ショパール: フル ストライク 実機を見て、触って、聴いてきました!

 By : KIH
ショパール - 皆さんはどのようなイメージをお持ちだろうか。このウェブサイトを見に来るくらいの方たちですから、「時計ブランド」というご認識はあると思います。しかし、彼らが作る、特に「L.U.C(創業者である、Luis Ulysse Chopard - ルイ・ユリス・ショパール - の頭文字)シリーズ」の時計の素晴らしさというか、時計好きから見た「出来の良さ」についてはあまり知られていないかもしれません。それらについては、開発や製作にどれだけ手間とカネをかけているか、という点に凝縮されますが、それは家族経営(第三者の株主がいない)の良さというか凄さでもあります。

ショパールという時計ブランド自体は1860年創業です。しかし、3代目以降後継ぎがいなくなり、現在のオーナーである、ショイフレ家に買収されました。1963年のことです。ショイフレ家はそれまでドイツのフォルツハイムで時計・宝飾を製造していました。合併後、会社は成長し自らの製造拠点として、フルーリエにマニュファクチュールを設立したのが1996年です。このマニュファクチュールでは主にL.U.Cシリーズが作られています。(その他の拠点では、L.U.Cシリーズ以外の時計・ジュエリーが作られています)。

さて、今般というか昨年になりますが、このフルーリエ マニュファクチュール設立20周年を記念して、メゾン初のミニッツ・リピーター、それもいくつもの世界初の技術を駆使した、「L.U.C フル ストライク」を昨年11月に発表しました。17000時間にもわたる開発期間を経て世に出された、しかもたった20個限定の時計を見て、触って、聴いてきました。





このプロトタイプは、現在1つしかなく、常にカール・フリードリッヒ・ショイフレ共同社長が着けており、世界中を回っているのですが、今回はちょっと時間がかかって、ようやく日本にも来た、というわけ。今回は社長が一緒に来れず、それを手放すときには「早く返してくれよ」と寂しそうに言ったそうです・・。

さて、ようやく来たフル ストライク、満を持して我々もお呼ばれして取材してきました。持ち時間は1時間! 注目度が高いですから、押すな押すなの大行列です。限定20個で、果たして日本にはいくつ配分があるのか・・・。

プレゼンテーションをしてくれたのは、ジュネーブからきたPau Infante氏。L.U.Cのインターナショナル セールス マネージャー。L.U.Cシリーズと、その他のミッレミリアやハッピーシリーズとは、高精度機械式時計の「格」として、まったく別に扱っているのです。


1.デザイン
まず、L.U.CシリーズのDNA。まさにケースを横から見れば一目瞭然ですね。




縦に走るサテン仕上げ。ラグが描くカーブによって、手首にしっくり。大きめの時計と思いきや、着け心地は抜群です。

このモデルのデザインの特徴は、ハーフ オープンダイヤル によって、「ハンマー」や「ガバナー」がダイヤル面から見えるようになっていること。もちろん、このデザインには賛否両論があるでしょう。しかし、伝統的ミニッツ・リピーターデザインにこだわるより、より「見ていて楽しい」デザインになり、これもショパールらしい、と思います。何より、ハンマーが前に出てきていることには理由があるのです(後述)。



右上、2時の位置にご注目。


パワーリザーブメーターですが、内側が時計のパワーリザーブメーターで、フルに巻くと約60時間。そして、外側のチャイムのマークも入った青いメーターは、チャイム用のパワーリザーブメーター。どれくらいのパワーリザーブがあるかというと、12時59分のチャイム(12回の低音、3回の高音・低音コンビ、14回の高音)を12回鳴らせるだけのパワーリザーブ、とのこと。

で、皆さん、お気づきの通り(上記、横から見た姿比べの写真)、このミニッツ・リピーターには「レバー」がありません。多くの伝統的ミニッツ・リピーターは、レバーを押し上げる(押し下げるタイプもありますね)ことによって、チャイムを鳴らすエネルギーをためるわけですが、この フル ストライク は、リューズでパワーを巻き上げるのです。3つ並んだ写真を見れば、このモデルは妙にリューズが大きいのがわかると思います。レバーがないことにより、防水性能も高まります。

リューズを時計回りに巻くと時計のパワーを巻き上げ、反時計回りに巻くとミニッツ・リピーターのパワーを巻き上げることになります。ダブルバレルですが、それぞれ、時計用、ミニッツリピーター用、となっています。


取材時には見ることはできませんでしたが、こちらの時計は、箱もまた特別でして、大きな箱の下半分は、リュート(ギターというか、チェロというか、弦楽器の1つです)をフルーリエ近郊で製作している工房に頼んで作ってもらった箱で、すなわち、それに乗せてミニッツ・リピーターを鳴らせば、自然のアンプのような働きで美しい音が一層大きな音で聞こえる、という気の利いた箱だそう。うーん。見てみたい。そこで鳴らしてみたい・・・。


2.機構
上述のように、同軸のパワーリザーブメーター、大きめのハンマーがダイヤル側から見えること、そしてガバナーが非常に静か(というか聞こえない)。

このキャリバーは、20年間のフルーリエ工場製作のL.U.Cシリーズとしては11個目(バリエーションを含めると約80とか)。

さらに、高精度・高信頼性にこだわるL.U.CはCOSC(スイス クロノメーター検定)と、ジュネーブ・シールの両方を取得しており、このキャリバーも例外ではありません。ジュネーブ・シールの厳しさは、部品を交換したら、再度申請し直さなければならない、というほど。

フル ストライクは、実は世界で初めての、COSCとジュネーブ・シールを取得したミニッツ・リピーターなのです!


リューズが大きいですね。その真ん中にあるのがモノプッシャーのミニッツ・リピーターのボタン。
テンワの右横の受けにポチっとあるのがジュネーブ・シール。
CHRONOMETER、L.U.C ロゴ、ジュネーブ・シール



あと忘れてはならないのは、「モノブロッククリスタル」というモノ。すなわち、ガラス表面のクリスタルは、ダイヤル横に配置されたゴング(9時と11時の位置にあるハンマーが叩く「音の源泉」)とが一体成型されているのです。この製法は特許申請中。3年かかったとか。



そして、わかりにくいですが、時・クオーター(15分ごと)、分をチャイム機構に連動させる機構が、この3種類の情報が同軸の歯車、ラチェットで行われています。すなわち、一貫したスピード、リズムで、時、クオーター、分を鳴らすことを確実にしているというわけ。




3.音
音ももちろん、こだわるべき点の最たるものの1つ。ショパールでは、高音と低音とで組み合わされる音を以下のように決めました。音の大きさは50-70デシベル、周波数は1000から3000ヘルツ。これが最も「心地よい」音、と彼らは感じて決めたわけです。できたもの、このプロトタイプですが、低音は2300ヘルツで、63デシベル、高音は2700ヘルツで、65デシベル。理想的な範囲に入っています。

先述のように、クリスタルを一体成型してできたゴングですので、伝統的なミニッツ・リピーターと違って、個体差はそれほどないようです。もちろん、機械で測れば多少の違いはあるものの、ゴング自体同じ製法で同じ位置に同じ材質で作られるわけですから、音質には個体差はほとんどない、と言っていいでしょう。

クリスタルでできたゴング部分は、スティール製のハンマーで150万回の衝撃を与えるというテストでも損傷はありませんでした。ゴングとガラスの一体成型にあたっては、加工技術と人間の技の十分な開発に3年以上を要したと言います。

では、お待たせしました。実際の音を聴いてみましょう。



非常に澄んだ音ですね。リズム感が、時→クオーター→分への遷移時も含めて変わらないことも好感を覚えます。当たり前と言えば当たり前ですが、その当たり前ができるブランドは多くありません。正面のクリスタルガラス自体がスピーカーの表面ですから、腕にした時にも自分に向かって音が発せられてるということで、大きな音に聞こえます。もう少しテンポはゆっくりでもいいかな、とも思いましたが、微妙にいい感じのスピード感でもあります。

まさに、この20個の限定時計を誰が手にするのか、個人的にはうらやましいの一言です。。。。



このムーブメントには、3つの特許申請中の機構と、7つの安全装置が組み込まれています。

特許申請中:
その1 - モノプッシャーでミニッツ・リピーターを鳴らす機構(上記写真でリューズの真ん中に大きめのボタンがあるのがわかります)
その2 - 一体成型のモノブロッククリスタルの製法
その3 - 時・クオーター・分情報を同軸スネイル/ラチェットで伝える機構


安全装置の数々 - ムーブメントは500以上の部品からできています。使い方によっては部品が破損するミニッツ・リピーターも多いです。しかし、このモデルはいくつもの安全装置でそれを極力防ぐよう、また、音に「ぶれ」がないよう、ユーザーの立場に立った造りをしています。

1.チャイムのパワーリザーブが少なくなると、ボタンを押してもミニッツ・リピーターは作動しない。
2.リピーター作動中は、時刻調整は機能しない。
3.時、クオーター、分のスネイルからそれぞれのラチェット車が情報伝達を行うことにより、正確なテンポを確保。
4.最後の一打が弱くなるのを防ぐため、ラチェット車を同軸に配置し、ハンマーが滑らかに継続して動くように制御。また、時からクオーターへの移行のタイミングも同じテンポを確保。

等々。



テクニカルスペック

L.U.C フル ストライク - 仕様書

ケース:
- 素材: 《Fairmined》18K ローズゴールド
- ケース直径: 42.5 mm
- ケースの厚さ: 11.55 mm
- 防水: 30 m
- 18K ローズゴールド製リューズ(L.U.C ロゴ): 8.50 mm
- ケースボディ: ヴァーティカル・サテン仕上げ
- ベゼル、ケースバックの仕上げ: ポリッシュ仕上げ。手作業によるケースバックのエングレービング
- ケースバック: 無反射コーティングのサファイアクリスタル(シースルーバック)

ムーブメント:
- 機械式手巻きムーブメント: L.U.C 08.01-L
- ムーブメントの部品数: 533
- ムーブメント直径: 37.20 mm
- ムーブメントの厚さ: 7.97 mm
- 石数: 63
- 振動数: 4 Hz(振動数 毎時28,800 回)
- パワーリザーブ: 60 時間
- 未処理のニッケルシルバー製プレートとブリッジ
- コート・ド・ジュネーブ装飾を施したブリッジ
- COSC(スイス公式クロノメーター検定局)の認定
- ジュネーブ・シール

文字盤&針:
- ゴールド製文字盤、シルバーオパーリン加工
- スネイル仕上げのスモールセコンド
- ブルーとブラックの転写
- ゴールドのローマ数字とインデックス
- ゴールドのドーフィンフュゼ型時針と分針
- ゴールドのバトン型スモールセコンド針とウォッチのパワーリザーブインジケーター針
- ブルーのバトン型ストライク機構のパワーリザーブインジケーター針
- サファイアクリスタルガラスの下に施されたレイルウェイミニッツトラック

機能&表示:
- サファイア製ゴングのハンマー打ち機構によるミニッツ・リピーター(特許取得済み)
- 中央に、時、分表示
- 6 時位置にスモールセコンド
- 2 時位置にウォッチのパワーリザーブとストライク機構のパワーリザーブを同心円状に表示

ストラップ&バックル:
- ダブルサイド・レザーストラップ(アリゲーター)植物性染料による染色(CITES認定)手縫い
- 18K ローズゴールド製ピンバックル

20 本の限定製造
Ref:161947-5001 - «Fairmined»18K ローズゴールド製


ショパール本社、ならびに、ショパールジャパン トーマス・ドベリ社長以下スタッフの方々に心より感謝いたします。