グルーベル フォルセイ「QP イクエーション」を司るメカニカルコンピューターの仕組みを探る 差動装置を活用した低バックラッシ機構

 By : CC Fan
2020年8月2日追記:下記の内容は原理が一部間違っています、詳細は最新の解析結果をご覧ください。

チョコレートカラーゴールド文字盤レッドゴールドケースのモデル
を発表したグルーベル フォルセイのQPイクエーション(QP à Équation)。
その永久カレンダー機構を司る「第7の発明」メカニカルコンピュータ(Le Computeur Mécanique)、以前取り上げたときにはかなりふんわり理解でしたが、より詳細な理解ができたので紹介したいと思います。



そのヒントとなったのは動画で時計の情報を発信しているThe WatchesTVの1動画でQPイクエーションの特集があり、その中で予期せずほぼすべての輪列図を含むCAD画面が映ったのです!

What Beauty Means At Greubel Forsey, Featuring The Quantième Perpétuel à Equation

非常に短いですが、立ち入ることが許されなかった研究開発部門の様子が映っており、その中で筒カナからメカニカルコンピューターに至る輪列と、QPイクエーションの全輪列が映り込んでいます。
流石にそれを引用するのはNGだと思うので、公式資料にわかったことを追記して解説したいと思います。



公式のメカニカルコンピューターはこの図のみ、Our Inventionsのページにも、「古代の天文時計を再解釈した」という事と機構の簡潔な説明は書かれていましたが、完全な理解には至りませんでした。
今回周辺の輪列が明らかになったことにより、この機構がどのような方法でグレゴリオ暦を解釈しているかという事と周期の大きな機構で問題になりやすいバックラッシ(歯車の遊び)をどのように解決しているかという事が理解できました。

まずは全容を。


名称は私が仮につけたものです。

同軸構造の歯車の中心部分に31歯の月入力歯車があり、これが機構の中心です。
31歯というのは月の日付最大31日に由来しており、月末以外はこれが1歯ずつ送られることでカレンダーが進みます。
その下にカムで制御される月末追加送り歯があり、最大3歯が追加で突き出す構造になっています。

先程の動画の2:07から筒カナからメカニカルコンピューターに至る輪列の図が映っており、筒カナの回転はゼネバ機構と一部にだけ歯切りされた歯車により、時針の連続した動きから深夜のみ動く送り信号に変換されます。
これはトルク蓄積などが一切なく、純粋に噛みあいのみで動いているため、順方向・逆方向両方に動かすことができます。
送り歯車には通常時の送りを行う1歯と、追加送りを行うための3歯が段付きで設けられており、全てが噛み合うことで最大4日まで一気に送ることができます、これは(28→29→30→31→1)という平年の2月末の送りを行うために必要です。

月入力歯車は1か月で1周し、この歯車の角度が日付に対応しているため、ブログラム車によって10の桁と1の桁に分離すればビックデイトの駆動は可能です。
あとは、月末追加送り歯を月にあわせて適切に出し入れすればよいことになります。

その役目を行うのが月出力歯車から同軸中間車を経て噛みあう年歯車と閏年歯車です。
年歯車と名前を付けましたが、この歯車は1年で1周しません、月出力歯車から11/12に減速され、1年で11周します。
月歯車は1年で12周するので、月歯車から見るとこの年歯車は1年で逆方向に1周していることになり、年歯車中心にある12か月カムは、月歯車から見て1か月に30度ずつ回転しているように見えます。
これにより、12か月カムに大の月小の月にあわせた高さを設け、カム読み取り機構で読み取ることで追加送り用の歯を出し入れし、月末処理を行わせることができます。

閏年も同じ考え方で、閏年歯車もやはり4年で1周しません、月出力歯車から45/48に減速され、4年で45周、1年では11.25周します。
年歯車は4年で44周するので、年歯車から見ると閏年歯車は4年で順方向に1周しているように見えます。
これにより2月の時だけ動作する切れ込みを設けて深さを読み取り、平年と閏年を区別することができます。

このように回転そのものにではなく、回転の差に情報を持たせる差動装置と言われる機構を応用した構造になっています。

これだけ見ると回転速度が違うだけでやっていることは普通の永久カレンダーと同じ「月末早送り」であり、何がメリットなのかわかりにくいかもしれません。
まず、日送りからカムの駆動、月末送りまで全て歯車の噛み合いで行っており、旧来の永久カレンダーが月末にカムをレバーで押す動作のような片方向にしか動作しない動作がないため、逆戻しが可能です。
これにより「全連動なので今日にあわせれば終わり」と「進めすぎたら戻せばいい」という性質を両立させることができ、止めてしまった場合の利便性が大幅に向上しています。
個別にあわせられないというのは一見するとデメリットですが、実はメリットだという事はすでに前回の記事で紹介したとおりです。

もう一つは回転速度が違うという事そのものがメリットです。
通常の永久カレンダーは作りにもよりますが、月は1月で1周、年は1年で1周、閏年は4年で1周というような設計でしょう(12か月カムと48か月カムで異なる)。
この場合、月から年の減速比は1/12、月から閏年の減速比は1/48にもなります。
ここで問題になるのがバックラッシ(歯車の遊び)で、歯車が動くためにバックラッシは必要ですが、遊びがあるほど位置決めが不安定になるため、減速比が大きいほどバックラッシは問題になりやすいです。
これは入力側から見ると減速比をかけた分だけバックラッシが大きくなったように見えるからで、1/48でトルクがかかっていない場合は、歯車の噛みあいだけで止めるのは、ほぼ無理でそれぞれに規制バネが必要です。
それに対し、メカニカルコンピューターではほとんど1に近い減速比のため、バックラッシの弊害が表面化しにくく、全ての歯車が月相当の精度で動いていて、規制バネは月入力歯車(1日ごと)にだけ入れればよいというのはステファンが説明済み。
歯形だけではなく、根本的にバックラッシが少ないという事が今回分かった次第です。

ちなみにPCT(特許協力条約)出願による国際特許も取得しており、なんと日本の特許も取られています!
特許番号はJP2018533733A、出願人はコンプリタイムエスアー(Complitime SA)、グルーベル フォルセイの母体となったサプライヤーです。



特許書類より、権利として守りたいことを要求しつつ、実際の実装は巧みに隠している巧妙な特許と理解しました。



全歯車と優れた設計によりこのような「狼藉」を行ったり、ステファンが1か月を1秒ぐらいで進めるようなすごい勢いで回しても、壊れないバツグンの信頼性を獲得していると感じるQPイクエーション。
個人的に永久カレンダーにはほとんど惹かれませんが、これは素直に欲しいと思えます。



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