ヴァシュロン・コンスタンタンのオート・オルロジュリー④~時を打つ ストライキング・ウォッチ

 By : KITAMURA(a-ls)


いよいよ残り少なくなってきた夏休み。思えば、いつもこのくらいの時期までまとめを引っ張っていた学生時代の自由研究の記憶とも重なるが、ブランドのオフィシャルサイトのメディア用ページにひっそりと置かれているアーカイヴ資料的テキストを、自分の勉強も兼ねて掘り起こしてみようという企画も、そろそろラストスパートである。
ヴァシュロン・コンスタンタンのアーカイヴから引用してきた過去3回の掲載は、第一回「クロノグラフと精密性」第二回「レトログラード表示」第三回「トゥールビヨン」と、回を重ねるごとにコンプリケーションの複雑さが増しているのにお気づきだったろうか。第4回の今回のテーマは、いよいよ"時打ち機構"である。リピータやソヌリなどのストライキング・ウォッチにフォーカスする。




ヴァシュロン・コンスタンタンのオートオルロジュリー④
「時を打つ ストライキング・ウォッチ」



夜間に時刻を知るために17世紀の終わりに発明されたストライキング・ウォッチは、時間を旋律的に表現することで詩的で人の感情を揺り動かすという、時計の複雑機能です。またストライキング・ウォッチが特殊なのは、機構が極めて複雑なのにもかかわらず、クラシカルな2針や3針時計のデザインとほとんど区別かつかないことです。ヴァシュロン・コンスタンタンは、創業当初からストライキング・ウォッチの分野で専門技術を発揮してきました。



●ピンクゴールドの懐中時計ミュージカル・クォーター・リピーター (Ref. Inv. 10468) 1816年


ストライキング・ウォッチの起源
時計製造の世界でストライキング・ウォッチは、機械学を時間の経過を音に変換、ときには旋律にさえ変換して打ち鳴らす楽器として聴くに値する音質に結びつけた傑作と考えられています。この種の時計は、電気という言葉がまったく未知だった時代に、暗闇の中で時間を知るための実用的な理由によって誕生しました。

最も古いリピーターのストライキング機構のうちで最初の機構は、17世紀の終わりに初めて開発されクォーター・リピーター・ウォッチの中に姿を現しました。それを可能にしたのは、1675年に発明され精度の大幅な向上をもたらしたひげゼンマイや、分針の導入でした。それによってストライキング・ウォッチはもはや時(アワー)のみを打って告げるものではなく、分(ミニット)も告げるか、あるいは少なくとも15分(クォーター)もわかるようになりました。ウォッチメーカーはしたがって、暗闇で使用する時計に集中でき、ヴァシュロン・コンスタンタンにおける挑戦は、インディペンデント・デッドビート・セコンドも装備する1819年のクォーター・リピーター・ウォッチに実を結び、名を高めることになりました。

最初のミニット・リピーター・ウォッチは、1710年ころにドイツで作られましたが、それが完全な形になるのは、18世紀終わりにかけてクラッパーのないベルがゴング・スプリングに置き換えられてからです。現在のストライキング・ウォッチにも見られる円環のゴングは、これを用いることによってケースの厚みがかなり抑えられ、澄んだ音を得るのに役立ちました。ヴァシュロン・コンスタンタンは、このような技法にも完璧に習熟しており、リピーター・ウォッチに関する最初の記述が1806年に記録されています。

音による時刻表示の最高峰と考えられるグラン・ソヌリ・ウォッチが登場するまでにさらに20年を要し、1827年になって最初のグランおよびプチ・ソヌリ・ウォッチが導入されました。これらの時計によってヴァシュロン・コンスタンタンの時計作りは新たな頂点に達し、貴族や有産階級の人々の間で絶賛されました。しかし、製造が極めて難しく、個数は非常に限られていました。夜間の照明に役立つマッチが1845年に発明されると、こうしたストライキング・ウォッチの製造は以前にくらべて減少し、かえって本物の伝説的な時計としてオーラを強く放つことになりました。

●グラン・ソヌリとプチ・ソヌリを搭載した初の時計 (Ref. Inv. 10715) 1827年


ミニット・リピーター、夜間に活躍する複雑機構
リピーター・ウォッチの特徴は、任意の操作で時刻を示す仕組みにあります。それは、時計が時(アワー)や15分(クォーター)を過ぎる毎にストライキング機構が作動して自動的に「時刻を打ち鳴らす」という概念とは対照的です。伝統的なミニット・リピーターでは2本のハンマーが音の異なる2本のゴングを叩き、時(アワー)は低音のゴング、15分(クォーター)は高音と低音のゴングで、分(ミニット)は高音のゴングでそれぞれ告げます。このような機構は、専用のスライドボタン、センマイ、調速装置(ガバナー)などで構成され、これらは一般的に時刻表示の時計機構から独立しています。
スライドボタンを動かすと、ストライキング機構のゼンマイが巻かれ、待機の状態になります。ゼンマイが解けると、歯車機構を通じて動力が伝達されますが、この動力は、ハンマーが叩くリズムが一定に保たれるようにフライホイールで調整されます。

こうしたストライキング機構は、ハンマーやゴングとともに機械的な記憶装置で構成されています。
スライドボタンは、ストライキング機構のゼンマイの巻き上げと同時に、時(アワー)、15分(クォーター)、分(ミニット)のカムに接して時刻情報を受け取る3つのレバーを始動させます。これらのカムは、螺旋状の形状から「スネイル」と呼ばれ、時計の針とともに回転して、ハンマーが叩く回数を記憶します。



アワースネイルには時間数に合わせて階段状に12の段差が、次のクォータースネイルには15分間隔で4つの段差が設けられ、最後のミニットスネイルは、ヒトデのような形をしていて、4本のアームのそれクォーター間の1分単位の数を数える14の鋸歯が刻まれています。各レバーは、ハンマーの触手がこれらのスネイルから時刻情報を受け取るのと同時に、レバー反対側のラックを時刻に相当するスネイルの位置にセットします。そして、スライドボタンが解放されると、ラックが元の位置へと戻ってゆき、触手が感知したひとつにつき1回の割合でハンマーが正確な回数を叩
くのです。


グラン・ソヌリ機構と動力の問題
グラン・ソヌリは、時計の複雑機構の中で実現が最も困難なもののひとつです。
その際立った特徴は、毎正時の時間数(アワー)と15分(クォーター)を打ち鳴らし、15分、30分、45分のクォーター毎にアワーも繰り返し告げる点です。これらの時計の多くは、各クォーターでアワーは告げないプチ・ソヌリ機能や、ハンマーの動きを一時停止するサイレンス機能も備えています。
グラン・ソヌリの最も複雑なウェストミンスターチャイムは、イギリスの国会議事堂のウェストミンスター宮殿の北端の時計塔に据えられたビッグベンの鐘の音に由来し、音程の異なる4つの音によって4小節のメロディを奏でます。そのため、ゴングやハンマーも通常より多い4セットが必要になり、最もメロディアスなタイプの場合では5つになります。グラン・ソヌリ機構の原理は基本的にミニット・リピーターと同じで、グラン・ソヌリやプチ・ソヌリにミニット・リピーターも合わせて搭載されるのが一般的です。

グラン・ソヌリとミニット・リピーターの大きな違いは、動力の使い方です。リピーター機構には、任意の操作でストライキング機構のゼンマイを巻き上げられるスライドボタンをもっているのに対し、グラン・ソヌリは、音による表示を1日に96回も行うのにムーブメントの力を使わなくてはなりません。したがって、ソヌリの構造は一段と繊細なものになります。ハンマーがゴングを1日あたり366回も繰り返し叩き、できるだけ澄んだ音で響くように十分な力でハンマーを作動させ、この時刻表示を行わなくてはならないからです。そのため、グラン・ソヌリには一般的に香箱が2つ備わり、一方が通常の時計に、もう一方がストライキング機構に用いられます。

●「レ・キャビノティエ・グラン・ソヌリ - 交響曲第6番」2019年

ストライキング・ウォッチの音質を左右する要因としてまずあげられるのは、ハンマーの形状や向き、素材、ゴングの長さや形状、それらの時計への取り付け位置などです。
これら以外に考慮しなくてはならない決定的に重要な要素は、ケースの素材と構造です。ケース内に反響室を設置したり、ケースバックに開口部を設けたり、あるいは音の伝播を強めるための金属格子を装備したりと、さまざまな策が考えられます。
しかし最終的にウォッチメーカーの熟練技術と経験に裏付けられた知識こそが違いを生むのです。ムーブメントを構成する部品の調整や、音響装置の調律、ひとつひとつ個別の装飾、完璧な結果を得るために何度もムーブメントを組み立て直す作業などの責務を担う人々の専門技術は、かけがえがありません。こうして生まれる音質が時計のパーナリティと考えたヴァシュロン・コンスタンタンは、2019年にアビーロードスタジオに託して「ラ・ミュージック・デュ・タン」コレクションの各モデルの固有の音を録音しました。そしてこれらのリピーター・ウォッチに初めてアビーロードスタジオが録音され、認定された独自のソニック・プリントが付与されました。



ヴァシュロン・コンスタンタンとストライキング・ウォッチ:初期の評判
ストライキング・ウォッチは、メゾンの発足時からヴァシュロン・コンスタンタンの歴史遺産の一部を成してきました。1744年に見習いを始めたジャン=マルク・ヴァシュロンは、見習い期間を終える最終課題のひとつとして携帯用アラームウォッチを作るように求められました。アラームウォッチの製作は、その当時、時計製作を職とする人物に認定されるための必須条件でした。それゆえにメゾンがリピーター・ウォッチやグラン・ソヌリ、アラームウォッチなどの音で示す時計に特に傾倒するようになったのでしょうか。 真相はともかく、ヴァシュロン・コンスタンタンは、266年の歴史の中で、時計製造技術の頂点ともいえる複雑機構の開発に情熱を傾け、時計を生み出す専門技術で広く世に認められました。常にエレガンスにも関心を払うメゾンは、こうした時計の創作や極めて高度な複雑機構を搭載する特別なモデルではさらに技術的な困難が加わる超薄型ムーブメントにも時計製造の専門知識を役立てました。

メゾンの工房がリピーター・ウォッチの第一世代の製作に取り組み、その最初の製品が1806年だったことが会社の記録には残っています。シャルル・コンスタンタン(1887-1954年)の年報には、1811年にメゾンが「極上の職人技や、任意の操作による2音階」を特徴とする「美しいミュージカル・リピーター・ウォッチ」をフランスに納品したと記されています。
それ以来、このようなモデルに対するヴァシュロン・コンスタンタンの名声が確立しました。社が保存する資料に残された数々の文書が明らかにしているように、19世紀の第二四半期から20世紀初頭にかけて、ルーマニア王妃やスペインのイサベル王女といった著名な顧客の代理人たちからストライキング・ウォッチの注文が定期的に寄せられていました。こうした製品には、ヴァシュロン・コンスタンタンがプライベート・コレクションとして保有する1827年の時計のようにグラン・ソヌリも含まれていました。


グランド・コンプリケーションのストライキング・ウォッチ
腕時計の出現は、時刻を告げることのできる懐中時計を望む人々の気持ちを削ぐことはありませんでした。しかし、ヴァシュロン・コンスタンタンが高度な複雑時計で特別な専門技術を培っていたため、需要は一段と込み入ったものになりました。

メゾンの歴史を画す何点かの傑出した時計は、20世紀に入ってから黄金期を迎えました。これらの時計には、エジプトに居留するスイス人が注文し、1929年にフアード国王に贈呈されたモデルや、その息子のファルーク王がスイス滞在後の義兄弟を通じて1946年に手に入れたモデルなどがあります。このイエローゴールドの傑作は、3本のゴングによるカリヨン・ミニット・リピーター、グラン・ソヌリおよびプチ・ソヌリ、アラーム、そしてスプリットセコンド・クロノグラフ、パーペチュアル・カレンダー、月相と月齢など14種類の複雑機構を搭載するため、開発に5年を要しました。

●ファード王贈呈モデル

ヴァシュロン・コンスタンタンはその2年後、ギィ・ドゥ・ボワルヴレ伯爵からの有名な特注品を実現します。イエローゴールドのハンターケースを用いたこの大型懐中時計には、3本のゴングによるミニット・リピーターとアラーム、パーペチュアル・カレンダー、スプリットセコンド・クロノグラフが搭載されていて、2015年までは、ヴァシュロン・コンスタンタンが製造した時計の中でトップ3にはいる複雑な時計であり続けました。


●ギィ・ドゥ・ボワルヴレ伯爵のために発注されたイエローゴールドのハンター・タイプの大型懐中時計 1948年

250周年を迎えた2005年にヴァシュロン・コンスタンタンは「トゥール・ド・リル」を発表しました。834個の部品から成るムーブメントで動き、表と裏の両面に表示を配したこのダブルフェイスのモデルは、世界で初めて16種類の複雑機構を搭載する腕時計でした。260年周年の2015年には57の機能をもつ世界で最も複雑な時計「リファレンス 57260」を発表しました。時刻表示やカレンダー表示、天文表示機能などに加え、これら2つの時計が誇る点は、ミニット・リピーター機構を利用して時刻を打つアラーム機能です。とりわけ「リファレンス 57260」では、5本のゴングでメロディを奏でるウェストミンスターチャイムのグラン・ソヌリやプチ・ソヌリにこのアラーム機能が組み合わされているのです。

ヴァシュロン・コンスタンタンが何世紀も超複雑時計に強い感心を抱いて力を注いできた流れは、ヴァシュロン・コンスタンタンのユニークピースやカスタムメイドを担当するレ・キャビノティエ部門に今もしっかり受け継がれています。レ・キャビノティエでは、長年にわたってストライキング機能が備わる数々の製品を設計してきました。例えば2014年に発表された「メートル・キャビノティエ・アストロノミカ」は、ミニット・リピーターやトゥールビヨンとともに、天文表示など15種類の複雑機構を搭載した腕時計です。


●Astronomica Ref.80174.000G

また2020年には、レ・キャビノティエ部門の熟練時計師たちは「ラ・ミュージック・デュ・タン(時の音楽)」というテーマのもとで、ストライキング機構を取り入れた何点ものユニークピースを開発しました。それらの中で、ケース側面にバス・レリーフ(浅浮彫り)の彫金手法でベートーヴェンの交響曲第6番の楽譜が描かれた「レ・キャビノティエ・グラン・ソヌリ - 交響曲第6番」は、ヴァシュロン・コンスタンタンの腕時計では初めてグラン・ソヌリを搭載して2017年に発表された「レ・キャビノティエ・シンフォニア・グラン・ソヌリ 1860」の系譜に連なります。この2017年のモデルに用いられたキャリバー1860に、直径37㎜、厚さ9.1㎜のスペースにグラン・ソヌリやミニット・リピーター機構を含む727個もの部品を収めるという偉業を成し遂げました。


薄型の記録
メゾンのストライキング・ウォッチの開発において画期的なモデルとなったのは「リファレンス 4261」です。ヴァシュロン・コンスタンタンは、1940年代はじめにこのモデルでミニット・リピーターにさらなる以前にもまして困難な技術に挑みました。わずか3.28㎜という超薄型キャリバーを新たに作ることを目指したからです。直径36㎜、厚さ5.25㎜のケースとドロップ型のラグを備えたこの製品は、ブランドの伝説的な時計のひとつに数えられ、40本以上が製造されました。
1990年代にヴァシュロン・コンスタンタンは、当然ながらこの「リファレンス 4261」から想を得てキャリバー
1755を搭載する新たに3つのモデルを開発しました。すなわち、いずれもミニット・リピーターを搭載し、3.28
㎜の薄さを実現した「リファレンス 30010」、パーペチュアル・カレンダーのモジュールも加えた「リファレンス30020」、さらにスケルトンモデルの「リファレンス 30030」です。200本のみが限定生産されたこれら3本に搭載されたキャリバー1755は、当時のミニット・リピーターの分野では薄さの点で世界最高記録を樹立するムーブメントでした。

●腕時計「 リファレンス 30010」1990年代

超薄型ストライキング・ウォッチのカテゴリーで再び脚光を浴びる前の2007年に、ヴァシュロン・コンスタンタンは、2005年の「トゥール・ド・リル」のために行った研究開発から想を得て「パトリモニー・トラディショナル・キャリバー 2755」を発表しました。


●腕時計「パトリモニー・トラディショナル」 (Ref. 80172) 2007年

トゥールビヨンやパーペチュアル・カレンダーも搭載するこの時計には、ヴァシュロン・コンスタンタンでは初めてミニット・リピーターにハンマーが叩く間隔を一定に保つ調速機として完全に無音の求心性ストライク・ガバナーが採用されました。この巧妙な装置には、ガバナーの回転軸に対してブレーキとして働くように設計された2つのウェイト(慣性ブロック)で成り立ち、これによって、香箱のゼンマイから伝わる動力が均一になります。

●Ref.30110.000

この発明は、直径41㎜、厚さ8.09㎜のケースに収められ、2013年に薄さで新たな世界最薄記録を打ち立てた「パトリモニー・コンテンポラリー・キャリバー1731」のムーブメントにも反映されました。65時間のパワーリザーブが備わるミニット・リピーター・ムーブメントのキャリバー1731は、4年を費やして開発され、1992年に登場したキャリバー1755の3.29㎜に比べると、それよりわずかに厚い3.9㎜になりました。



ジュエリーウォッチとストライキング・ウォッチ
近年のストライキング・ウォッチは、ケースの直径を比較的大きく取ったモデルが大半を占めています。それは、ケースが共鳴板の役を十分に果たすようにするためです。ケースにこのようなことが求められるので、一般的には女性の腕にはうまくなじまず、男性の時計コレクターに人気があります。しかし懐中時計や初期のリピーター・ウォッチの場合は必ずしもそうではありませんでした。当時に遡ると、女性の時計はジュエリーウォッチとして扱われ、長いシャトレーヌネックレスに装着して用いたり、ペンダントとして着けられ、男性がベストのポケットに収めて使う懐中時計とは違い、内に隠されることはありませんでした。
時刻を示す機械時計の中でも、当時の科学知識と装飾技術が盛り込まれ、昼間は豪華な装飾品と身に着けられ、夜間も時刻を音で告げる時計は、高級時計の熱心な愛好者にとって大いに魅力的だったに違いありません。


●ピンクゴールドの懐中時計ミュージカル・クォーター・リピーター (Ref. Inv. 10468) 1816

ヴァシュロン・コンスタンタンは、貴族や一部の財界人を対象にストライキング機構が備わる懐中時計を数多く製作しました。彫金で飾ったゴールドのケース、エナメルやシルバーのダイヤル、リピーターやグラン・ソノリさえも搭載したムーブメントを用い、贅沢に仕立てられたこれらの時計は、メゾンの歴史的な文書が伝えているように、上流階級の女性たちのまさに「宝物」の一つでした。
20世紀に入ってからも、ストライキング・ウォッチの実用的な価値は評価され続けました。
リヤンクール侯爵夫人が1937年にヴァシュロン・コンスタンタン宛てに書いたに手紙には「完全に視力を失いましたので、私にはもう一度リピーター・ウォッチが必要です、とくに夜間は。ゴールドもしくはシルバーで、15分や30分を打つ時計をお願いします」と書かれていました。



主な代表モデル
1.ピンクゴールドの懐中時計ミュージカル・クォーター・リピーター 1816年
歴史によれば、スティールの柔軟な櫛歯で音を発するオルゴールに仕組みが発明され、時計にこのミュージカル機構が組み込まれるようになったのは1796年とあり、1811年にはミュージカル・リピーターに関する最初の記述があります。ミュージカル・クォーター・リピーター機構が備わるこの1816年の懐中時計は、この種の時計のまさに最初のモデルです。ピンクゴールドのケースやダイヤルは特に入念な作業が施され、彫金とギヨシェ彫りで装飾したダイヤルのアワーマーカーはエナメルで縁どられています。この時計のミュージカル・リピーター機構は、ピンを刺した回転式のシリンダーがスティールの櫛歯を弾く原理に基づいています。


2.レッドゴールドの懐中時計クォーター・リピーター、デッドビートセコンド付き 1819年
エナメルダイヤルやサーペント型の針が特徴的なこのレッドゴールドのクォーター・リピーター懐中時計は、クロノグラフの発明される前の時期に、それを予想させる珍しい複雑機構のデッドビートセコンドが備わります。



3.イエローゴールドの腕時計「リファレンス3620 “ドン・パンチョ”」 1935年
「リファレンス 3620」は、ミニット・リピーター、カレンダー表示とレトログラード針が備わるモデルとして1940年以前に作られた3つの腕時計のちの1つです。製作に数年を要し1940年に発送されたこの時計の複雑機能は、当時は普通の懐中時計に用いられるものでした。「ドン・パンチョ」として知られるこのイエローゴールドの腕時計は、トノー型ケースが特徴で、12時位置にリュウズを配し、ケース右側にスライドボタンで作動するミニット・リピーターは弱い音を発します。カレンダー機能については、スモールセコンドと同軸の針による曜日表示があり、これにダイヤル中央に軸を置くレトログラード針で日付を表示します。



4.ピンクゴールドの腕時計ミニット・リピーター「リファレンス 4621」1941年
複雑なミニット・リピーターを腕時計に搭載することは20世紀でも困難だったため、非常に少数のモデルしか作られませんでした。ヴァシュロン・コンスタンタンは、1940年代はじめにこのモデルで、ムーブメントの超薄型化とミニット・リピーター機構の搭載という2つの技術的挑戦に取り組みました。その超薄型のキャリバー4261は、3.28㎜しかありません。直径36㎜のケースはドロップ型のラグとミドルケースに格納するリュウズが備わり、腕時計ミニット・リピーターとしては、かつてない最もエレガントなモデルのひとつに数えられます。この腕時計は1951年まで製造が続けられ、36本が作られました。


5.ファルーク王のために作られた、イエローゴールドの懐中時計グランド・コンプリケーション 1946年
ヴァシュロン・コンスタンタンは、エジプトのファルーク王のために当時として最も複雑な時計のひとつに数えられたこの懐中時計を製作しました。直径80㎜の堂々としたこのモデルは、13本の針が用いられ、完成までに5年を要しました。820個もの部品で構成されたムーブメントは、14種類の複雑機構を駆動します。1930年から1935年に作られ、18Kイエローゴールドのケースと2系統の輪列が備わるこの時計は1954年までファルーク王のコレクションに収められていました。複雑機構には、3組のハンマーとゴングによるカリヨン・ミニット・リピーター、グランおよびプチ・ソヌリ、30分積算計付きのスプリットセコンド・クロノグラフ、パーペチュアル・カレンダー、月相および月齢表示、アラーム、2つのパワーリザーブ表示などが含まれます。



6.プラチナの腕時計「リファレンス 30020」1993年
機械式時計が1980年代後半に復活したことを受けて、ヴァシュロン・コンスタンタンは、1940年代に名声を誇った超薄型ムーブメントをベースにして、伝説となっていた複雑機構のミニット・リピーターを再び取り入れたキャリバー1755で3つのモデルを展開しました。厚さ3.28㎜の超薄型ミニット・リピーター「リファレンス30010」、そのスケルトンバージョンの「リファレンス 30030」、そしてパーペチュアル・カレンダーのモジュールを加えた「リファレンス30020」です。ドロップ型のラグを配した36㎜のプラチナ・ケースに収められているこのモデルに収められたムーブメントのキャリバー 1755QPも厚さが4.9㎜しかありません。



7.ピンクゴールドの腕時計「トゥール・ド・リル」 2005年
2005年のヴァシュロン・コンスタンタン250周年は、傑出した時計の創作に力を注ぐべく意を決し、製品開発にも新たな戦略を打ち出す記念すべきイベントにもなりました。250周年のプロジェクトから誕生した「トゥール・ド・リル」が搭載するムーブメントは、834個の部品から成るキャリバー2750です。2005年から2007年の間にわずか7本が販売され、ブラックダイヤルを配したその最初のモデルは、250周年の記念オークションに出品されました。ダブルフェイスに合わせて12本の針を配し、ミニット・リピーターやストライキングレベル表示を含む16種類の複雑機構が備わる「トゥール・ド・リル」は、発表当時世界で最も複雑な腕時計でした。



8.ホワイトゴールドの「リファレンス 57260」2015年
メゾンが260周年を迎えた2015年9月17日に披露された「リファレンス 57260」は、かつてない最も複雑な時計です。8年を費やして誕生したこの時計には、57種類の複雑機構が盛り込まれています。熱心なコレクターからの注文によって作られた「リファレンス 57260」は、卓越性やオーダーメードに応える職人技の伝統を受け継ぐレ・キャビノティエ工房の専門技術が見事に表現されています。音で告げる表示としては、5本のゴングでビッグベンのメロディを奏でるグランおよびプチ・ソヌリがあり、いつでも好きな時にストライキング機構を起動できるミニット・リピーターやアラーム機能も併せ持っています。これらの機能にはそれぞれトルク表示を加えたパワーリザーブ表示があり、アラームに関してはシングルトーンの通常モードとカリヨン・モードを選んで鳴らすことができます。



9.イエローゴールドの「レ・キャビノティエ・ウェストミンスター・ソヌリ -ヨハネス フェルメールへ敬意を表
して-」 2021年
2013年にプロジェクトがスタートしたこの特注によるイエローゴールドの懐中時計は、オート・オルロジュリーにおける独自の専門技術と装飾芸術が見事に表現されています。搭載された新しい自社ムーブメントのキャリバー 3761は、「リファレンス 57260」を設計したウォッチメーカーたちによって開発されました。808個の部品から成る新しい手巻きムーブメントは、トゥールビヨンで調速し、グランおよびプチ・ソヌリにミニット・リピーターが組み合わされています。直径98㎜、オフィサータイプのケースバックカバーには、ジュネーブ技法で繊細に描かれたミニアチュール・エナメルが配され、オランダの画家ヨハネス・フェルメールが1665年頃に描いた『真珠の耳飾りの少女』が再現されています。ケース側面は、手彫りの彫金によるフリーズ模様で飾られ、ボウは、ゴールドのブロックから彫り出された2頭の咆哮するライオンの頭で飾られています。






[まとめ] 
・17世紀の終わりに発明されたストライキング・ウォッチは、その複雑機構が本物の楽器を演じた。
・ジャン=マルク・ヴァシュロンは、メゾンがヴァシュロンを名乗る前の1740年年代にマスターウォッチメーカーの資格を得るための最終課題としてアラームウォッチを製作した。
・ヴァシュロン・コンスタンタンの製造台帳でストライキング・ウォッチについての最初の記述は1806年に遡り、クォーター・リピーター機構が備わるゴールド製の懐中時計だったことが知られている。
・メゾンは2世紀半に渡り、音で時刻を表示する時計と超薄型機構で名声を誇ってきた。





【お問い合わせ】
Vacheron Constantin
0120-63-1755(フリーダイヤル)




【ヴァシュロン・コンスタンタン】
1755年に創業したヴァシュロン・コンスタンタンは、265年以上にわたり一度も時計づくりを中断したことがない、時計製造の分野で世界最古のマニュファクチュールです。何世代にも渡る名工たちによって培われた時計づくりの卓越した技術と洗練されたスタイルを途切れなく代々継承し、そこに根差す輝かしい遺産を守り続けてきました。 メゾンが創作する時計は、控えめで気品豊かなスタイルに高級時計の素晴らしい価値が体現されています。その一つ一つに、最高峰の職人技と仕上げを維持しながら、ヴァシュロン・コンスタンタンならではの技法や美意識が表現されています。 ヴァシュロン・コンスタンタンを代表するコレクション「パトリモニー」や「トラディショナル」、「メティエ・ダール」、「オーヴァーシーズ」、「フィフティーシックス」、「ヒストリーク」、そして「エジェリー」などでは、つねに比類ない伝統と革新の精神が一体になっています。さらにメゾンでは、時計に精通した顧客の方々の難しい要望に応え、“レ・キャビノティエ”部門を通じて特注によるユニークピースの提案も行っています。