ヴァシュロン・コンスタンタンのオート・オルロジュリー⑤"最終回"~機械仕掛けの宇宙、天文時計

 By : KITAMURA(a-ls)

ブランドのオフィシャルサイトのメディア用ページにひっそりと置かれているアーカイヴ資料的テキストを、自分の勉強も兼ねて掘り起こしてみようという、夏休みの自由研究的なモチーフから始めた企画もついに8月31日の夜を迎えた。夏休みの宿題と言えば、泣いても笑っても8月31日の夜がその"天王山"(や、引用元がヴァシュロン・コンスタンタンのアーカイヴからだから、"そのワーテルロー"か…)、ま、いずれにしても、第一回のクロノグラフから機能的にも進化を重ね、ついにミニッツ・リピーターなどの時打ち機構にまで至った前回を上回る複雑機構といえば、もはや、複雑機構の盛り合わせ「天文時計」以外にない。
夏休み最後の夜に仕上げる自由研究・最終回は、ご協力いただいたヴァシュロン・コンスタンタンさまへの感謝を込めて、同社の花形でもあるグランド・コンプリケーション、時計機構粋を極めた「時計仕掛けの宇宙・天文時計」にをフォーカスする。



ヴァシュロン・コンスタンタンのオートオルロジュリー ⑤"最終回"
「機械仕掛けの宇宙、天文時計」



時間計測の科学、すなわち時計学は、天体や自然界の周期の観測から生まれました。ウォッチメーカーたちが開発した機械装置の起原はこうした観測にあり、中世後期から発展し続けてきた技が反映されています。
1755年に創業したヴァシュロン・コンスタンタンは、ごく早い時期から天文表示の専門技術に完璧に精通し、2世紀半以上も存続するマニュファクチュールにおいて次第にその技術を充実させてきました。今日のヴァシュロン・コンスタンタンも、極めて複雑な天文表示を行う傑作時計を製造しています。


●レ・キャビノティエ・アーミラリー・トゥールビヨン・パーペチュアルカレンダー - プラネタリア - 2021年

天文時計は、時計づくりの起源を思い起こさせます。自然界を支配する偉大な物理法則の観測から生まれた時間計測は、星の運行と周期をもとにして実質的に推定されたものに他なりません。それを機械の仕組みに置き換えることにより、年月を経るにつれて、ゴレゴリオ暦の変則的なカレンダーをはじめ、宇宙を支配する各種の一時的な事象、天体の動きとそれらの地球への影響に関連するさまざまな機能や複雑機構を可能とする時計が姿を現すようになりました。
これらの機能の大半は実用のためのものではありませんが、人類を宇宙との橋渡しをする時計に天文学的な次元をもたらす極めて希少な専門技術を証明しています。早い時期からヴァシュロン・コンスタンタンは、各種のカレンダー表示や月相と月齢といった天文機能を備える時計に多大な関心を寄せ、それらを他の複雑機構と組み合わせることもしばしば行ってきました。2000年代以降、こうした専門技術はとりわけレ・キャビノティエ部門で発揮され、そこで作られる天文時計は、いずれもこの分野での傑作です。


天文機能
腕時計の天文機能には、グレゴリオ暦の変則的なカレンダーに関連するものや、星の運行に関連する各種の表示が含まれます。カレンダーやムーンフェイズなど以下に掲げる主要な機能に加え、最も複雑なタイプでは月食や日食を予告するシステム、地球から見える星々の位置、天体暦(夏至と冬至の至点、春分と秋分の分点、四季)表示、黄道12宮、潮汐表、日の出/日の入り、昼夜の長さ、月が毎年遠ざかる度合や角運動量などがあります。ただし、これらのうちのかなりの数の機能は、ある特定の場所でのみ有効なのを念頭に置く必要があります。
以下のひとつ以上の表示を含むものが最も「一般的」とされる天文時計です。

カレンダー
カレンダーウォッチは、時刻表示に加えてカレンダー情報を提供する時計です。シンプルカレンダーの場合、通常は日付を表示しますが、日数が不規則に並ぶ各月に対して自動的な調整機能はありません。日付のみならず曜日や1年の12カ月、さらにムーンフェイズも加えたものは、コンプリートカレンダーと呼ばれますが、この種の複雑時計もカレンダー修正が1年に5回も必要になります。
アニュアルカレンダーはシンプルカレンダーとは異なり、2月を除き30日と31日という変則的な日数を計算して日付を正しく表示し、修正は1年に一度3月1日に手動で行うだけで済みます。
これに対しパーペチュアルカレンダーは、28日、30日、31日の月と閏年を計算に入れて日付と曜日、月を正しく表示するカレンダー機能を指します。

ムーンフェイズ
ムーンフェイズ表示は、しばしばパーペチュアルカレンダーに組み合わせて用いられます。ムーンフェイズは、地球の衛星の朔望周期(新月、上弦、満月、下弦)を時計のダイヤルで示します。この月相を月齢と混同してはなりません。月齢は、新月からの経過時間を日数で表したものです。

均時差
均時差とは、太陽時(真太陽時)と常用時(平均太陽時)との差を意味します。太陽時が日時計で示す時刻なのに対して、常用時は時計が示す時刻です。地球の公転軌道が楕円を描くことと地軸が傾いていることから、両者の差は、その差は年間を通じて変動し、最大で-16分から+14分に達します。

恒星時
地球が360度完全に1回転するのにかかる時間は23時間56分4秒で、これを恒星日と呼びます。地球の公転と自転により、太陽が天頂(子午線)を通過する1度目と2度目で時間差があり、太陽時のほうが数分長くかかります。太陽の代わりに基準点に星を用いたこの恒星時が天体観測に用いられています。

天体図
天体図は、地球上のある地点から見える天球を平面化してディスクやダイヤルに再現したものです。天体図は1年で1回転し、ある時点での天空のいわば「スナップショット」を提供したり、恒星日ごとに1回転するなどして、天空の様子がリアルタイムに眺められるようにします。


●レ・キャビノティエ・セレスティア・アストロノミカル・グランド・コンプリケーション 3600 - 2017年


さらに高度な機構
パーペチュアルカレンダーは、月の日数の変動や閏年を計算に入れ、西暦が400で割り切れる平年を除いて正確に日付を表示する優れた機能によって、しばしば時計における最高の至宝のひとつに数えられます。この機械的な妙技を実現するのは、ムーブメントに1461日すなわち4年分の「メモリー」が装備されていなくてはなりません。この機構に不可欠の部品は、月によって異なる日数をプログラムした48か月カムです。
均時差もカムが機構を制御します。均時差カムは1年で1回転し、非対称のその形はアナレンマに由来します。アナレンマは、不規則な「8の字」を描くカーブで、このカーブはある地点から1年間を通じて毎日同じ時刻に見える太陽の位置を図表に記したものから得られます。
ムーンフェイズの「ふつう」の表示は、1枚に2つの月を配したディスクで行われ、これを24時間毎に1歯先に進む59歯の歯車で動かします。ダイヤルで示される月の周期は29.5日になりますが、実際の朔望月は29日12時間44分2.8秒(29.53日)です。その結果この種のムーンフェイズ機構の場合2年7か月毎に1日のずれが生じてしまいます。高精度のムーンフェイズ表示を備えた時計では135歯の歯車を用い、この方式では朔望月のずれを122年毎で1日に減じています。また天体の表現には回転ディスクのスカイチャート(天体図)もあります。見える部分は、楕円のラインで切り取られた天空に対応し、その眺めをリアルタイムに表示するために、通常はこのディスクが毎日1回転してします。1日の回転速度は恒星時に基づいて計算され、平均太陽よりも3分56秒短くなっています。それを実現するための技術的に最もシンプルな方法は、ムーブメントに2系統の動力を組み込んで、一方は24時間で1回転する平均太陽時で時を刻むようにして、他方を23時間56分4秒という若干早い恒星時に合わせることです。

●トゥール・ド・リル - 2005年


天文学の系譜
紀元前5000年頃に巨石構造物が出現したのはまったく偶然ではありません。何千もの石が整然と並ぶモニュメントは、最初の天文観測所と考えられています。とりわけ最も有名なひとつは、直立した巨石がサークル状に並ぶストーンヘンジです。しかしこうした最初の観測所がより科学的な意味を帯びるようになるのは紀元前4200年頃です。この時期に決定的な役を演じたのが書くという行為の誕生でした。書くことによって事象の記録やさまざまな計算ができるようになり、毎年の連続した記録を残したり、予測さえも可能になりました。メソポタミアに出現した文字は、続く時代にエジプトで、その2000年ほど後に中国やマヤ帝国で確立されました。それぞれの偉大な文明は、太陽や月、あるいは両方の動きに基づく暦を発展させました。
そして、距離や時間を計算するための共通の単位を発明したのは、紀元前2400年頃のメソポタミア人でした。これは、今なお角度や分を60分割する私たちのシステムの基礎になっています。この時間の空間化は、星の運行に合わせてそれを順に並べる場合に決定的な役を果たしました。
アリストテレスの時代にすでに登場していた機械工学の発展は、時間計測の具体化と、その天文学的な次元への展開に道筋をつけました。13世紀と14世紀に最初の機械時計が出現すると、腕時計職人は、さっそく太陽系の主要な惑星の動きをダイヤルに再現しました。ルネサンス期の懐中時計は、こうした大型天文時計の直接的な後継者でした。これらは、分針が発明される以前に、時針による時のみならず、日付と曜日、月とそれらの日数、ムーンフェイズ、黄道12宮をすでに表示していました。このような天文時計は、17世紀には多く出回るようになって非常に人気を博し、今日でも当時の特有の時計と考えられています。

●ref.10870 without case

それ以降、創意あふれる時計職人たちがさらに正確な機構を作るために努力を重ねた結果、分針に続いて秒針が出現し、構造もコンパクトになりました。ところがこのような小型化により、日付や精巧なパーペチュアルカレンダー、それに付随するムーンフェイズ表示以外の天文機能を取り入れることが当然難しくなりました。
19世紀の場合、グランド・コンプリケーションウォッチには、グレゴリオ暦の変則的なカレンダーを正しく表示する機構の搭載が必須になりました。当時はまた、均時差や日の出/日の入り、恒星時などを表示する天文機構も搭載する特別な懐中時計がいつくかありました。これらの機能は、20世紀前半の超複雑時計にも発見できます。しかし腕時計の登場は、こうした傑作機構にストップをかけました。しかしそれでも天文時計が完全に消滅したわけではありませんでした。1980年代に機械式時計が復活して以来、天文時計の人気が明らかに再燃し、現在では天文時計は高度な専門技術の究極の表現になっています。


ヴァシュロン・コンスタンタンとカレンダーウォッチ
ヴァシュロン・コンスタンタンの記録に最初の懐中時計への言及があるのは1773年より前に遡ります。つまり、ジャン=マルク・ヴァシュロンが工房を創設した1755年から間もない時期でした。それから10年ほど後、ジャン=マルクの息子アブラハム・ヴァシュロンの指揮のもとで複雑時計が開発されました。
その代表例は、1785年に作られ、真ちゅうのダイヤルに花のモチーフをあしらった初のコンプリートカレンダーです。天文複雑機構に徐々に熟達してゆく過程は、メゾンが保存する過去の資料によって正確に追跡することができます。
1829年に始まる最初の記録は、シンプルカレンダーとムーンフェイズを配した時計の注文です。また1884年の記録には、パーペチュアルカレンダーを組み込んだダブルフェイスのイエローゴールド製懐中時計があり、現在この時計はヴァシュロン・コンスタンタンのプライベートコレクションに収められています。この業績は、世紀の変わり目に以前にも増して重要な意味を帯びることになる機械式複雑機構の壮大なストーリーの幕開けを告げるものになりました。

●48か月パーペチュアルカレンダーおよびムーンフェイズを装備するイエローゴールドのダブルフェイス懐中時計(Ref.Inv.10155 - 1884年)

ヴァシュロン・コンスタンタンは、1900年という早い時期に複雑時計の組み立てを専門に行う工房を設立しました。そこに複雑時計や一段と複雑な時計の注文が殺到した結果、パーペチュアルカレンダーに他の複雑機構が組み合わされるようになりました。ミニットリピーター、クロノグラフ、月相と月齢を表示するムーンフェイズを組み合わせた1901年のピンクゴールド製の懐中時計はその代表例です。グランド・コンプリケーションの典型と言える、この技術の粋を集めた傑作は、ヴァシュロン・コンスタンタンにおける複雑時計の歴史的黄金時代の到来を予告するモデルでした。

●ミニット・リピーター、クロノグラフ、月相および月齢表示付きパーペチュアルカレンダーを組み合わせた懐中時計

1920年代と1930年代の代表作ともいえるのは、エジプト国王フアード1世のために1929年に製作された天文懐中時計です。熟達の技を駆使したこの時計は、スプリットセコンド・クロノグラフ、パーペチュアルカレンダー、ミニットリピーター、グランおよびプチ・ソヌリを併せ持っています。


パーペチュアルカレンダーの全盛期
ヴァシュロン・コンスタンタンは20世紀を通じて複雑時計に対しメゾンのクラシカルでエレガントなアプローチを忠実に守り続けました。1960年代まで作られたパーペチュアルカレンダーを搭載する懐中時計はその一例です。数十年に渡って時代を画す特別な時計が数多く登場しましたが、ミニットリピーターとクロノグラフ、月相と月齢表示も備わるパーペチュアルカレンダーを組み込んだ1946年のゴールド製懐中時計もそこに含まれます。エレガンスは、薄型ムーブメントによって実現した印象的な薄型モデルに顕著に表現されています。

●ミニット・リピーター、クロノグラフ、月相および月齢表示付きパーペチュアルカレンダーを装備した懐中時計(Ref.Inv.11698) - 1946年

ヴァシュロン・コンスタンタンは1955年に本物の偉業と呼べる、わずか1.64mmの超薄型手巻きムーブメント、キャリバー1003をすでに発表していました。それから12年を経て新たな偉業を達成します。今度は自動巻きで2.45mmという薄さを実現したキャリバー1120です。ヴァシュロン・コンスタンタンが1983年に発表した超薄型の腕時計に搭載された初のパーペチュアルカレンダー・ムーブメント、キャリバー1120QPのベースに用いられたのは、このモデルのためにスケルトン加工も加えられた、まさにこのキャリバー1120でした。コンプリートカレンダーや、ムーンフェイズを加えたトリプルカレンダー、レトログラード式のカレンダー表示などがメゾンの大きな伝統の一部を成す一方で、パーペチュアルカレンダーは優先順位の高い複雑機構のひとつとして地位を保ち続け、近年も「パトリモニー」や「トラディショナル」、「オーヴァーシーズ」コレクションに取り入れられています。

パーペチュアルカレンダーへの傾倒は、2019年に発表された新しい重要なモデル「トラディショナル・ツインビート・パーペチュアルカレンダー」にも顕著に反映されています。別々の振動数で調速する2系統の輪列を搭載するこの時計は、振動数を下げたスタンバイモードに切り替えると65日間のパワーリザーブを確保することができます。いわゆるクラシカルなモデルにおいては、パーペチュアルカレンダーは常にグランド・コンプリケーションの基本機能に含まれ、それはヴァシュロン・コンスタンタンにとって不動の伝統になっています。

●トラディショナル・ツインビート・パーペチュアルカレンダー - 2019年

近年のヴァシュロン・コンスタンタンは、複雑機構そのものが芸術作品と評価されるいつくもの時計で目覚ましい成果をあげてきましたが、そのひとつがメゾンの250周年を記念して2005年に製作され、時計と天文に関する16種類もの複雑機構を搭載した「トゥール・ド・リル」です。そして10年後の260周年には、時計製造の歴史に間違いなく残るもうひとつの時計「リファレンス 57260」を発表しました。57種類の複雑機構を網羅したこのユニークピースは、世界で最も複雑な唯一無二の時計です。


天文学の最高峰に立つ
ヴァシュロン・コンスタンタンにおいては、天文機能に精通する専門技術は、けっしてカレンダー機能に留まりません。メゾンは懐中時計の分野で、この天文の分野に関して特に関心の高い顧客や収集家たちから寄せられる細かな要望に早い時期から応えていました。例えば1890年にパリの顧客からの注文に応じて製作した恒星時を表示する時計です。それから20年ほどたって、真太陽時、シンプルカレンダー、日の出/日の入りなどの表示を行うためのベースムーブメントが設計されたことが保存資料に記されています。
また1919年は、パーペチュアルカレンダーにムーンフェイズ、日の出/日の入り、レトログラード式均時差表示を組み合わせた、まさに類まれなメカニズムを搭載するムーブメントが出荷された記念すべき年です。星の運行に基づくこの天文表示の伝統は、腕時計に求められる小型化によって一時は中断されましたが、20世紀後半に巻き起こった機械式時計に対する熱狂を受けてメゾンのコレクションに復活し、レ・キャビノティエ部門を創設してからは一段と強化されました。ユニークピースの形でメゾンに寄せられる特注品や異例の時計の製作を専門とするこの部門は、高度な複雑機構を搭載する天文時計の分野で本物の傑作を世に送り出してきました。そのひとつ、2017年に発表された「レ・キャビノティエ・セレスティア・アストロノミカル・グランド・コンプリケーション3600」は、天文学から着想した23種類の複雑機構が組み込まれ、常用時、太陽時、恒星時という3種類の時間が読み取れます。これら3種類の時刻表示は、2020年発表の「アストロノミカル・ストライキング・グランド・コンプリケーション オード・トゥ・ミュージック」でも同様に用いられ、このモデルではミニットリピーターに加えて19種類の重要な天文機能が搭載されています。


●レ・キャビノティエ・アストロノミカル・ストライキング・グランド・コンプリケーション オード・トゥ・ミュージック - 2020年

そして2021年は「レ・キャビノティエ」の共通テーマに「ル・タン・セレスト(天体の時間)」を選び、3つの並外れた時計を通じて傑出した技量を披露しました。とりわけ素晴らしいのは「アーミラリー・トゥールビヨン・パーペチュアルカレンダー - プラネタリア」です。このモデルは、レトログラード・ジャンピング・パーペチュアルカレンダー、2軸トゥールビヨン、24時間およびデイ/ナイト表示用にデザインされた両半球を表現する立体的な地球のモチーフなどが特徴になっています。このようなレベルで表現された天文コンプリケーションは、間違いなく科学と芸術の2つを融合した作品です。



素晴らしい賛辞
19世紀のヴァシュロン・コンスタンタンは、クロノメトリー(時間測定の正確さ)で数々の受賞を重ね、とりわけジュネーブ天文台の精度コンクールで多くの賞を授けられたことにより、精度の分野で名声を確立しました。
ヴァシュロン・コンスタンタンの顧客たちは、自身の要求に合った時計をしだいに注文するようになりましたが、それが天体観測に関する場合は内容が厳格に規定されました。パリのサルデーニア公使館の秘書官イポリット・サリーノ伯爵がヴァシュロン・コンスタンタンに宛てた1853年2月24日の手紙には、温度計と日付表示を備える時計を注文が述べられています。そこには「(...) この時計を天体観測に用いたく考えておりますゆえ、貴社の工房での作業が到達しうるところの完璧な技術で作られた本物のクロノメーターであることをお願いしたく存じます」とあります。これはまさにヴァシュロン・コンスタンタンの卓越した時計製造技術への熱烈な賛辞です。

●リファレンス 57260 - 2015年



主な代表モデル
148カ月パーペチュアルカレンダーおよびムーンフェイズを装備するイエローゴールドのダブルフェイス懐中時計 1884年
歴史によれば、スティールの柔軟な櫛歯で音を発するオルゴールに仕組みが発明され、時計にこのミュージカヴァシュロン・コンスタンタンにおいて初のパーペチュアルカレンダーとダブルフェイスの表示が備わる懐中時計として記録されるモデル。スモールセコンドを含む時刻表示は、ローマ数字と外周にミニッツトラックを配した表側のエナメルダイヤルで行われ、4つのサブダイヤルで構成されたパーペチュアルカレンダーは、時計の裏面に置かれ、透明なケースバックから見ることができます。縦軸には日付と曜日表示が垂直に並び、横軸には月齢および月相を示すムーンフェイズと月表示が水平に並びます。月表示のサブダイヤルは円を4等分したスペースに48カ月を取り込み、月表示と同じ針が閏年を指します。この時計はまた、ジュネーブ天文台の精度ンクールで優勝したことでも注目に値します。




2.トゥールビヨン、パーペチュアルカレンダー、スプリットセコンド・クロノグラフを装備するイエローゴールド
のグランド・コンプリケーション懐中時計 1931年
この複雑を極める時計はコレクターズアイテムです。この時計は、月齢および月相を示すムーンフェイズを含むパーペチュアルカレンダー表示にスプリットセコンド・クロノグラフや32時間のパワーリザーブ表示も併せ持ち、当時としては非常に珍しいモデルです。ケースバックの保護カバーを持ち上げると調速を制御するトゥールビヨンを見ることができ、また、1934年にジュネーブ天文台の精度コンクールでは優勝を果たしました。1931年に作られたこの時計は、複数の複雑機構を搭載し、完璧な視認性と正確無比な精度が備わる懐中時計の製作で当時のヴァシュロン・コンスタンタンが謳歌した黄金時代を語る上で最適なタイムピースと言えます。



3.ファルーク王のために作られた、イエローゴールドの懐中時計グランド・コンプリケーション 1934年
当時、最も複雑な時計のひとつに数えられた懐中時計。直径80㎜の堂々としたこのモデルは、13本の針が用いられ、完成までに5年を要しました。820個もの部品で構成されたムーブメントは、14種類の複雑機構を駆動します。18Kイエローゴールドのケースと2系統の輪列が備わるこの時計は、1946年にファルーク王に献呈され、1954年まで王のコレクションに収められていました。複雑機構には、3組のハンマーとゴングによるグランおよびプチ・ソヌリ、30分積算計付きのスプリットセコンド・クロノグラフ、パーペチュアルカレンダー、月相および月齢表示、アラーム、2つのパワーリザーブ表示などが含まれます。



4.トリプルカレンダーとムーンフェイズを装備するイエローゴールドのカーブしたスクエア型腕時計「チョコラトーネ」 1954年
1950年代は、戦後の活気を受けて、機能性と同時に型破りなスタイルを追求する新たなデザインが盛んになりました。ヴァシュロン・コンスタンタンも腕時計に新しいトレンドを取り入れました。この大型でスクエア型の腕時計は、丸みを帯びたラグやベゼル、そして腕に沿う湾曲したフォルムなど有機的なデザインに特徴があります。「チョコラトーネ」のニックネームで親しまれるこの時計は、当時の典型的なデザインを象徴するアイコンになっています。1950年代初頭に導入されて以来さまざまなヴァリエーションが作られる中で最も代表的なモデルが、トリプルカレンダーとムーンフェイズを装備するこの「リファレンス 4767」です。



5.トリプルカレンダーとムーンフェイズを装備するプラチナの超薄型腕時計 1988年
クォーツウォッチが市場を席巻する1980年代にヴァシュロン・コンスタンタンは、メゾンとしては初となるトリプルカレンダーとムーンフェイズを備えながら、超薄型を実現するこの複雑時計を製作して機械式時計に賭けました。このモデルはまた、ハイエンドの高級時計や複雑時計への関心を新たに取り戻す上で重要な役を演じ、1983年に発表されて以来、スケルトンなども含め、2006年まで何度も製作が続けられました。エレガントなその姿を可能にしたのは、完全なカレンダーのモジュールを搭載して厚さがわずか4.05mmという超薄型ムーブメントのキャリバー1120 QPです。


6.レ・キャビノティエ・セレスティア・アストロノミカル・グランド・コンプリケーション 3600 2017年
両面にダイヤルを配した「セレスティア・アストロノミカル・グランド・コンプリケーション 3600」は、「天体」を形作るホワイトゴールドの時計に天文学と時計製造技術が凝縮されています。この時計は、表と裏に天文学から着想した23種類の複雑機構が組み込まれ、別々の輪列で駆動する常用時、太陽時、恒星時という3つの異なる時刻が読み取れます。その新しい一体型キャリバーは、514個の部品がわずか8.7mmの厚さの中に収められ、6個の香箱によって3週間の連続駆動をもたらします。





7.レ・キャビノティエ・アーミラリー・トゥールビヨン・パーペチュアルカレンダー - プラネタリア - 2021年
開発に4年を費やした新しい手巻きキャリバー1991を搭載するこのモデルは、パーペチュアルカレンダーの日付、曜日、月をレトログラードで表示する異例のユニークピースです。さらに、北半球と南半球をそれぞれ立体的に表示する珍しいモチーフも備わります。チタンで作られたこれら2つの半球は、24時間で1回転しながらデイ/ナイト表示を行います。そしてムーブメントの調速を制御する2軸トゥールビヨンは、交錯するキャリッジ
が60秒で1回転します。







[まとめ]
時計学は古代文明の黎明にまで遡る天体の観測と研究に由来。
1755年の創業から20年後、ヴァシュロン・コンスタンタンに天文表示を備えた初の時計が登場。
ヴァシュロン・コンスタンタンは、月や星、惑星の運行や影響に焦点を当てたグランド・コンプリケーションで類まれな専門技術を磨き、その発展に務めた。



■関連投稿一覧
第一回「クロノグラフと精密性」
第二回「レトログラード表示」
第三回「トゥールビヨン」
第4回「時打ち機構」




【お問い合わせ】
Vacheron Constantin
0120-63-1755(フリーダイヤル)




【ヴァシュロン・コンスタンタン】
1755年に創業したヴァシュロン・コンスタンタンは、265年以上にわたり一度も時計づくりを中断したことがない、時計製造の分野で世界最古のマニュファクチュールです。何世代にも渡る名工たちによって培われた時計づくりの卓越した技術と洗練されたスタイルを途切れなく代々継承し、そこに根差す輝かしい遺産を守り続けてきました。 メゾンが創作する時計は、控えめで気品豊かなスタイルに高級時計の素晴らしい価値が体現されています。その一つ一つに、最高峰の職人技と仕上げを維持しながら、ヴァシュロン・コンスタンタンならではの技法や美意識が表現されています。 ヴァシュロン・コンスタンタンを代表するコレクション「パトリモニー」や「トラディショナル」、「メティエ・ダール」、「オーヴァーシーズ」、「フィフティーシックス」、「ヒストリーク」、そして「エジェリー」などでは、つねに比類ない伝統と革新の精神が一体になっています。さらにメゾンでは、時計に精通した顧客の方々の難しい要望に応え、“レ・キャビノティエ”部門を通じて特注によるユニークピースの提案も行っています。