INSIGHT MICRO-ROTOR 技術詳細

 By : CC Fan
既にKIHさんによる速報が伝えられています「ローマン・ゴティエさんと集う会」、ご本人から今年の新作であるブランド初の自動巻きインサイト マイクロローター(INSIGHT MICRO-ROTOR)や"理に適った"鎖引きロジカル・ワン(Logical One)について技術的な詳細情報を伺いましたのでご紹介したいと思います。

ブランドとしてのローマン・ゴティエ(Romain Gauthier)はなんといっても"ジュウ渓谷伝統を継ぐ仕上げ"で注目されることが多いと思いますが、個人的にはエンジニア出身(出自が時計師ではない)のゴティエ氏が時計機構についてエンジニアリング的な見地から最適化を図った各種の機構も注目に値するのではないかと思っています。

今回は自動巻きのインサイト マイクロローターについてです。



図を交えながら細部まで解説して下さいました。
もっとも印象的だったのは、一般的なマイクロローターとは方法論から異なるという事でした。
既存のマイクロローターは薄型ドレスウォッチや複雑ムーブメントのベースとして使うために"薄くする"という目的が第一にあり、そのために地板内に錘を埋め込み、厚みを押さえることができるマイクロローターを使う…という方法論です。
これに対し、インサイトは自動巻き機構もコンプリケーションと考え、効率良く巻き上げて耐久性が高い機構を考えた結果としてマイクロローターを採用したそうです。
そのため、ムーブメント厚は6.8mmと充分に厚く、各部品もガッチリしています。

通常の自動巻きローターの支持部に使われているボールベアリングの耐久性・転がり音は高級時計にはふさわしくないという考えから、ローターの支持も他の軸と同様のルビー軸受けを使っており、ほぼ無音で滑らかに回転します。
ルビー軸受けを使っていること、錘が比較的重い(3.86g)ことから、ローターはあまり見られない両持ちで支えられています。



地板とマイクロローターを同じ高さにし、文字盤側とムーブメント側から専用のブリッジで軸を挟むことによって強固に固定しています。
この強固さは他に類を見ないのではないでしょうか。



このムーブメントはこれで"完結"しており、拡張したり他のベースにすることは考えていないそうです。
文字盤側は空白とケースの外に無限に続くようなブリッジの曲線で広がりを表現しているとのこと。



また、ロジカル・ワンではわずかに右側にオフセットしていた文字盤とテンワを今回は中心に置くことにこだわって設計したそうです。

プレゼンテーション資料の掲載許可を頂いたので、こちらを使って機構を見ていきます。





文字盤側の輪列です。
緑色が時計回りに回る歯車、赤色が反時計回りに回る歯車です。
黄色は振動するテンワ、青は通常はロックしているリュウズ周りの機構です。
香箱からにつながっている2番車の軸(筒車を兼ねる)から3番車・4番車・テンワへとトルクが伝達されます。
2番車の軸がそのまま時分針を動かし、4番車の軸がそのままスモールセコンドを動かす素直な輪列です。
実際には文字盤で覆われています。



香箱側の図です。
これは自動巻き機構が動作していない時の図です。
香箱は二つあり、片方が反時計回り(緑色)、もう片方は時計回り(赤色)に回転します。
下側の香箱が"自動巻き香箱(Automatic Barrel)"、上側の香箱が"手巻き香箱(Manual Barrel)"と呼ばれていました。

分かりにくかったところは自動巻き香箱と手巻き香箱で巻き上げと出力を担う歯車が逆になっていることです。
自動巻き香箱は香箱芯に巻き上げ機構がつながっており、芯から巻き上げて香箱外周の歯車から出力を取り出しますが、この出力は手巻き香箱外周の歯車に直結されています。
手巻き香箱は香箱外周の歯車から自動巻き香箱によって巻き上げられ、香箱芯につながった大きな歯車から出力を取り出します。

自動巻き香箱と手巻き香箱は"バランス"しており、両方のゼンマイ張力が釣り合うところで安定するようです。

自動巻き香箱のゼンマイはスリッピング・アタッチメント付で巻ききった状態でさらに巻かれようとするとスリップし、ゼンマイを保護します。
手巻き香箱のゼンマイは手巻きの時計と同様に巻き止まりがあるタイプですが、巻ききる前に自動巻き香箱側がスリップしだすために巻き切ってしまう心配はないそうです。



まずは手巻きをした場合の挙動です。
手巻きした場合も、自動巻き香箱側から巻き上げることになります。
リュウズを回すと中間車を経て、自動巻き香箱の香箱芯につながっている歯車を回転させ、巻き上げます。
コハゼ(黄色)が付いているため、片方向にのみ回転します。
自動巻き機構は香箱芯に直結しているため、手巻き時に回転しますが、ローター直前の切り替え車(後述)が切り離されるため、ローターまで回転はせず、ローターが手巻き時に回転するなどの悪さをすることはないそうです。



ローターが時計回りに回った場合です。
歯車の軸が円弧に沿って動く事ができる切り替え車がローターの回転に押されることで、巻き上げ機構入力部の片方の歯車に噛み合い、ローターの回転が伝わるようになります。



反時計回りに回った場合です。
ローターと切り替え車は逆に回りますが、巻き上げ機構入力部で1枚経由する歯車が増えるため、巻き上げ輪列の回転方向はローターが時計回りに回った場合と同じです。
これにより、ローターがどちらに回っても巻き上げることができる両巻きを実現しています。



自動巻き輪列は減速輪列で、減速することでトルクを大きくしてゼンマイを巻き上げる仕組みです。
勢いよく回転していればいいですが、回転数が足りない場合、香箱のコハゼが一歯分を乗り越えられず、力が逆流してしまう恐れがあります。
これに対し、自動巻き輪列の入力部にも8クリックの逆転防止のストッパーをつけることで力が逆流しないようにしています。

自動巻き機構のすべての歯車は両持ちのブリッジで強固に押さえられ、特に要となる切り替え車とその押さえはブラックポリッシュで完全に滑らかにされ摩耗を防いでいます。



機構と仕上げについてダイナミックに説明するゴティエ氏です。
仕上げに加え、自動巻きにありがちな"雑音"がなく、無音で巻き上げる様はなるほどコンプリケーションに相応しいと実感しました。
あまり実機写真がないため、実機写真はKIHさんのレポートの方でご覧ください。

最後にこのイベントのために遠方よりオーナー様が参加してくださったユニークピースのロジカル・ワンを。





ロジカル・ワンの技術詳細については別にまとめます。

ローマン・ゴティエ お問い合わせ先:
スイス・プライム・ブランズ 03-4360-8669

http://www.romaingauthier.com/