ジャン・デュナン シャバカ (2015年モデル)

 By : CC Fan
ジャン・デュナン(Jean Dunand)のタイムピース実機レポート第二弾、シャバカ(SHABAKA)の2015年モデルです。

第一作のトゥールビヨン・オービタル(Tourbillon Orbital)でデビューしたジャン・デュナンは、二作目として"普通"なグランド・コンプケーション(Grande Complication)をバリエーション違いの6本(それぞれはユニークピース)で発表しました。


グランド・コンプリケーション(ジャン・デュナンのプレス資料より)

複雑機能としてスプリット時の摩擦を抑えるアイソレーター付きのモノプッシャー スプリット・セコンド クロノグラフ、トゥールビヨン、ミニッツ・リピーター、そして二つのレトログラード表示による日付と曜日表示を持つ永久カレンダーを備え、搭載されるムーブメントCLA96の部品数は827にも上りますが、保守的な作りで"世界初"や"特許"とされるような機構もありませんでした。

第三作、シャバカ(SHABAKA)は一転、トゥールビヨン・オービタルのように世界初となるユニークな機構を目指し、2009年に発表されました。
搭載する複雑機構の種類としてはミニッツ・リピーターと永久カレンダーのみですが、永久カレンダーの表示はディスクや針ではなく瞬転する4個のシリンダーによって行うというユニークな方法をとっています。


シャバカ 2009年モデル(ジャン・デュナンのプレス資料より)

シャバカという名前はエジプトの第25王朝の王の名前に由来し、各部のデザインにもエジプトをイメージさせるエキゾティックな意匠が設けらていました。
特徴的な文字盤は4層の構造からなり、ゴールドにブラックコーティングを施した下地に、フレームとしてニッケル合金が重ね、さらにアワーマーカーとなるピラミッド状のゴールドが重ねられています。
シリンダー表示の軸上の10時、12時、2時のアワーマーカーはレッドのセラミックを用い、文字盤中央部にも同様のセラミックのマーカーを配することで曜日・日付・月のシリンダーの指標としています。

ムーブメントCLA88QPRMはムーブメント直径29.5mm(13リーニュ)で、機構的にはミニッツ・リピーターを備えたベースムーブメント(CLA88)と永久カレンダープレート(QPRM)に分けることができます。
しかし、直径7mmのシリンダーを厚みを抑えて格納するためにミニッツ・リピーターのレバーを再配置させたうえ、リピーター機構面より2.5mm沈み込ませているため、単純にベースムーブメントに出来合いのモジュールを載せただけという作りではありません。

ムーブメントCLA88QPRM 文字盤側(ジャン・デュナンのプレス資料より)

シリンダーは12時位置がビックデイトの日付、2時位置が月、10時位置が曜日を表し、それぞれは通常のムーブメントの軸に対し、90度の角度で立ち上がったトランスミッション・システムによって動かされます。
7時から8時の位置に配された閏年表示は文字盤が文字(B=Bissextile=閏年・1・2・3)の形のくりぬきがムーブメント側の白い扇状の部品の色を通すことによって文字を表示する仕組みです。
4時位置のムーンフェイズは通常とは逆に、背景が白(満月)、移動する部分が黒(影)となっており、文字盤の月の形の開口部に影を落として月例の変化を表示します。
また、このムーンフェイズはいわゆる"高精度"ムーンフェイズで120年に1日の誤差しか発生させません。

これらの表示は深夜12時ににすべてがスプリングによって瞬間的にジャンプさせる瞬転式となっています。


一部のブリッジを取り除きカレンダー機構を可視化したCG (ジャン・デュナンのWebSiteより)

従来の大半の永久カレンダー機構では24時間で一回転する歯車(日送り車)が直接カレンダーを動かし、ゆっくり動力が伝わるために切り替えに時間がかかってしまいます。
シャバカの機構では日送り車のトルクを一日かけてトルク蓄積のための「フライホイール機構」に蓄え、深夜12時のトリガーによって一気に放出することで全てを瞬間的に動かすようにしています。
この機構は瞬転時の衝撃を最小限に抑える役目も担っており、ムーブメントへのダメージを未然に防ぎます。

永久カレンダーの常として、ワインダー(手巻き用・リュウズを直接クラッチ付きのモーターで回転させる)付きのボックスが付属しますが、万が一停止してしまったとしても数日であれば4時位置のプッシャーによって全表示をまとめて一日単位で送ることができるため再調整は容易です。
あまりにも長期間停止した場合は各表示ごとにプッシュピースを使って修正します。

ムーブメントCLA88QPRM ケースバック側(ジャン・デュナンのプレス資料より)

ケースバック側からはミニッツ・リピーター機構のハンマーやカテドラル・ゴングを見ることができます。
基本的なレイアウトは伝統的なミニッツ・リピータームーブメントですが、いくつかのクリストフ・クラーレ銘のタイムピースと同様、香箱はオープンになっており直接パワーリザーブ(主ゼンマイの張り具合)を目視することができます。

もちろんケースバックはシースルーになっており、オーナーはムーブメントを直接鑑賞することができます。


シャバカ 2009年モデル(ジャン・デュナンのプレス資料より)

見辛いですが、プッシャーの根本には誤操作を防ぐため、プッシャーをブロックするためのスイッチも備えられています。

何が一番の魅力といえるか?と考えた場合、永久カレンダーという複雑な機構にもかかわらず、シリンダー表示にしたことで、文字盤をシンプルにし、複雑性を表に出さないことではないかと考えました。
ケースも他に類を見ない変わった形ですが、シャバカのテーマであるエジプトのエキゾチックさとブランドのテーマであるアール・デコの両方の要素をうまく取り入れた意匠ではないかと思います。

さて、ここまでは2009年に発表された"初代"シャバカで、発表当時、ピース自体は日本に来たこともあるそうです。
この後、第四作のパラス(PALACE)を発表してからジャン・デュナンは一旦休止してしまい、復活は2015年を待たなくてはいけませんでした。

前置きが長くなりましたが、その復活の時に選ばれた記念ピースが今回拝見したシャバカ(2015年モデル)です。



一見してわかることは、トゥールビヨン・オービタルと同様のラウンドケースになり、名前の由来となったエジプトっぽさは抑えられています。
文字盤もトゥールビヨン・オービタルと同様に天然石を使っているようです。
2015年のバーゼルではホワイトゴールドケース・黒色の天然石文字盤のモデルとピンクゴールドケース・朱色の天然石文字盤のモデルが展示されたそうなので、これはそのうちの一つではないかと思われます。



厚みはそれなりに…
ちなみにプッシャーは2時位置が曜日送り、4時位置が全てをまとめて1日送り、プッシュピースはリュウズ同軸が月と年を送り、5時位置がムーンフェイズの送りです。
ムーンフェイズ表示の縁を見ると文字盤は結構厚めのようです。



シリンダー表示の厚みの感じは伝わりますでしょうか。



ミニッツリピーターのスライドも特徴的なデザインだった2009年モデルのものから、一般的なラウンドケースにあわせたものになっています。
リピーターにもかかわらず、3気圧の防水も確保しています。



永久カレンダープレートに対し、ベースムーブメントが小さいおかげでシースルーの開口部からゴングまでを一気に見通すことができます。



最上級の仕上げが施されたリピータームーブメントを堪能できます。



直径7mmのシリンダーはこうしてみると時計の部品としてはあり得ないほど厚いと言えそうです。

シャバカはトゥールビヨン・オービタルとともに、"世界初"の機構を搭載し、"ジャン・デュナンらしい"といえるピースではないかと思います。
エジプト調のデザインを纏った2009年モデルと、よりフォーマルになった2015年モデル、どちらも大変魅力的です!
今回はかないませんでしたが、いつかは両方を並べてみたいです。

ありがとうございました!

関連 Web Site (メーカー・代理店)

Jean dunand
http://www.jeandunand.com/index.php

CHRISTOPHE CLARET
http://www.christopheclaret.com/

Noble Styling Inc.
http://noblestyling.com/