トルクリターンシステムの論文と新型ランゲ1のパワーリザーブインジケータ

 By : CC Fan
Ay&Tyさんの投稿に刺激を受けて調べた、トルクリターンシステムについて書きます。
特許公開もされていますが、より詳しい叡智発表当時の論文を国立情報学研究所のCiNiiシステムで読むことができます。

CiNii 論文 - トルク・リターン・システムの開発(研究)

開発者自らが記した論文なので、下手な解説記事を書くのはおこがましいですが、理解したことを書きたいと思います。

私はコンスタントフォースの用にトルク安定化が主目的だと思っていたのですが、主目的はあくまでもパワーリザーブの延長にあり、トルク安定は副次的な機能のようです。

非常に乱暴な言い方で一言で仕組みを表すと"自動巻きのローターの代わりに香箱出力の一部を使って巻き上げる機構"ではないかと思います。
香箱から減速(5:1)された出力が角穴車(Ratchet wheel)を回転させ、香箱1回転につき角穴車を0.2回転させます。
これにより、ゼンマイは実質0.8回転分のエネルギーを放出し、0.2回転分は再び戻ってきているというわけです。
トルクを戻すトルク返還車はワンウェイクラッチのようになっており、手巻きした場合はトルクが逆流しないようになっています、ここら辺の仕組みも自動巻きっぽいと思います。

また、ワンウェイクラッチの部分はパワーリザーブインジケータと連動したクラッチとしても働き、パワーリザーブが一定以下になるとパワーリザーブインジケータに連動したカムによって駆動されるレバーがクラッチを切り離します。
これにより、トルクが還らなくなり100%駆動に使われるようになります。

繋ぎっぱなしにするのではなく、パワーリザーブインジケータによって挙動を制御するというのが非常に面白いと思います。

同じようにパワーリザーブインジケータから制御するものして、ランゲ&ゾーネ(A.Lange&Söhne)の新型ランゲ1(Lange1)などに使われている、"パワーリザーブが少なくなってきて精度が悪化する前に輪列を止める"という方法があります。


新型ランゲ1のパワーリザーブインジケータ解説動画

パワーリザーブ輪列に連動したカムがレバーを駆動し、レバーが4番車に取り付けられたブロッキングフィンガーを遮ることで停止させる仕組みが分かります。
このシステムもさらに応用ができそうです。

また、CiNiiにはほかにも面白い論文があるので、追って紹介させていただきたいと思います。

関連 Web Site

セイコーウォッチ
https://www.seiko-watch.co.jp/

クレドール公式サイト
http://www.credor.com/

叡智プレスリリース(一覧画像はこちらから引用)
https://www.seiko-watch.co.jp/news/pressrelease/posts/17/20080820

叡智IIプレスリリース
https://www.seiko-watch.co.jp/news/pressrelease/posts/184/20140818

CiNii 論文 トルクリターンシステムの開発(研究)
http://ci.nii.ac.jp/naid/110007503374