ローマン・ゴティエの究極ユニーク・ピース~初のカーボンケース、初のフルチタン・ムーブメント、初のスケルトン、世界一本だけの至高の「インサイト・マイクロローター」納品式レポート

 By : a-ls


以前に「2018年に一番心に残った納品式」というブログ(https://watch-media-online.com/blogs/1910/ )を書いた。それは昨年末に再放送ヴァージョンとして再掲載もしたのだが、今回のレポートはその続編というべきものになる。

それは、良く言えば「時計を愛する人々」が織りなす"終わりなき物語"、ま、端的に言えば「時計バカたち」のめくるめくネヴァーエンディングストーリーズ、その最新章とでも言えばいいだろうか。。。。つまりは、ユーザーとウォッチメーカーとの理想的なコラボレーションから生まれた、至高の時計のお話である。





上記ブログにて納品されたシャネルとのコラボレーションによるご婦人用のインサイト・マイクロローター。
ご主人は「ロジカルワン」をすでにお持ちだったのだが、ゴティエ氏とのやりとりの中で、あの優美なレディース・ウォッチと対になるようなインサイト・マイクロローターを、カーボンケースで作ってみたらという話が出たのが、すべての発端だった。

その際にオーナー氏に閃いたのが、ローマン・ゴティエ・ウォッチが究極の軽さに挑んだらどうなるかというアイデアだった。「ケースにカーボンを採用しただけでは中途半端になりかねないので、テーマとして、究極に軽い時計に挑戦して欲しい」とリクエストしたのだ。

そしてその後の約1年間にわたって、ローマンとオーナー氏との、アイデアと試作のキャッチ―ボ―ルを経た結果として、ローマン・ゴティエ史上、"3つの初"を備えたヒストリカル・モデルが誕生したのである。
その3つとは、①初のカーボンファイバーケース、②初のフル・チタン・ムーブメント(マイクロローターは22K)、③初のスケルトン・ウォッチ、である。



Y2カーボンのケースは、鋳型から自由となったこともあり、オーナー氏の希望によって通常のインサイト・マイクロローターの径39.5mmから42mmにサイズアップした。
それによって、ベゼルの流線にアクティブでエレガントなアクセントを持つシェイプが成立している。



大テーマである軽量化という点だが、強度と軽さを突き詰めたとき、スティールやベリリウム銅や真鍮から成るムーブメント部品をそれらよりも軽く、かつ強度を維持できるマテリアルに置き換えるのが最善策であるが、その条件を満たせる素材は今のところチタンしかない。
しかしその場合に避けられないのが、その硬さと金属特性によって、オートオルロジュリとしての"仕上げ"を加えるのが非常に困難という大問題がつきまとうことだ。
フル・チタンで作られるムーブメントというものが他のブランドでもほぼ存在しないのは、それが大きな理由だ。



しかも今回の最大のテーマである軽量化を追求するためには、徹底した素材の"肉抜き(部品に穴をあけ重量を減らす)"も必要だが、考えてみて欲しい、穴をひとつ開ければその外周面に、磨き、面取り、仕上げという工程が新たに生じるのは自明で、200以上にもなるパーツに通常の数倍の磨きの工程を、しかも一番仕上げがしにくいチタンに対して、ローマン・ゴティエ・クォリティで行わなければならないのである。



当然その解決策はマンパワーしかないわけで、ローマンの工房で最も能力と技術力の高いシルヴィー・デヴォー氏が、約1か月間掛かりきりで、このチタンムーブの総ての角に、金属やすり掛け、面取り角の研磨、表面調整、エメリーペーパー掛け、鏡面磨き、ジャンシャン、ダイヤモンドペースト磨きなどなど…をすべて手作業で施しあげたのである。
(参考記事: シルヴィーさんの仕上げマスタークラス体験レポ https://watch-media-online.com/blogs/1562/ )
この作業時間と手間は通常のインサイト・マイクロローターのムーブメントにかかる時間の、なんと5倍強に相当するそうだ。


●オリジナルとの表裏 比較


時計が完成するまで、ジュウ渓谷と日本との間で行われた何度もの入念なやり取り、それはCD画像だったり、試作品だったり、3Dプリンターによる造形だったりしたのだが、変更が生じるたびに躯体の強度計算をはじめとする様々な設計数値の見直しと検証が必要となるわけで、中には、おそるべき手間と時間を費やしたパーツがイチからやり直しになることもある。
そんな、手作業技術と工作科学がマリアージュした驚異的到達点に至るかなり最後の段階まで、文字盤素材はエナメルが想定されていたという。
だが軽量化を突き詰めるために文字盤もカーボン・ファイバーでの製作となったほか、4時位置のローマン・ゴティエを象徴するイニシャル・プレートも最終段階で肉抜かれたという。


●3Dプリンターによる試作(右)、まだ"RG"のプレートがある段階

しかしその結果、もともとの設計上からローターと同径であった香箱が計らずも完全に可視化され、シンメトリックかつスポーティなデザインが鮮明となり、思いがけずスケルトン・ウォッチとしての完成度を高めることになっている。これはほんとうに、発注者と製作者との呼吸の見事さと言うほかはない。



こうした互いの阿吽の呼吸のようなものは、この作品の随所に見られる。
たとえば作品のイメージ・カラーとなっている印象的なブルーは、オーナー氏の「マクラーレン・セナのあの青のイメージ」というインスピレーションから生まれたのだが、それを受けたローマンのイマジネーションは、ケースやブリッジを止めている青ネジ(実はこれもチタン製!)をコーティングによりブルースティール以上の発色に仕上げ、この作品の芸術性を高めてているほか、



文字盤の8時と9時の赤もマクラーレン・セナの回転数インディケーターのレッド・ゾーンを表している。




発色という点で困難を極めたというブルーカーボン針も納品直前までこだわりぬいたという。



さて、そしてその気になる軽量化の結果だが、本体重量はわずか31.23g、ストラップ付で55g。
(さらなる軽量化を進めるため、現在、肉抜きを施した改良バックルと、別タイプのストラップを2本、ゴティエ氏からの厚意で製作中ということで、最終的にはさらに軽くなる!)


●シルヴィーからローマンへ送られてきた画像、ただいま絶賛仕上げ磨き中とのこと

着けさせていただいたが、装着感につきまとう諸問題の99%は"軽さ"という要因が解決してしまうということを実感せざるを得ないほど、腕にフィットした着け心地というか、着けていることを忘れてしまうようなフィット感が素晴らしい。




あと、これは書いてよいのかな、いや書いちゃおう(笑)。
オーナー氏が「ベルトにつけられているカーブのデザインはセナのSをモチーフ?」と尋ねると、首を振り「いや、これは自分の時計のS字スクリューがモチーフなんだけど…」とローマンは微笑みながら言葉を続けた。「実はね、これはまだ誰にも言ってないのだけれど、奥様の時計と逆向きのSになっていて、こうして合わせると・・・・」



「ハートが出来るんだ、ペア・ウォッチだからね」。



977個もの貴石をまとったゴージャスなモデルと、無駄をそぎ落としつつ凛としたスポーティさを際立たせるモデル、同じインサイト・マイクロローターとは思えない対極的な作品でありつつも、究極のペア・ウォッチとしての存在証明を"こころ"というパーツで繋げた、何たる細やかな配慮。しかも訊かれるまで誰にも言わないんだ、この時計師ったら!!!!



愛好家の究極の夢ともいえる、カスタマイズ・ウォッチ。
しかしそれを実現させ、完全に満足のいく作品を手にするには、まず、信頼できるウォッチメーカーと出逢わなければならない。製作工程の各セクションのマイスターがその誇りと持てる技術を惜しみなく注ぎ、作り手の顔の見える時計であってこそ、使う側もその作品に感情移入でき、決して安くない対価に対し満足という代償を得る。マリーアントワネットとブレゲの時代の以前からそれはきっと変わらない。だが21世紀の時計製作者でそれを実践できる作り手は、実に希少だ。






そういえば、ローマン・ゴティエのブティクはまだ世界のどこにもない。
「ブティックを作るよりも、自分が直接出向いて、ユーザーと食事したりコミュニケーションを持つ方が、今はいい」
そう語るゴティエさんは、今日もまた時計の図面を引いているか、物理的計算をしているか、はたまた世界のどこかの顧客を訪ねているのだろうか。。。



笑顔の絶えないとても素敵な納品式だった。
こういう出逢いがあるから時計趣味はやめられない。





【問合せ】
ローマン・ゴティエ日本総代理店
スイス・プライム・ブランズ
03-4360-8669

カミネ 旧居留地店
Tel.078-325-0088 Open.10:30~19:30

タカシマヤ ウオッチメゾン東京・日本橋2階





「インサイト・マイクロローター」について
通常マイクロローターと言うと、自動巻き時計を薄く作るために、ゼンマイを巻き上げるローターを小さくしてブリッジ内にはめ込んだものを指す。構造上、センターローターよりも遠心力で劣るマイクロローターは巻き上げ効率が劣ると言われているが、インサイト・マイクロローターはその点を大きく改善した新機軸の設計から成り立っており、マイクロローター自体をひとつのコンプリケーション(複雑機構)にまで昇華させた複雑時計といえる。
興味のある方は、下記のアーカイヴ記事を番号順(時間軸順)にお読みいただければと思う。

①インサイト・マイクロローターの概要 https://watch-media-online.com/news/543/
②インサイト・マイクロローターの輪列の仕組み https://watch-media-online.com/blogs/758/
③インサイト・マイクロローターへのフリップ・デュフォーからの賛辞 https://watch-media-online.com/news/1225/
④インサイト・マイクロローターのバリエーション(ナチュラル&ブラック・チタン) https://watch-media-online.com/blogs/1378/
⑤インサイト・マイクロローター ・ レディー 神戸レポート https://watch-media-online.com/blogs/1550/

⑥インサイト・マイクロローターのバリエーション(2019SIHH発表モデル) https://watch-media-online.com/news/1960/
⑦インサイト・マイクロローターヴァリエーション(WG限定モデル) https://watch-media-online.com/shop_news/2719/