ヴィアネイ・ハルター 「ラ・レゾナンス」~銀河の旅の思い出

 By : CC Fan


2021年初頭に3軸トゥールビヨンとレゾンナンス機構を組み合わせたディープ・スペース・レゾナンスのプロトタイプを発表して度肝を抜いたヴィアネイ・ハルター。
ディープスペーストゥールビヨンの機構を「発展」させ、差動歯車とカルーセル的な固定歯車も動く機構によってディープスペースにテンワが対向しているレゾナンス機構を取り込むことに成功しました。

2022年の新作として、よりレゾナンスにフォーカスした固定テンワのラ・レゾナンス(La Resonance)が発表されました。
ちょっと遅れてしまいましたが、先ずはプレスを抄訳したブログで情報を掲載します。


Pictures credit : The Horophile

ディープ・スペース・レゾナンス同様、百聞は一見に如かず、動画を見てみましょう。


Video credit : Alexandre Favre

ヴィアネイが選択したレゾナンス方式はアコースティック(音響振動)による共振同期、これは特性を揃えた二つのテンワをヒゲゼンマイが向かい合うように可能な限り接近対向配置し、共通ヒゲ持ちで連結することで、ヒゲゼンマイやテンワから発生する低周波-可聴域の振動を伝え、テンワのタイミング情報が交換され、最終的に同じ周波数に同期する物理現象です。

共振状態は同相(二つのヒゲゼンマイの伸縮が同期する)と逆相(二つのヒゲゼンマイの伸縮が反対になる)の2モードが存在し、どちらになるかは時計が動き出した時の微妙な初期状態と同期に至るまでの過渡状態によって変化します。
巻き上げ方式は手巻き、パワーリザーブは100時間です。



ディープ・スペース・レゾナンスでも登場した2007サント・コアと記された原理検証模型とディープ・スペース・レゾナンスとラ・レゾナンス。
原理検証模型は独立した二つの輪列を地板の表裏に配置した構造でしたが、ディープ・スペース・レゾナンスとラ・レゾナンスは一組の香箱の動力を差動歯車機構によって分配して二つの独立した回転を作る方式です。



ディープ・スペース・レゾナンスは回転する3軸トゥールビヨンによってレゾナンス機構を余すところなく堪能することができました、ラ・レゾナンスではケースサイドに設けられた追加のウィンドウによって同様に共振現象を余すところなく堪能することができます。
この現象を主役として3時位置に持ってきたためか、いわゆるレフティのようにリュウズは9時位置に配置されています。

新開発のVH222は今までの時計ムーブメンントの常識を覆すユニークな構造によって作られています。

機能自体は古典的ですが、ディープ・スペース・レゾナンスと同じ技術的バックグラウンドを感じさせる構造です。
レゾナンスに必要な対称性と等方性を得るため、ヴィアネイは一般的な地板を省き「ブリッジ」と「柱(ピラー)」のみで構成されるキャリバーを製作しました。
地板がないことで組み立て時に特定の「基準方向」がなく、ムーブメントはより自由な方向に組み立てることができるようになり、まるで宇宙で組み立てられているようにブロックごとに組み立て・分解を行うことができるようになりました。
またこの構造と共振現象をより強調するため、各ブリッジは評価を重ね可能な限り軽く薄くなるように設計され、全体として剛性を保ち頑丈さを確保する設計となりました。



二つの香箱のから供給されるパワーは大型の2番車を経て、3番位置に配置された差動歯車(ディファレンシャル)によって二つの独立した回転に分割されて二つの4番車、そして二つのガンギに伝わり、それぞれのテンワを駆動します。
ヴィアネイの美意識と歯車が大きくて歯数が多いほど動力伝達がスムースになる(トルク脈動が相対的に減る)という事からすべての歯車は設計上限界まで大きくされ、加工の困難さと引き換えに美しい外見を生み出しています。



9時位置の香箱からスタートしたエネルギーの流れは、中央ののディファレンシャルで分割され、1時と5時位置の大型の4番車に分かれ、再び3時位置の共振テンワで合流します。
この「主役」を堪能するため、テンワの周りは意図的にコンポーネントの密度を下げています。



ヴィアネイのインスピレーション・知識・ノウハウの結晶、のムーブメントは全ての面において革新的で、合計で3.7mの面取りを行った11の歯車と13個のチタン製のブリッジ、そして30個のミラーポリッシュで仕上げられた凹面状の柱で構成されています。
対称的な美しさを強調した構造は伝統的な手仕上げによって仕上げられ全ての要素を美しく魅せます。



特徴的な「長い軸」、2つの4番車の軸と2つのガンギの軸の仕上げはより特徴的です。
丸ではなくファセット(角仕上げ)の軸は、古典的な塔時計を作った名もなき鍛冶職人へのオマージュです。
当時はまだ旋盤は無く、軸を作るためには熱した金属をハンマーで叩きながら形を整えるしかありませんでした。
現代の旋盤を使えばもっと簡単に作れる構造ですが、ヴィアネイの目的は簡単な時計を作ることではないのです。

このユニークな機械装置の作成は、過去・現在・そして未来にインスピレーションを得ています。



ケース構造はヴィアネイのDNAに立ち返り、再構築されています。
それは、ケース自身は内包するメカニックを展示するための「額縁」であるべき、という考え方で、実現するために最小の素材でスリムなケースを実現することを目指しました。
答えは39mm直径のチタン製のユニボディリングと3つの曲面サファイアを組み合わせたケースでした。
この構造により、機構の隅々にまで光が当たり、余すところなく機構を堪能することができます。
ケースとは別の仕上げが施されたラグは取り外し可能で、将来的にもオーバーホールや仕上げ直しを行うことができます。

また、リュウズやケースの意匠にもヴィアネイ・ハルターのアイコンがちりばめられています。

私の作品はすべて、時計学の歴史からインスピレーションを得て、我々の先祖に敬意を表しています。 技術者、機械工、時計職人、鍛冶屋、エンジニア、発明家、探検家、そして彼らの時代に技術的な課題に対する機械的な解決策を見つけるために彼らを引き受けたすべての人々。 彼らは新しいものを作り、独自の美的感覚を加えました。 ヴィアネイ・ハルター



ジョン・F・ケネディの1962年9月12日のスピーチ曰く、「我々が月に行きたいと言ったのは、それが簡単だからではありません、それがとても困難で、エネルギーと技術が必要だったからです」ヴィアネイはこの考え方に深く感銘を受け、ワークショップでの生き方になりました。
技術課題を確信することは常に彼の目標となりました。

ラ・レゾナンスはアコースティックレゾナンスを引き起こすサスペンドキャリバーの制作にかかる作業量のた
め、年間7個以下の生産量を見込んでいます。

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というわけで、ディープ・スペース・レゾナンスに引き続き、いかにもヴィアネイらしいすさまじい作品が登場しました。
歯車の配置の巧みさによって最初はこれどうなってるんだ?という感じではありましたが、この抄訳ブログを書きながらなんとなく構造が見えてきたので、「理解」しつつ、「いつもの」も作りたいと思います。

関連 Web Site

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