クレヨン創業者 レミ・マイヤ氏インタビュー&エブリウェア実機!

 By : CC Fan
2018年5月6日追記:
ノーブルスタイリングさんよりプレビューイベントの案内が掲載されました。
連休直後の平日と、条件は厳しいですが実機を見る機会はなかなかないと思いますので、是非ご参加を検討ください。


個人的な好みにハマったため、3回にわたりレポートをお伝えしたクレヨン(Krayon)のスーパーコンプリケーションウォッチ、エブリウェア(Everywhere)、いつかは実機が見たい・開発者にお会いしたいと書きましたが思いもよらず幸運な機会が訪れました。
今回、ブランド創業者でマイクロメカニクスのエンジニアでもあるレミ・マイヤ(Rémi Maillat)氏がブランド紹介イベントのために初めて来日することになり、以前よりメールでコミュニケーションを行っていた関係でイベントとは別にお時間をとっていただき、WMOとしてインタビューを行えることになりました。
WMO側としても私とa-lsさんKIHさんKAIROSさんとまさに"総力戦"といった体制でお話を伺ってきました。
特にKIHさんはパラメーター設定の操作を一通り体験するなど、既に私よりも詳しくなってそうです。



というわけで、最初の記事の時点でバレバレな気がする"情報源"こと、ノーブルスタイリングさんのノーブルスタイリングギャラリーをお借りし、マイヤ氏と。
彼の左手にはエブリウェアが…

まずは、マイヤ氏の来歴とクレヨン社について。
マイヤ氏はマイクロメカニクス分野でのトライボロジー研究者の父と、数学者の母を持ち、ルロックル応用科学大学(Le Locle University of Applied Sciences)でマイクロメカニクスを学んだ後、時計製造の大手メゾンに設計者として就職し、そこでグランドコンプリケーション(マイクロローター自動巻き・永久カレンダー・トゥールビヨン・ミニッツリピーター)をはじめとした数々の超複雑時計の設計に従事してきました。
大手メゾンに6年間勤務した後、2013年に自身のコンプリケーションを作るために独立、クレヨン社を設立し、研究開発を経てエブリウェアを発表しました。

クレヨン社自体はマイヤ氏を入れて3名の会社で、設計と最終組み立てのみ社内で行い、それ以外の各種部品の製造はパートナーとサプライヤー、そしてあまり表に出てこないアルティザン(職人)とのコラボレーションで行う水平分業の体制をとっています。
各種サプライヤーはヌーシャテル、ラ・ショー=ド=フォン、ル・ロックル、ジュネーブなどに分散しており、それぞれの得意分野に合わせて部品を製造します。
現在の時計業界は垂直統合が主流ですが、個人的にはコントロールする"監督"がしっかりしていれば、生産数や工場の稼働率を追わなくていい水平分業のほうがユニークな時計作りには有利だと考えています。

エブリウェアは基本となるモデルはありますが、基本的には顧客ごとに要望を聞いてカスタマイズするユニークピースの方式をとっており、年産は5本程度だそうです。
発表後、すでに4本のオーダーがあり、去年の12月にファーストデリバリーが行われています。

現在のオーダーはケースにエングレーブを入れるパターンとダイヤモンドをセッティングしたベゼルのパターンだそうですが、文字盤をエナメルにすることや、ハンドペイントによる各種表示の色を変える可能だそうです。
また、エングレーブは超有名メゾンの記念ピースのエングレーブも手掛けた"タレントエングレーバー"に依頼しているそうです。

そろそろ実機写真を…



拝見させていただいたのはダイヤをセッティングしたベゼルのバージョン。
ケースサイズはノーマルより大きく直径43mmで、ノーマルベゼルは直径42mmです。
大きな時計が好みな個人的には好みのサイズです。

小さめを好む日本のコレクターのために小さくできないか?という質問に対しては、ムーブメントが直径35.40mmでディスク表示が最外周にあるため結構難しいができないことはないだろうとのこと。
40mmまたは39mmぐらいでしょうか?
後ほど見ますが、ケースサイドが絞られたデザインなので数字よりも小さくは見え、装着感も良好です。



ディスクの"境界"が伝わるでしょうか?
このディスクはサファイアクリスタルのディスクに特殊な製法で塗料を定着される方法を用いて、ハンドペイントで仕上げられています。

また、時分・日付と月の表示はブルスチール、日の出と日の入りの計算のためのパラメーターはロジウムと針の色を変えることで通常時に表示がうるさすぎないようにバランスをとっています。



パラメータを選択するためのプッシャー。
これによってパラメータを選択、一つずつを両方向に調整可能という方式にすることで、複雑ながら簡単に使える操作性を実現しています。
実際にKIHさんが日本の緯度経度をセットしていましたが、特に不安なく使えていたようです。

ケースサイドはケースバック側に向かって絞られたデザインであり、数字よりも小さく見えます。
また、ムーブメントが大きいおかげで相対的にケースが薄いのか、貴金属ケースでありながら重量感はあまり感じず軽快な取り回しに感じました。

リュウズの謎も解決できました。
リュウズは3ポジションで、通常時は巻き上げ、1段引くとパラメータインジケータに関係なく時刻設定、もう一段引くとパラメータインジケータが指し示しているパラメータを調整するモードになるとのこと。
さらに、回転方向の指定はなくすべての設定は両方向に可能ですが、歯車のバックラッシの都合上、"最後にこちらの方向に回して合わせるのが望ましい"というのは存在するそうです。



横からのぞき込むと、風防と文字盤の間隔は結構詰められています。
サファイアディスク3枚による表示は断面図によるとかなり厚いですが、ムーブメント内に埋まっているので厚みを感じさせません。
24時間表示のインデックスは微妙に傾斜がつけられていることもわかります。



角度をつけるとディスクの重なっている感じが見えたりもします。



伝わりますかね…

このデザインに至るまでの遍歴を含めた紹介プレゼンテーションを拝見させていただきました。



マイヤ氏のノートPCにて。
ちなみに、ノートPCはLenovo社のThinkpad、15インチディスプレイのモバイルワークステーションカテゴリーで、非常にパワフルで3D CADもこなせるようなマシンです。



レギュレーターっぽさを押し出したものや色違いなど様々なバリエーションを検討した結果…



3つのベースとなるデザインが決まりました。
経緯となったデザインに比べるとやはりこちらの方がテーマにあっているとは感じましたが、ほかのバリエーションが好みという方もいると思います。

さて、ムーブメントの詳細…と行きたいのですが色々伺ったことを基に展開図に解説を入れる作業が終わらないのでまずは写真を。



個人的には内包する複雑性を隠す部分は隠し、見せる部分は見せる良いデザインで、仕上げも充分と思いましたが、同行した御三方は仕上げが気になったところがあるとか…
なかなか難しいものです。



角度を変えて…
イメージとしては香箱だけは大きい小さい計時用ムーブメントを機械式計算機の部分が取り囲んでいるようなイメージですが、そのすごさについては"ムーブメント詳細編”という形で別記事にまとめたいと思います。

最後に、ムーブメント詳細編に先だち、マイヤ氏より本日いただいた分解図の動画を掲載します。



是非、内包する複雑性に思いをはせてみてください。

さらに、経度調整のアニメーションも。



もしかしたらこれで仕組みがわかる方もいらっしゃるでしょう。

ムーブメント詳細編とブランド紹介イベントの様子も追って掲載いたします!

関連 Web Site
Krayon, mécanismes horlogers suisses(英語サイト)
https://www.krayon.ch/en/accueil

参考資料 国立天文台 暦計算室
http://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/

参考資料 海上保安庁 海洋情報部 日月出没計算サービス
http://www1.kaiho.mlit.go.jp/KOHO/automail/sun_form3.html

Noble Styling
http://noblestyling.com/