カンタロスの里帰り延長に寄せて(T.H.F. wrokshop紹介)

 By : CC Fan
以前の記事で"11月中に帰ってくる"とお知らせしたクリストフ・クラーレ(Christophe Claret)のカンタロス(Kantharos)ですが、組み立ては終わったものの、出荷検査がNG、1か月から2か月の里帰り延長が決まりました。
以前の記事を書いた後もクラーレ社とも色々ありましたが、結果的にはいい方向になったので良しとしています。

いい機会なので、今回落ちた"出荷検査"と機械として見たときコンスタントフォースに感じる疑問について書きたいと思います。

まずは出荷検査から、ほかの独立系はどこまでやっているのか?や、試験は社内なのか社外なのか?と、いうことはあまり知りませんが、クラーレについては一般的な量産品の時計と同じ水準の出荷検査を社内にて行ってから出荷しているとしています。
量産品では一部の検査はランダムまたは規定個数ごとに抜き取りる検査ですが、生産数が少ないこともあり、基本的には全数検査を行っているようです。
"そこまでやっているのにカンタロスは5回も帰ってるのか"と言われそうですが、生産数が少ない複雑機構を持つキャリバーを量産品質まで安定させるのが如何に難しいかということであり、工業製品としてみた場合、数を作ってはじめて分るような知見が、"理論的"と”実際"の間のギャップとなっていると考えています。
どうしても数を作らない(作れない)独立系は量産時のクオリティコントロールという点においては数を作れる大手メーカーとはなかなか越えられない差があるのかと思います。

さて、カンタロスに対する検査は保証書とともに添付されている検査証明書に記されています。

原本をクラーレ社よりスキャンして送ってもらったものなので少し荒いですが、検査証明書の表側、T.H.F (Test Homologation Fiabilité:テスト・認証・信頼性) ワークショップの紹介です。
過去に信頼性の問題があったことから、設計・製造とは独立した品質保証ワークショップとして2009年に設立され、新規設計ムーブメントの信頼性評価のための加速試験、及び長期の耐久試験を行うセクションです。
プロダクション版ムーブメントの評価もこのセクションが行っており、テスト用ムーブメントに対する試験を短時間で評価できるようにしたプロダクション用試験を全てのムーブメントに対して行います。

テストとしては、
  • クロノグラフの機能テスト(各400回のスタート・ストップ・リセット)
  • 衝撃テスト(6方向からの衝撃)
  • 防水試験(ISO2281準拠)
  • 自動巻き試験(48時間のサイクロテスト)
と一般的な試験項目が並びます。

まずはクロノグラフの機能テストです。



このようなプッシャーを押すマシンを使い、プッシャーを規定回数押して正しく動作するかを検査します。
この写真ではX-TREM-1がセットされ、時差修正用の1時間送りプッシャーが押されています。



プッシャーを押す力はリアルタイムにモニタリングされ、グラフに記録されます。
このグラフも基準値が決まっており、規格内に収まっているかが同時に確認されます。
プッシャーの押し心地が良いと思ったのはこれのおかげかもしれません。



手ブレしてしまっていますが、こちらはゲーミングシリーズのポーカー(POKER)用の検査証明書です。
カードを1000回シャッフルして充分ランダムであること、フロップ(FLOP)とリバー(TURN RIVER)を1000回開閉し異常がないことを基準として定めています。
"充分ランダム"は人間が集計するのは非効率的なので、カメラを用いた画像処理によって出目を記録します。



機能によっては前述のカメラの他、音質評価用のマイクとソフトウェアも用いる…という説明をするクラーレ。
マイクの横にある青と白の板状のものは各ピースに対応した固定用の冶具です。

衝撃テストは圧縮空気圧を使ったカタパルトのような機器を使って行います。



スイングするハンマーを使って衝撃を与える方式よりも加速度の再現性が良い上に、時計自体は冶具で固定されており、ぶつかることにより外装に傷をつけることがないので、耐久試験やムーブメント単体試験だけではなくケーシングした製品の最終検査にも使えるそうです。
また、XYZ方向に自由に動かせるため、一度取り付ければ全方向の衝撃を連続して与えることができ、衝撃の設定を変えることで落下に相当する衝撃のほか、腕の動きなどをシミュレーションした衝撃なども与えることができるそうです。



機器名は"SHOCKTEST"とそのまんまな名前です。
これもChristophe Claret SAのロゴ入りなので、カスタマイズかオリジナルの機械なのかもしれません。

防水試験はISO(International Organization for Standardization:国際標準化機構)の規格で試験方法が決まっているため、それに従っているようです。
3気圧防水に対し、0.2気圧の加圧・2気圧の加圧・0.2気圧の減圧にて評価しています。

検査の原理的には水を使いますが、いきなり水を使った試験でNGだった場合、水が入り込んでしまいムーブメントが壊れてしまうため、予備試験としてまずは加圧空気を使ったエアリークテストを行っているそうです。
また、ケース単体での評価には分子が小さいトレーサーガス(ヘリウム)を使ったリークテストによるも行っています。



これがトレーサーガスを使うためのヘリウムディテクターだそうですが、原理を完全には理解できていません…



上記のマニュファクチュール紹介動画の5:00~のあたりで使っているのは写っているのですが、何をもって正解なのかということがわかりません。



最後は水を使った原理に忠実な防水検査機で最終チェックを行います。

そして、最後は自動巻き試験(48時間のサイクロテスト)です。
今回はこの試験がNGだったため、"里帰り"が伸びることとなりました。

写真を取り忘れましたが、"観覧車"と呼ばれる業務用ワインダーに一定時間乗せたのち、パワーリザーブが所定の時間持つか(ちゃんと巻き上がっているか)を評価します。
パワーリザーブの測定中もただ動かしておくだけではなく、一定時間ごとに日差をプロットできるタイムグラファーを使って精度も一緒に測定します。



これは別のセクション(リペア部門)で撮った写真ですが、単純なタイムグラファー(向かって右)と姿勢を自動的に修正しながら履歴をとることができる高性能なもの(向かって左)を使い分けていました。



こちらは組み立て部門のアトリエ・ゼファー(Atelier Zephr)にて。
通常の打音を検出するタイプ(向かって左)のほか、マエストーゾ(Maestoso)用のレーザータイプ(向かって右)があります。

今回、他は良かった(?)のにサイクロテストでNGだったということで、迂回した自動巻きが厳しいという予測は当たっていたのかなと思いました。
本当はコンスタントフォースについても書きたかったのですが、ちょっと長くなってしまったので改めます。

関連 Web Site (メーカー・代理店)

CHRISTOPHE CLARET
http://www.christopheclaret.com/

Noble Styling Inc.
http://noblestyling.com/