BaselWorld2018 アンドレアス・ストレーラ トランスアクシャル トゥールビヨン

 By : CC Fan
しばらくの間、盛大に横道にそれましたが、今回からまたバーゼルワールドの新作を紹介したいと思います。

去年、工房を訪れ、バーゼル参加を決めるきっかけともなった、アンドレアス・ストレーラ(Andreas Strehler)氏の新作、トランスアクシャル トゥールビヨン(TRANS-AXIAL TOURBILLON)です。

今回は部品製造会社UhirTeil AG名義でアトリエ(LES ATELIERS)に出展していました。
ブース内では、アンドレアス・ストレーラ銘、氏がムーブメントを設計したVAULT、氏の友人ハルディマンがそれぞれ作品を展示していました。



一見して、氏のムーブメントの基本設計(オーバル形状、ダブルバレル、向かって右にオフセットした時分表示、向かって左に脱進機構と追加機能を配置)をトゥールビヨンに拡張していることがわかります。
トゥールビヨンは繊細なブリッジで持ち上げられ、文字盤と同じレイヤーに配置されています。

パピヨン ド・オール(PAPILLON D’OR)と同じ、スケルトンと湾曲したブリッジでムーブメントの構成要素を可視化しています。
特徴的な"蝶"の意匠は直接的ではなく影絵のような間接的な表現になっていると見受けられます。

トゥールビヨンは個人的には最も理に叶っていると考えているコンスタントフォース機構、ルモントワール・デ ガリテ(REMONTOIR D'ÉGALITÉ)と統合されています。
ルモントワール・デガリテは4番車を置き換えるコンスタントフォースなので、出力4番車の代わりにトゥールビヨンケージを引っ張ればトゥールビヨン化はできる!という内容は去年の工房見学で伺っていましたが、それがそのまま形になっています。



ケースバック側から。
ルモントワール・デガリテを制御するスターホイールが見えます。
このレバーとトゥールビヨンケージはヒゲゼンマイのみでつながっており、ヒゲゼンマイに蓄えられたトルクでトゥールビヨンが動作します。
ヒゲゼンマイのスペースを確保するためトゥールビヨンの固定4番車は通常の外歯車ではなく、ルモントワール・デガリテ同様の内歯車になっており、重ねて配置されています。

トゥールビヨンの軸とルモントワール・デガリテの軸は同軸で、トゥールビヨンの軸を延長したような形になっています、これがTRANS-AXIAL(超えて・貫いて‐軸)という名称の由来ではないかと思います。



特徴的な大きな歯車は3番車で、文字盤側にあり香箱の連結を兼ねる2番車(1時間で1回転)からトゥールビヨンのピニオン(1分で1回転)まで一気に加速します。
また、この歯車はルモントワール・デガリテの作用により、1秒ごとのステップ運針になっているため、それを取り出してステップ運針のスモールセコンド表示を作り出しています。
スモールセコンドの軸は香箱の香箱真を同軸で通過させるという"コロンブスの卵"的発想で文字盤側に送られています。
これは、去年発表のワールドタイム、ソルテール オーラ・ムンディ(SAUTERELLE À HEURE MONDIALE)から使われているアイディアで、オーラ・ムンディではGMT時間とワールドタイムをそれぞれの香箱真で送っていました。

スモールセコンドの軸にはトルクがほとんどかからないため、そのままではバックラッシ(歯車の遊び)により針の位置が不正確になってしまいます。
そのため、細かく歯を切ったインデックス用の歯車にルビーを規制バネで押し付け、特定の位置で止まるようにしています。
単純な摩擦ブレーキでも機能は果たせるはずですが、より抵抗を減らそうという機構と思われます。



文字盤側を。
香箱の中心に噛み合った2番車と香箱真を貫いているスモールセコンドが見えます。
時合わせと日の表車にはパピヨン ド・オール同様のサファイアクリスタル歯車を使い、極力目立たないようにしています。

上側の香箱真と香箱出力には、球状差動歯車機構をつかいパワーリザーブ残量を計算するパワーリザーブインジケーターも配置されています。



角度をつけるとサファイアで作られた歯車が見えます。



工房見学の時も感じましたが、ストレーラ氏を最も特徴づけているのは、"時計師かつ設計者を高いレベルで両立する"という氏の才能だと思います。
また、メインのビジネスとなるエンジニアリングのコンサルと部品製造業が好調なため、理想を求める自身銘の時計作りでは"売るため"の一切の妥協しなくてもよいという姿勢が良い作品を生んでいると感じました。
氏は商売っ気があまりなく、わかる人にだけわかればよいという態度なのも素敵です。



ありがとうございました!

関連Web Site

Andreas Strehler
http://astrehler.ch/

Bespoke
http://astrehler.ch/bespoke/