Mirrored Force Resonance Forecast

 By : CC Fan
というわけで、アーミン・シュトローム(Armin Strom)の新作はミラード・フォース・レゾナンス(Mirrored Force Resonance)だそうです。

現時点ではNewsに掲載したinvitationのみ公開されており、全容はまだ謎に包まれています。
しかし、キーコンポーネントである共振(レゾナンス)を用いたダブルテンプの部分は公開されたので、これを基に全体像を予想します。

まず共振という物理現象ですが、テンプ自体も利用しています。
テンワの慣性質量とヒゲゼンマイのバネ要素が共振し、慣性モーメントとバネ定数によって決まる固有振動数で振動するという性質が時計の等時性を支えています。
固有振動数は慣性モーメントとバネ定数の比(正確には比の平方根)で決まります。

固有振動数が同じでも、慣性モーメントを大きくするほど同一振幅の運動エネルギーは大きくなるため、外乱に対して強くなりますが、テンワのサイズ・香箱のトルクから上限があり、極端に大きくするのは非現実的です。

ダブルテンプで共振が発生すれば、単体テンプに蓄えられる運動エネルギーに加え互いのテンプ間で励起⇔共鳴によってやり取りされて共振現象に蓄えられるエネルギーが存在するため、単純に二つ並べたものより外乱に強い…と定性的に理解していますが、この認識で正しいのかいまいち自信がありません。

二つの脱進機がレゾナンスする時計は(初代)ブレゲの懐中時計や、アンティド・ジャンヴィエのクロック、そして何よりF.P.ジュルヌによって腕時計化されたクロノメーター・レゾナンスがありますが、前例は多くありません。

前例に対する新規性を見ていきます。


ダブルテンプ+謎の部品

一目して明らかな違いとして、曲線を描く謎の部品がテンプの上に配置されています。
これは共振エネルギーを蓄えるための共振部品(曰く"音叉")のようです。
画像が不明瞭ですが、ヒゲゼンマイの片端が固定されるヒゲ持ちはこの部品に取り付けられているようにも見え、振動を積極的に拾う構造と予想されます。
中心の音叉状の部分は固有振動数をテンプの振動数に合わせるための部分でしょうか。

また、テンワはそれほど接近していません。
F.P.ジュルヌのクロノメーター・レゾナンスがピニオンギアで片方のテンワの位置を動かせるようにして距離を調整しているのとは対照的です。
これはおそらく上記の共振部品経由でエネルギーのやり取りが行われるため、極端に近づける必要はないと言う事だと思われます。

共振部品の上側が丸くえぐられているのは筒カナの部分ではないかと予想しました。
既存のムーブとデザインコードは同じと思われるので、位置を推定してみます。


Gravity Water

これは自動巻き(Gravity)ですが、地板の形が一番わかりやすかったので例にしました。
香箱の構成はダブルバレルの7日巻き(One Week)を踏襲していると予想します。

右側上下の二つの円のエッジ部とダイヤルが作る形状がそのまま共振部品の形状に見えます。
8時・10時位置にテンプ、9時位置にスモールセコンドの代わりに"音叉"というレイアウトで、"Mirrored Force"の名の通り、鏡像的なレイアウトになっているのではないかと。

非常に興味深い機構なのでぜひ実機で"答え合わせ"と開発者の方に直接お話を伺いたいですが、出張は如何ともし難く…

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