独立系メゾン訪問 : クリストフ・クラーレ ル・ロックル ワークショップ 後編

 By : CC Fan
当サイトでも三越や東武のワールドウォッチフェアの話題が掲載されていますが、私は本業の都合でプレスディ以降参加できていません…なんとか今週末にはいきたいとは思っています。

代わりと言っては何ですが、長くなったので前後編に分割したクリストフ・クラーレ(Christophe Claret)のル・ロックル(Le Locle) ワークショップの訪問レポートの後編です。
前編はこちら

前編ではCADによる設計やNC工作機械による部品製造など、クラーレが黒子として時計業界で躍進するきっかけとなった現代的な側面を紹介しました。
後編では一転して伝統的な手作業による仕上げ・組み立て・調整といった側面を紹介いたします。

品質保証試験を通過した一つの時計を構成する部品は"キット"として組み立て部門の時計師に渡されます。
組み立て部門は新館の2階に時計師数人ごとをアトリエ(Atelier)としてチームとして部屋を分けた組織になっており、それぞれ担当するムーブメントが決められています。



他社供給のムーブメントもあるため、各部屋は指紋認証によるセキュリティにより、情報のコントロールが行われています。
各時計師はキットとして受け取った部品を調整し、さらに再度仕上げを行って組み立てを行います。

まずは主に鳴り物(ミニッツリピーターやソヌリ)を担当するのはアトリエ・ウェストミンスター(Atelier Westminsetr)です。



見学に訪れた時はトゥールビヨンと4つのカテドラルゴングを持つウェストミンスター・ミニッツリピーターを備えたソプラノ(Soprano)のムーブメントを組み立てているところでした。



専用の機械台にセットされたソプラノのムーブメントです。
台の切り欠けはレバーを操作するためのもので、この台に載せたまま調律を行います。
ムーブメントに対し、4組のカテドラルゴングがいかに場所をとっているかわかります。

部屋の真ん中には時計師どうしがムーブメントを観察しながらディスカッションやレビューができるように接眼レンズが二組ある立体顕微鏡が置かれています。
今回、接眼レンズにカメラを無理やり近づけることでムーブメントの撮影を行うことができました。



写りが悪いですが、文字盤側です。
通常ケースバック側に配置する香箱やトゥールビヨンをすべて文字盤側に持ってきているアップサイド・ダウン型のムーブメントなので、クリストフ・クラーレのシグネチャーであるCCをかたどったトゥールビヨンケージが見えます。
最近は供給先の要望なのか、形状を変更されたりしていますが、一時期はよく"自社ムーブメント"で見かけました(バレバレだからこそ形状が変更されたのかもしれませんが)。



ケースバック側には通常は文字盤側に配置されるミニッツリピーターのメカニズムが配置されます。
時刻を読み取るためのスネイルカムやハンマーを駆動するラック、静止時にそれぞれを規制するバネなどを見ることができます。

アトリエの片隅に置かれていたのは、時計業界対抗射撃大会の3位(銅賞)のトロフィーです。



甲子園などと同様、各年の優勝チームの名前が彫り込まれ、1年ごとに返却する方式です。



これはチーム戦のものですが、自動車業界からプロセス(生産工程)マネージャとしてクラーレ社に加わり、今回のファクトリーツアーをアテンドしてくれたエリック(Eric)氏は個人戦をぶっちぎりの成績で優勝したとのことでした。
射撃が結構身近だというのを聞き、スイスの国民皆兵を実感しました。

続いては女性向けの花占いができるマルゴ(Margot)や磁石を使ったX-TREM-1などを組み立てているアトリエ(名称失念)です。
ちょうどマルゴのムーブメントと、X-TREM-1の最新作、STING HGとのコラボレーションモデルのムーブメントを組み立てていたので拝見させていただきました。



マルゴのムーブメント、二つのプッシャーは上側がランダムな枚数の花びらを摘む、下側がリセット(すべての花びらが元に戻る)です。
時計としてのリュウズは12時側にあります。



X-TREM-1 STING HGのムーブメントです。
STING HDによって作られたドクロ(ピンぼけてますが…)は軽量なアルミニウム製で、フライングトゥールビヨンへの影響を最小限に抑えているそうです。
磁気駆動によるレトログラード表示を確認するために機械台側にボールとチューブが設置されています。



こちらは部品製造部門で拝見したSTING HDのケース。
ドクロの張り出しの分、トゥールビヨンの風防がドーム状になっています。
サイドのチューブはサファイヤがオミットされ、針金状のカバーのみでボールを支持します。

最後に最もコンプリケーションなモデルを担当するアトリエ・ゼファー(Atelier Zephr)です。
現在は退職されていますが、日本人時計師の関口陽介氏もこのチームでカンタロスやマエストーゾ(Maestoso)などを担当されていました。
カンタロスは(クラーレにしては)アクセッサブルなモデルですが、構造的には最難関に近く、このアトリエ・ゼファーにて組み立てられています。



生産プロセス改善の試みとして、時計師からも設計データベース上の3Dモデルにアクセスできるようにして設計部門とのコミュニケーションをより推進するため、時計師机の反対側の机にはコンピュータが置かれ、社内の設計データベースにダイレクトにアクセスできるようになっています。
操作を行っているのはテクニカル・マネージャー兼時計師のパウロ(Paulo)氏です。



マリンクロノメーターに搭載されたデテント脱進機を腕時計化した、マエストーゾのムーブメントです。
全体的なデザインもマリンクロノメーターのムーブメントを彷彿とさせるテイストでまとめています。
こうやって見ると向かって右はただメッキなどの仕上げがなされていない組み立て途中のムーブメントに見えますが…



裏返すとなんと地板とフローティング部分がスケルトン加工されています!
これは裏側からもデテント脱進機の挙動を観察するために関口氏が作ったものだそうです。

フローティング機構の支持部やバネなど最小限の部分のみ残して抜かれていますが、特に設計図などを作るのではなく"手を動かして"作ったそうです。
思いのほか好評で、クラーレ本人も見て"良いね"とのこと、私もこれはかなり惹かれます。

他にも振動数によるデテント脱進機の挙動の違いを調べるために18,000振動/時程度(ノーマルは14,400振動/時)まで振動数が高めてあるそうです。
よく見るとテンワに関口氏が自作した錘が載っているのが分かります。
ギア比は変えていないためこのままでは使えませんが、このカスタムはかなり良いのではないでしょうか。
クラーレ社長、これスペシャルな限定モデルで出しませんか?



デテント脱進機には一般的に使われている音を拾うタイプの歩度測定器が対応していないため、レーザーを使った専用の測定器で歩度を測定します。



このほかマクロレンズ付きの1/1000秒(1000FPS)を捉えるハイスピードカメラがあり、スケルトン化したムーブメントを使いデテント脱進機の挙動を解説していただきました。





長くなりそうなので、マエストーゾとデテント脱進機については別途紹介したいと思います。

各工房で作られたムーブメントやピースは完成した段階で品質保証部門のチェックリストに従いチェックが行われます。



これはX-TREM-1の時差修正プッシャーの押し心地を評価しているところです。



測定器を使い、押し量-反発力のグラフを求め、基準値と比較し評価します。

ここまでは新しくムーブメントを作成する工房でしたが、これらとは別にアフターセールスやサービス、オーバーホールを行うためのアフターサービス部門の工房もあります。



こちらは旧館の3階の日当たりの良い屋根裏部屋に設けられています。

クリストフ・クラーレ名義のピースのほか、他社供給のムーブメント・ピースもここでオーバーホールや修理などのアフターサービスを行います。
簡単なオーバーホールや調整であればこの部門だけで行いますが、私のカンタロスのケースのような複雑なものは一度別アトリエに帰すこともあるようです。

作業風景など紹介したいのですが、"見てはいけないもの"が大量にあるので、引き気味の一枚でご容赦ください。

各部門を分けて分業制にし、各工程の途中に品質保証部門による検査を挟むことで責任範囲を明確にしたりと良くも悪くも大きな組織として最適化しようとしているということが分かりました。



このほか、前編でも触れたジャン・デュナン(Jean Dunand)のピースをいくつか拝見させていただいたりしましたので別途レポートします。

ありがとうございました!



関連 Web Site (メーカー・代理店)

CHRISTOPHE CLARET
http://www.christopheclaret.com/

Noble Styling Inc.
http://noblestyling.com/