独立系メゾン訪問 : ヴィアネイ・ハルター サント・クロア "プライベート・プレイス"

 By : CC Fan
独立系メゾン訪問の第二弾、ヴィアネイ・ハルター(Vianney Halter)のサント・クロア(Sainte-Croix) "プライベート・プレイス"の訪問レポートです。

ハルター氏は個人的には"奇才"という呼び名が最も相応しいと考えている時計師で、以前取り上げたアンドレアス・ストレーラ(Andreas Strehler)氏と同じく、一方的に憧れているだけでしたが、SIHHのCARRÉ DES HORLOGERS(カレ・ド・オロロジ:時計の広間)にて偶然お会いすることができました。
氏は現在はドバイ在住で、会社組織もそちらにあるそうですが、今回はちょうどスイスに戻ってきているタイミングに合致したため、チューリッヒからサント・クロアの"プライベート・プレイス"への旅行にご一緒させていただきました。



ヌーシャテルの駅で自動車でピックアップしていただき、高速道路を使ってサント・クロアまで移動します。
私の拙い英語でも問題なくコミュニケーションをとることができたので、車内でも色々な話をさせていただきました(若干スピード狂っぽいのと偶に前を見ていなかったように見えたのは気になりましたが…)。

氏のスタンスはいかにもな"独立時計師"といった感じで、会社・生産規模を大きくすることにはあまり興味が無いようで、数人の"教え子"と共に、今でもベンチ(時計師机)に座り、自ら作品を作っているそうです。
また、他社への技術供与、プロトタイプ作成も行っており、WebSiteのHistoryによると、以前取材したカベスタン(Cabestan)のムーブメント設計を行ったそうです。
また有名な特許では透明素材を使った自動巻きローターの基礎特許を持っており、スウォッチグループ(Swatch Sistem51)やクリストフ・クラーレ(AVENTICUM)にも特許を提供しています。

いろいろ意味で最も有名なのはハリー・ウィンストン(Harry Winston)の独立時計師とのコラボレーションシリーズ オーパス(OPUS)の3作目、OPUS3でしょうか。


ハルター氏に対するインタビュー by ハリー・ウィンストン公式チャンネル

風貌からして時計・時計師共に只者ではないということが伝わりますでしょうか?
OPUS3は独創的な機構により時間・分・日付を各2桁の回転式デジタルディスプレイで表示する時計で、分が切り替わる5秒前からカウントダウンを行う機能も持ちます。

個人的にOPUSは、氏の3とクラーレの4、ストレーラ氏の7が好きです。
今回、クラーレとストレーラ氏の工房も訪れることができ、OPUS7に関してはムーブメントまで拝見することができたので、10年越しぐらいで悲願が叶ったことになります。

ハリーのOPUS3は別として、氏名義の作品は代理店がなく正式に導入されていない時期が長かったため、日本ではどうなのか?と伺ったところ、インターネットによって直接コレクターとのやり取りができるようになり、熱心なコレクターは直接ハルター氏とやり取りしているとのことで、3軸トゥールビヨンを備えるディープ・スペース・トゥールビヨン(DEEP SPACE Tourbillon)も日本のコレクターが購入している!とのことでした。
そのような素晴らしいコレクターには是非お会いしてみたいと思いました。

さて、氏の"プライベート・プレイス"ですが、時計を作るための工房に加え、氏が興味を持っている飛行機・船・SF・古い機械などが蒐集されたコレクション室もあります。

氏は趣味で飛行機を飛ばすそうで、飛行機のコントロール部品(?)に関して、既存品に不満があったため自分で設計して作ったというものを見せてくれました。





時計だけではなく、さまざまな機械が本当に好きで、それらから得られる"インスピレーション"を作品作りに生かしていると感じました。

氏が蒐集しているものの一つが時計台の"ムーブメント"です。



このコレクション室には真空管や古い電圧計など個人的にも興味深いものが集まっていました。



氏曰く、このような古い"測定器"の意匠をスチームパンクやSFな作品作りに生かすそうです。

時計工房の方では、古いフライス盤に氏が制作した"制御部分"を搭載したというNC工作機械を見せてもらいました。





この機械であの複雑な作品が作れるとはにわかには信じられませんが、弘法筆を選ばずということでしょうか…







それ以外でもあまり自動機械というより、手動機械に補助の電子式測定器を取り付けたようなものが多く、手作業による部品加工がおこなわれていることがわかります。

独立時計師でも外注することが多いケースの加工やメッキも社内で行っているそうで、ユニークピースの相談にも相談しだいで対応可能とのことでした。



こちらはメッキの例、おそらくディープ・スペース・トゥールビヨンのベゼル部分ではないかと。



こちらはディープ・スペース・トゥールビヨンのグレード5チタンケースです。
比較的加工が簡単な貴金属だけではなく、加工が難しいチタンも社内で削り出すのは凄いです。
そして、ハイエンドピースにチタンというのは最高です。

凝り性の氏は永久カレンダーに付属するワインダーも自作しています。



回路・メカニズム共に氏が設計したそうです。



時計と同じ世界観・品質を持ったワインダーを付属させる必要があるという考えのようです。

ちょうど氏の机の上ではディープ・スペース・トゥールビヨンの組み立てが行われていました。







この作品は素晴らしすぎてとてもここでは語り切れないので、詳細は別記事にまとめます。



組み立ては伝統的なキズミ(アイルーペ)ではなく、実体顕微鏡を使っていました。





キズミと異なり作業対象を立体的にとらえることができるため、作業がやりやすいとのこと。

工房のほか設計を行う事務スペースも見学させていただきました。



逆光気味ですが、インスピレーションの元となった宇宙計画、SFなどのパネルが氏のデスクの前には飾られています。



ディープ・スペース・トゥールビヨンのインスピレーション元となったスタートレック:ディープ・スペース・ナインのパネルも。



机の上にはSFの名作、アーサー・C・クラークのRAMA(邦題:宇宙のランデヴー)のペーパーバックが。
コンピューターも設計には使っているそうですが、紙のほうが設計しやすいとのことでした。



最近手に入れたという船の推力コントロールレバー、タイムピースに生かせるか検討中だそうです。



こちらも最近入手したソユーズ宇宙船の窓(実際に使用された本物)です。



ディープ・スペース・トゥールビヨンのディスプレイで、"宇宙船の中から外に浮かぶディープ・スペース・トゥールビヨンを眺める"イメージに使えないか検討中のこと。



この後、ディープ・スペース・トゥールビヨンを含むコレクションを一通り拝見させていただきましたが、どの機構も伝統を生かしながらも独創的で冒頭に書いた通り"奇才"という印象をより強めました。
正直に言いますと今まで、カンタロス(Kantharos)より個人的に欲しいと思う時計はなかったですが、ディープ・スペース・トゥールビヨンは同率一位ぐらいで欲しいです。

最後に、このレポートを書いて日本のコレクターに紹介してよいかのと許可を求めたところ、快諾していただくと共に、興味があれば是非公式Webサイトから連絡してほしいとのありがたいメッセージをいただきました。
基本的に英語であれば問題ないそうですが、英語に不安がある場合、お手伝いすることも可能ですので、是非お手伝いさせてください。
私も完全に理解できていないので偉そうなことは言えませんが、氏の作品は是非、氏と直接話して世界観・哲学を理解したうえで購入した方が楽しめると思います。
なおかつ、詳細は別途のタイムピース紹介で述べますが、直接話すことでユニークピースを作ることもできそうです。
私も将来的にはディープ・スペース・トゥールビヨンはコレクションに加えたいです。

動画を探しているときに見つけたハルター氏によるSIHH2017のレポート動画を掲載します。


SIHH 2017:Vianney Halter's choice by FondationHH公式チャンネル

ハルターさん、今回は本当にありがとうございました!

関連 Web Site

Vianney Halter
http://www.vianney-halter.com/index.php

コンタクト
contact@vianney-halter.com