アクリヴィア 「RRCC II」の2輪列システムをインタビューで「理解」する

 By : CC Fan

ラウンチイベントの様子をお伝え
した独立時計師レジェップ・レジェピ(Rexhep Rexhepi)が率いるアクリヴィア(Akrivia)、RRCCではレジェップ氏が好むシンメトリーな構造は取りつつ、比較的シンプルで理解しやすいクロノメーター輪列でしたが、RRCC IIでは新たなるコンプリケーションとしてデッドビートセコンドを組み込み、2輪列で機能を分担させる、という構造になったことでより複雑になりました。



今回、レジェップ氏にインタビューを行い、インタビュー時間のほとんどをこの機構の理解に費やし、当初思っていた以上に計時の本質に迫った構造だと理解しましたのでレポートします。



当初、私は古典的な機構で言う「独立秒針」だと思っていました、これはガンギ車か4番車に付けた星車からタイミング情報だけを取得し、追加輪列の(ステップ)秒針を動かすものです。
星車の形状を工夫することで何振動に1回追加輪列が動くかコントロールすることでデットビートセコンドや、振動数とは異なるタイミングで追加秒針を送ることができます。

ずいぶん昔に掲載したグローネフェルドのワンヘルツはこの古典独立秒針を基本的な考え方は同じまま、現代風に再構築した構造でした(そして追加レポートは書いていません)。
なので、RRCC IIも基本的には「追加」としてデットビートセコンドをつけたものだと思っていましたが、レジェップ氏に話を伺うと、更に進んだネオ独立秒針とも言うべき機構という事が分かりました。


●RRCC I(左)とRRCC II(右)

結論を先に書いてしまうと、「テンワを振動させる計時輪列と、その計時輪列からタイミングを受け取って表示する表示輪列をほぼ完全に分離した」という構造によって、表示側からの影響をほぼ排除した計時を実現したことです。
類似の考え方自体は置時計と腕時計に既にあるため「世界初」ではないと思いますが、珍しい方法であり、後述するシンプルな方法で結合しているのは素晴らしいと思います。

では、なぜ分離させるのでしょうか?
それは、「計時」という機能を最優先に考えた場合、「表示(に関わる抵抗)」は本質的に邪魔者、という考えからです。

「原子時計」と呼ばれる正確な時計がありますが、より工学的に正確には原子周波数標準器(Atomic Frequency Standard)とその周波数を基に経過時間を数えるカウンタの組み合わせたものが「原子時計」で、名前からも分かるように基準となる正確な周波数(一定の振動)を生み出すことが計時にとっては最も大切になります。

通常の機械式時計では輪列の途中の2番車の軸には分針との結合させるための筒カナ、分から時を作るための日の裏車、時針を駆動する筒車が取り付けられ、構造によっては時合わせ輪列も常に負荷としてぶら下がります。
さらに回転の速い(=トルクが弱い)4番車には秒針が取り付けられ、これも負荷になります。

接続されたカウンタの動作によって周波数標準の周波数が変動する、なんてことが起こったら正確な時間が測れなくなりますが、カレンダーやコンプリケーションの抵抗による「振り落ち」はまさにこの、「カウンタが悪さをして周波数が変動する」以外の何物でもありません。

針を軽量化し、動的バランスを取ることによって、影響は「低減」はできますが決してゼロにはなりません。



究極の精度を求めていた天文台クロノメーターも同じで、左側のロンジンの天文台クロノメーターは分針しか取り付けられていません。
これは、数週間で数秒、という天文台クロノメーター測定のためには分だけあれば充分であるため、日の裏車と筒車、時針を省いて抵抗をできるだけ小さくするもので、天文台機にはよく見られる構成です。
同様に(どうせ同じ時間に巻くので)抵抗となるパワーリザーブインジケーターも省き、秒針は動的バランスを取りつつ極細の軽量化されたものを使う、という形で、「精度のためにできることはすべてやる」という天文台クロノメーターの性質を如実に表しているでしょう。

さて、RRCC IIではどうしているのでしょうか?
流石に時針を省くなんてことはできませんし、見方によっては天文台クロノメーターよりも、より徹底的に計時と表示を分離させています。



向かって右側の計時香箱から続く計時輪列は一部文字盤側(地板の裏側)を通って、テンプまで繋がります。
この輪列には表示に関するものは一切取り付けられておらず、古典の独立秒針では取り付けられていた時分針もありません。
この輪列は純粋な6振動/秒(3Hz)を生み出す周波数標準として機能し、針がないため針の位置と姿勢によるバランスの崩れからは無縁になります。

向かって左の表示香箱から続く表示輪列が表示を担っており、この輪列に時分秒の針が取り付けられます。
この輪列は針の位置と姿勢によるバランスが崩れることによるトルク変動の影響を受けますが、後述するカップリング(結合)機構によって計時輪列までその変動を「ほぼ」伝えないようにしています。

では、そのカップリング(結合)機構を見てみましょう。
Only Watch 2021のAkriviaのカタログから引用します。



計時輪列の終端のガンギ車に取り付けられた5歯の星型の星車と、表示輪列の終端に取り付けられた1歯のレバーが噛みあっています。
星車が回転し、レバーの引っ掛かりが解除されるとレバーは1回転し、次の星車の歯に再び引っかかって停止されるます。

星車は15歯のガンギと同軸で振動数が6振動/秒(3Hz)のため、5秒で1回転し、5歯なので1秒に1回停止が解除され、レバーは1秒に1回転します、これによって計時輪列のタイミング情報が1秒に1回表示輪列に伝えられ、1秒ステップで表示輪列が動きます。

「コンスタントフォースは使わないの?」という質問を(ほぼ確信犯で)投げてみたのですが、「使わない理由はあなたが一番よく分かってるでしょう?」と返されました(彼は私のカンタロスの話も知ってる)。
特に往復運動があるコンスタントフォースの場合どこかで「押し返す」必要があり、そこで押し負けるとロックされてしまうという欠点があります。
この機構は全て一定方向の回転のみで構成されており、逆方向に「押し返す」運動はありません。

次に気になるのはレバーが星車を僅かに押すことでトルク変動を生むのではないか?という事です。
これについては、話した結果「押していることは否定できないが、ほぼ影響はない」と結論付けました。
具体的に見ていきましょう。

2つの香箱(計時用・表示用)に納められた主ゼンマイは同じもので、香箱トルクは同じです。
途中の抵抗を無視すると、星車とレバーに伝わるトルクはその回転数のみで決まり、星車が5秒で1回転、レバーが1秒で1回転で、トルク×回転数=一定(変速の原理)という条件から星車のトルクはレバーの5倍あることが分かり、これだけでもレバーの方が「弱い」という事が分かります。

さらに、トルクは力×軸からの距離であり、実際に働く力はトルクを軸からの距離で割ったものになります(テコの原理)。
星車の歯とレバーが当たっている位置の軸からの距離を見るとレバー側が5~6倍長いことが分かり、実際の力に換算すると25~30倍の力であり、星車からレバーを見ると「ほぼ」無視できる力しか伝わらない、伝わったとしても力をアシストする方向なので致命的な問題にはなりにくい、と結論付けられました。

実際には3本の針と時合わせ輪列の負荷も加わってレバー側がより「弱く」なっているため、影響はより少なくなるでしょう。



アクリヴィアの伝統的なコンプリケーションとして、リュウズを引いたときに秒針をハートカムでゼロリセットする機能がRRCC IIにも加えられていますが、デッドビートと組み合わせてより確実なリセットを行うために、ミニッツリピーターなどに使われる「オール オア ナッシング」を応用した機構がリュウズに組み込まれました。

リュウズを引くと、以下の動作が順次行われます。
  1. ストップレバー1がテンワを押さえて止める
  2. ストップレバー2が表示輪列の4番車を押さえてリセット衝撃が伝わらないようにする
  3. リセットレバーが表示輪列4番車軸のハートカムを叩いて秒を0にリセット
このシーケンスのうち、1と2はリュウズの引き量に応じてレバーが動く機構ですが、3だけはある一定の引き量で一気に動き、リセットする(オール)か何もしない(ナッシング)のどちらかしかとりえないようになっています。
これにより、リュウズを中途半場に引いて離したとしても、リピーターを引き切らずに話した時同様「何も起こらず」機構が保護される、という仕組みです。

RRCCの時からの「クロノメーター」の名に恥じない、「高精度機」をさらに進歩させたRRCC II。
機械式時計ではかなり珍しい「周波数標準」と「カウンタ」を分離した理に適った高精度機ではないでしょうか?

関連 Web Site

Akrivia
https://www.akrivia.com/



【お問い合わせ】
ザ アワーグラス ジャパン 株式会社
Eメール: ginza@thehourglass.com