大塚ローテック 9号 新作発表イベント@国立科学博物館 速報レポート

 By : CC Fan

9月22日に発表された 大塚ローテック初のマニュファクチュール複雑ムーブメントを搭載した「9号」、その発表イベントが上野の国立科学博物館(科博)で行われました。



大塚ローテックの「7.5号」が国立科学博物館の科学・技術史資料として保存されたりした縁で、今回のイベント会場として使われたようです。



月曜日は休館日ですが、このような「案内」を辿って科博の地球館に入ります。



地球館の2階、科学と技術の歩みの展示スペースに椅子が並べられ、イベント会場が作られています。



「日本の海洋研究」のスペース、有人潜水調査船しんかい6500の前で…



発表会がスタート、先ずはプロモーションムービーが流されます。



今までの大塚ローテックが手掛けてきたジャンピングアワーやレトログラード(の変形であるリワイディングミニッツ)を新たなる表現で、そして新たなるコンプリケーションのアワーストライキングやトゥールビヨンを角型のケースに納めています。

今までの作品は汎用ムーブメントに表示モジュールを載せる方式でしたが、9号は初めてベース部分から設計・製造を行ったマニュファクチュールムーブメントを搭載、一部Cal. 6498(ユニタス)のパーツ(香箱・爪石など)を使用しているものの、テンワも新造したフリースプラングトゥールビヨンです。



デザインの発想元の一つは古典的な機械式電力メーターで、動作を確認と電力量の読み取りのために機械をガラス(透明素材) で覆った構造を持ちます、このようなイメージを時計として表現したいと考え、それには今までのモジュール式ではなくベースムーブメントから作らなくてはいけない、と考え、他のプロジェクトと並行しながら9年かけて完成させました。



他にも工場、カメラの軍艦部、アンティークカーのエンジン、真空管など「何か複雑なもの」を内包している機械の意匠を時計に表現できないか?という発想でムーブメントとケースを一緒にデザインしました。



その結果、ソリッドバックのバックケースとサイドまでサファイヤの風防のフロントケースという2ピースケースになりました。
装着感を良くするためにソリッドバックは滑らかなカーブを描く形状になり、ムーブメントもカーブに沿って部品を避けて配置することで全体の厚みを抑える設計になりました。

この真ん中が凹んだ地板に機能を並べていく様子が寿司下駄のようだったので仮称で「SUSHIGETA」と呼んでおり、マニュファクチュールムーブメントを搭載するブランド自体も大塚ローテックとは別の「JIRO KATAYAMA」にする案もあったそうですが、「同じ人が同じ場所で作っている」ことから大塚ローテックのシリーズとして「9号」を冠することになった経緯があり、寿司下駄という名前ははムーブメント番号のCal.SSGT(SuSiGeTa)として残ることとなりました。



さて、機能の説明です。
公式では、ジャンピングアワー、リワインディングミニッツ、トゥールビヨン、アワーストライキング、パワーリザーブインジケーター、の機能を持つ手巻きムーブメントと説明されています。

個人的にこの中で中核のコンプリケーションと思うの「リワインディングミニッツ」だと思うのでこれから見ていきます。



「体重計の表示のような」と表現された「リワインディングミニッツ」機構ですが、私の理解としては「ディスクを使ったレトログラードミニッツ表示」と理解しました。
60分に1回ディスクが中央の自製したバネによって帰零し、このエネルギーを使って「上の桁」であるジャンピングアワーの時送りとハンマーを駆動、アワーストライキング(時報)を打ちます。



よく見ると分ディスクは00-60までの数字が描いてある部分(240度ぐらいとのこと)以外は切り欠いてあることが分かります。
この角度は数字の大きさやインデックスの精度で決めたそう。

最初から意図したわけではなかったそうですが、切り欠けによってトゥールビヨンケージを滑りこませるのが楽になったという嬉しい効果も。



分針に相当するカムからレバーで読み出して徐々にディスクを進め、カムの頂点から落下するときにディスクが逆回転して帰零、その動きが時間ディスクとハンマーの根元のラチェットを経由して動かす機構が見えます。

最初はジャンピングアワーのみで分は普通のディスク表示だったそうですが、試作で検討を繰り返してこのようなコンプリケーションを開発したそうです。



リワイディングミニッツから駆動される、大きめのハンマーがサイドに張り巡らされたリン青銅のゴングを叩くことで1時間ごとに1回時報を鳴らします。
ゴングの造形は先に挙げた機械式電力メーターを想起させるデザインから決められたそうです。



作り方は「平面的に形状を切り出した後に90度曲げる」そうで、よく見るとねじれていることが分かります。



パワーリザーブはサイドの棒がリニアに動くことで残量を表し、最も伸びた状態がフル巻き上げです。



差動歯車で巻き上げと放出の差を算出、変速してステンレススティールのロッドをリニアに動かしています。



最後に計時輪列とトゥールビヨン、今回テンワの制作にも挑戦し、H型形状でマスロット調整によるフリースプラングテンワの制作しています。

トゥールビヨンも含め精度のために~という説明がなされることが多いですが、片山氏はあくまで「そっちの方がかっこいいと思ったから」というスタンス、H型のテンワも切れていることによって動きがより強調される効果を狙ったそうです。

ムーブメント単体で寿司下駄のように見える、の図。



ケースサイドまでサファイアにすることで、ムーブメントをケースサイドから眺められます。



カーブしたケースバックと、それに合わせて階段状に加工された内面とムーブメントの部品配置。



いわゆる、「ラグ」の部分もケースに統合されているため、数値よりも小さく感じそうです。



ハンマー付近の三本の曲線は「音の放出」を表現したピクトグラムであると同時にアンティークカーに見られる板金叩き出しで作られたエアインテークをイメージしたとのこと。



ディスクは透明、地板側にルミノバコンポジットを切り出して埋めることにより、暗所での視認性も確保しています。

5号改に引き続き、小型ベアリングのトップメーカーミネベアミツミ社とコラボレーション、ミネベアミツミの勝田氏がベアリングについて説明してくれます。



世界最小ベアリングのDDL-004に加え、9号のために新規開発したカスタム品のルビーボールを使用したベアリングDEL-008をアワーディスクとハンマーの軸に使用しています。



セラミック球を使ったセラミックベアリングは既に経験があるものの、「時計の文脈」でルビーを使うのはミネベアミツミとしても初めての経験だった、とのこと。



ステンレスより軽く、硬く、変形しにくいルビーはベアリング球の素材として優れている、という事も説明されました。

こちらは公式ショット、こうやって見ると大きさが分かりにくいですが…


この大きさ!(外径2.5mm)
最後に今までの作品の集合ショット。



質疑応答でMIHへの収蔵は?と伺ったところ、やっと1本目が完成したところなのでそこまでは決まっていない、未発表の「8号」の開発も並行して行っていく、とのこと。
まだまだ期待できそうです。

フォトセッションで、ミネベアミツミの勝田さんとも。



ルーペを使って何とか取れたルビーボールボールベアリング。



実機も。



左リュウズで、上側が通常のリュウズ、下側はストライキングアワーを鳴らなくするサイレント機構の設定用です。



左リュウズになったのもデザインと機構のバランス(と片山氏が左利き)とのこと。



今までの要素を集め、純化した「集大成」と感じられる「9号」、発表おめでとうございます!