ジャン・デュナン トゥールビヨン・オービタル

 By : CC Fan
予定よりも時間がかかってしまいましたが、独立系メゾン訪問レポートも書き終わりましたので、次は拝見したピースを紹介したいと思います。
新作というより、個人的に憧れていた過去の名作を紹介するという形になりますが、よろしければご覧ください。

まずは、クリストフ・クラーレ(メゾン訪問:前編後編)の工房で拝見したジャン・デュナン(Jean Dunand)のトゥールビヨン・オービタル(Tourbillon Orbital)です。


アベンチュリン文字盤・ダイヤモンドセット・RGケース

ジャン・デュナンはクラーレとボヴェ(BOVET)を復興した企業家ティエリー・ウルヴェイ(Thierry Oulevay)が2003年に設立したブランドです。
ブランド名のジャン・デュナン(1877~1942)というのははスイスからフランスに帰化したアール・デコ運動の芸術家で、クラーレとウルヴェイの二人ともデュナンの作品の愛好家であったことから、彼を称えブランド名としました。
その名に相応しいよう、単なるアール・デコ様式の復刻ではなく、アール・デコ運動のエスプリと神髄そのものを現代に映し出す作品を作ろうとしていました。

アール・デコに並ぶ、もう一つの特徴はピース・ユニーク(Piece Unique)という姿勢でした。
全ての時計はそれぞれ仕様が異なるユニークピースで、同じ仕様は二つとありません。
当然、ムーブメントの複雑性と相まって極めて希少かつ高価なピースになります。

このように、現代の時計技術の頂点を極め、前代未聞の先進的な機械式時計を創出することを目標としていました。

しかし、四作目のパラス(PALACE)を発表した後、いろいろゴタゴタがあってしばらく休眠状態になってしまいました。
2015年のバーゼルワールドで新しいシャバカ(SHABAKA)を伴って復活するものの、続報はなし…という状態と認識していましたが、直接聞いたところ、活動は継続しており、現在も注文できるそうです。

さて、トゥールビヨン・オービタルはジャン・デュナンの初作で、現在でも珍しい、トゥールビヨンが文字盤上を公転運動(オービタル)する複雑機構を備えています。
トゥールビヨン自体は1分で一回転し、トールビヨンを含む文字盤全体は1時間で一回転します。

どのように実現しているのか、まずはムーブメントを見てみましょう。

ムーブメントは専用ムーブメントIO200(イオ200)です。
イオと名前は木星の衛星から名づけられています。

IO200 (ジャン・デュナンのプレス資料より)

全体を支える下側の地板が固定されており、その上に載っている香箱・トゥールビヨンが搭載され大型のボールベアリングによって支えられた2枚の可動地板が丸ごと回転します。

固定地板に固定された大きな内歯車がこのムーブメントのポイントです。
香箱は文字盤中心軸の固定ピニオンにかみ合い、ほどけることで可動地板全体を回転させます。
可動地板が回転すると、内歯車にかみ合った別の歯車(写真向かって右)から可動地板裏の輪列を通ってトゥールビヨンまでトルクが伝わり、トゥールビヨンが脱進動作することで全体の回転速度を一定に制御します。
適切なギア比により、可動地板は1時間に一回転(=二番車・分の歯車)と同じ機能となります。

このような構造を使うことで、公転するフライング・トゥールビヨンという複雑な機能を部品数215個・ボールベアリング4個とルビー受け石14個という数値で表されるいう極めてシンプルな機構で実現しています。
裏輪列に加え、フライング・トゥールビヨン周りに日の裏車などがないため、まさにトゥールビヨンがどこにも触れず、浮かんで回転しているように見えます。


さえぎるものがないフライング・トゥールビヨン (ジャン・デュナンのプレス資料より)

可動地板が回転するため、通常のムーブメントと同じ位置に巻き芯を置くことはできません。
回転運動のうち、唯一停止している中央部から巻き上げと時合わせを行うための機構が固定地板の裏面に備えられています。

ムーブメントケースバック側 (ジャン・デュナンのプレス資料より)

向かって右側がリュウズ相当のキー(Dリング)が取り付けられる軸です。
リュウズと同様、通常ポジションで巻き上げ、引き出して時合わせを行います。
注意点として、巻き上げ・時合わせ共に終わった後に所定の動作で、"切り離し(disengage)"を行わないとメカニズムが停止すると説明書には書かれています。
後年、X-TREM-1に使われたものも同じような部品のようですが、あちらが巻き上げと時合わせが分離しており、"切り離し"も必要なくなっています。

向かって左側にはムーンフェイズが備えられ、おそらく可動地板から減速して回していると思われます。

ムーブメントサイドにはパワーリザーブインジケーターが備えられ、110時間のパワーリザーブの残量を正確に知ることができます。
香箱からの直接測定は難しいですが、可動地板の回転数は香箱に比例しているので、可動地板と巻き上げ輪列から回転数を拾うことでパワーリザーブが計算できます。

パワーリザーブインジケーターの逆サイドはさえぎるもののない開口部となっており、ケースサイドの窓(後述)からムーブメントの動きを鑑賞することができます。

サイドから見たIO200 (ノーブルスタイリング 山口氏提供)

この角度から見て気が付きましたが、おそらく、ボールベアリング4個というのは、可動地板の保持に2個、フライング・トゥールビヨンの保持に2個ではないかと。

ここから実機写真です。



このトゥールビヨンの位置だとあまりオービタル感がないですね…
トゥールビヨンケージや針(スカイクレーパー:摩天楼)もアール・デコ調のデザインです。



片方のケースサイドからはパワーリザーブが確認できます。
ムーブメント自体が直径33mm×厚み10.4mmあるため、ケースは45mm×15.3mmとクラーレっぽい大きさです。



もう片方のケースサイドからはムーブメントが観察できますが…ちょうど香箱が通過しているところでした。



サイドからムーブメントの余白を楽しむというのはなかなかないかもしれません。



ケースバックもアール・デコ調のエンジンターンドバックで仕上げられています。

実機はアベンチュリン文字盤のものしかありませんでしたが、いくつかの文字盤サンプルも拝見させていただきました。
ムーブメントのトルクに余裕がある(もともと回している可動地板が重い)ため、かなり重たい文字盤も可能なようです。







個人的には、IO200をそのまま見せるとかアリじゃないかと思いました。

関連 Web Site (メーカー・代理店)

Jean dunand
http://www.jeandunand.com/index.php

CHRISTOPHE CLARET
http://www.christopheclaret.com/

Noble Styling Inc.
http://noblestyling.com/