログラムリングの溝に記録されたイベントの年情報です。
差動歯車機構の上部、銀色のブリッジの上にピンの様なものが見えるのがわかりますでしょうか?
これがプログラムリングの溝から情報を読み取るためのピンです。
先ほど、"同じ溝に情報を畳み込んでいる"といった理由は、明らかにプログラムリングの同じ半径の場所から読んでいるため、別の溝にするのは不可能だと考えたからです。
針につながる出力軸に取り付けられた二つのひげゼンマイは差動歯車機構または読み取りピンに一定方向のテンションをかけ、衝撃などでガタつくことが無いようにしているようです。

これで"現在の年-イベントの年"という計算が機械的にでき、7時位置・5時位置のサブダイヤルに差を表示します。

5の月を針で表示する機能はよりシンプルで、溝を読んだ結果でそのまま針を動かします。
ムーブメント上でも12時位置にピンが付いた歯車でピニオンを動かしている部品が見えます。

こちらも、バネで一定方向にテンションをかけています。
表示するのは月のダイヤルですが、カレンダーとイベント表示は両方とも月ごとではなく、日ごとに動く連続的な動きのため、相対的には日レベルまで確認できるようです。

溝が一本のため、ディスクを動かしていると現在の値から次の値に直接的に変化するのではなく、予想不可能(もしかしたらこれも計算して溝を切ってるかもしれませんが…)なユニークな動きで二つの年の差と月表示の針が動き、非常に面白いです。

6のセレクターはこの時計の使いやすさにかかわる部分です。
ここまで複雑な時計だと、リュウズは時合わせと巻き上げのみとして、ほかの修正はプッシャーかボタンを別に用意するのが常套手段ですが、使いやすさを考えるとリュウズで全部できる方がよいはずです。
解決方法として、リュウズ同軸のプッシャーを押すと5つのモード(時合わせ・巻き上げ・年の選択・イベントの選択・日付合わせ)が順次切り替わるようにしてあり、2時半位置のレトログラードサブダイヤルでモードを確認しながら操作できます。
このサブダイヤルは9時半の日表示と良いバランスになっており、全体のデザインをまとめています。

ムーブメント上では3時位置にあるコラムホイール状の部品がムーブメントの各部に伸びた先端にピニオンが付いたアームを制御し、操作対象を切り替える機構になっており、何気にこの機構はかなり大がかりです。

部品数はムーブメント全体で約340個、カレンダーとしてみると永久カレンダーよりもシンプルかもしれませんが、"ほかに比類するものがないユニークなコンプリケーション"として考えると非常に価値があると言えると思いました。

今回実機に触れて、ド直球の古典派に見えて、どこかひねりを加えたようなコンプリケーションとしてまとめていると強く感じました。
カレンダーの上位機能として永久カレンダーを作るのではなく、リマインダー機能という新解釈を加えたアウグストゥスI世や太陽の入射角表示を加えたモーリッツ(Moritz)が特に特徴的でしょうか。



モーリッツはシャンルベ・エナメルで作られたディスクの美しさもありますが、ムーンフェイズと太陽の入射角表示がバランスすることでダイヤル全体のバランスがよく取れていると感じます。



こちらのムーブメントはTheドイツ時計といった感じです。

太陽の入射角表示は基本的な原理は均時差表示とほぼ同じですが、カムのプロファイルと見せ方で全く違う機能性を持たせています。

今年の新作、ゲオルグ(George)も単なる角形ではなく、見せ方を変えています。
時分針をわずかにオフセットさせ、時間のインデックスをほぼ正方形にし、その代わりスモールセコンドをかなり大きくしています。



個人的には角型でも針が円上を回るのでどうしても到達しない角の部分で間延びしているように見えてましたが、これはかなり良いバランスに見えます。



ムーブメントも軸位置に合わせて最適化されており、余計な中間車はありません。

今回のイベントは既にラング&ハイネをお持ちのオーナーさんも参加され、マルコ氏とのコミュニケーションをとっていたのが印象的でした。
代理店移管についてもネガティブな感じではなく、名古屋のTANAKAさんからのお話で今回の移管に至ったと伺いました。
既存ピースのサービス継続はもちろん、今までの販売も継続する方向で検討しているそうです。

お問い合わせ : 
株式会社 ノーブルスタイリング
東京都目黒区三田1-4-1 ウェスティンホテル東京1F
TEL 03-6277-1604   mail info@noblestyling.com

ここから先は完全な余談です。

イベント終了後はギャラリー中央のケースが空というかなり珍しい状態に。



ギャラリーを象徴する作り手にはマルコ氏も。
(もともとこの位置にいた某氏はお休み中です…)



イベント終了後、ノーブルスタイリングさんの十八番であるアットホームなYAKITORI Partyにご一緒させていただきました。



我がチャペックのケ・デ・ベルクをルーペで鑑賞するマルコ氏。
左はマーケティング担当のイヴ・クドケ氏。

ありがとうございました!

関連 Web Site (メーカー・代理店)
Lang&Heyne(本国サイト・日本語)
http://www.lang-und-heyne.de/ja/

Noble Styling
http://noblestyling.com/