A.ランゲ&ゾーネ 「ツァイトヴェルク・ミニッツ・リピーター」のリピーター機構を解析する

 By : CC Fan


ルモントワールの「進化」について解析した
ランゲ&ゾーネのツァイトヴェルク。
銀座ブティックの協力で、このツァイトヴェルク・リピーターをガチャガチャと操作することで、リピーター機構についても一定の理解が得られましたのでリポートします。

通常のリピーターは可動範囲の大きなスライダを持ち、その可動によってリピーター用のゼンマイを都度巻き上げ、リピーター機構を動作させます。
この可動範囲のために開口部が大きくなり、防水性の確保が難しくなる(不可能ではない)と言うのがリピーターの弱点の一つでした。
また、ゼンマイに直接噛み合う巻き上げ機構が露出しているため、稼働中に巻き上げる「二度引き」という行為ができてしまい、これをやると高確率で機構が破損します。

ツァイトヴェルク・ミニッツ・リピーターはメイン香箱にあらかじめ巻き上げられた動力を使ってリピーター機構を動かす構成にして上記の問題点を根本的に解決しています。
この構成は自動起動しない以外はソヌリに似ているので、「ソヌリに近い」と表現していたのですが、結構な確率で「こいつ、リピーターとソヌリの違いも分からない?ド素人か」という反応になることが多かったので、プリチャージ(事前にゼンマイが巻きあげられている)とオンデマンドチャージ(動作時にゼンマイを巻き上げ)と表現するのが良いのかな、と思いました。
一応、プリチャージゼンマイでリピーターを動かすというのは「トリップ・リピーター」という名称があるようですが、あまり一般的ではないのかなと。

プリチャージ型であれば素直な作り方はリピーター機構用に別のゼンマイを用意しリュウズ逆方向で巻き上げる構成ですが、ツァイトヴェルクはスペースがなく、デジタル表示用にトルクの強いゼンマイを積んでいるためそれをそのままリピーター駆動用ゼンマイに転用するという構造を取ることにしました。

仕組みを見ていきましょう。

香箱の先にコハゼ(香箱の逆転防止)とリピーター駆動の機能を兼ねた一種のラチェット機構があり、そこを起点に文字盤側のリピーター機構に動力が伝えられます。
リピーター輪列の調速を行うリピータガバナはルモントワールとムーブメント外周の間のスペースに詰め込まれています。

安全機構としてはリピーター動作時に巻き上げが行えないようにする巻き上げ輪列の巻き上げクラッチ、リピーター動作中に表示が変わらないようにするルモントワール送りブロックがあります。

まずは巻き上げの時を見てみてみましょう。


巻き芯を巻き上げると巻き上げ輪列を経由して巻き上げクラッチから香箱が回され香箱が巻き上げられます。
コハゼ兼リピーター駆動の中心軸はリピーターが動作していないときは固定されているため、回転に従ってラチェットの爪が逆回転を防止し、通常のコハゼと同じように動作します。
リピーター軸は固定されていますが、遊びがあるため巻き上げによってガバナが微妙に動いている様子を見ることができます。

この状態でリピーターを動作させなければ、巻き上げを香箱真から行い、コハゼが巻き上げの逆回転を防止、開放は香箱外周からと言う通常の時計と同じ動作になります。



リピーターを動作させると、内部にあるカム?によって各部の状態がリピーター動作モードに移行しリピーターが動き始めます。
まず、巻き上げクラッチが退避し巻き上げ輪列と香箱の連結が切り離されます。
そして、リピーター駆動軸が解放されることによりラチェットごと回転し、リピーター輪列に動力が供給されリピーターが動作します。
この時、香箱と巻き上げ輪列が繋がっているとリュウズが回ってしまい、リュウズでリピーターを止めることも可能になるため切り離しが必要です。
リピータ輪列全体の速度はガバナーが調速し意図したテンポとタイミングで音が鳴るように制御します。

また、リピーター動作中にルモントワールが動作しない(表示が進まない)ように停止爪をブロックするルモントワール送りブロックが作動します。

表側(リピーター読み取り部分)はランゲ公式の動画を見てみましょう。



基本的なシステムは通常のリピーターと変わらず、表示している時間情報を連結したカムで深さ情報に換え、それをレバーで読み取り戻る距離=各トーンが鳴る回数として音を伝える仕組みです。
ただし、通常はクオーター(15分=1/4時間おき)である和音が表示に合わせてデシマル(10進数)になっており、10分単位になっていることが異なります。

順を追ってみていきましょう。



アワースネイルは時間ディスクに直接取り付けられており、スネイル(カタツムリ)と言う名称とはかけ離れた形状になっています。
この図ではわかりにくいですが、時間のバリエーションは12あるので深さも12段階です。



10分単位の分はディスク中央に、数字が6つあるのでスネイルの深さも6段階です。



ミニッツスネイルはオフセットした位置に、数字が10個あるのでスネイルの深さも10段階。



これを3組のレバーで読み取ります。
時と分のレバーはともかく、10分体のレバーはかなり設計の困難さを感じる折返し構造。



バネの力でレバーがスネイルに突っ込んで読み取り。
この瞬間にサンプルされ、時間情報が左下の駆動歯車、10と1の分情報が中央の半月状のラックに記憶されました、あとはこれを定速で戻せばOKという事になります。
ルモントワールのブロック機能によりリピーター動作中は表示が変わらないことが保証されているため常に音と表示は同一になります。

左下の時読み取りホイールが動力の入力になりここが回転することでリピーターのシーケンスが進みます。



向かって左のハンマーは時間と10分(和音)で鳴るため、二つの爪で駆動されている様子が分かります。



和音の時はタイミングをずらして両方のハンマーが駆動されていることが分かります。



重なっているラックが2つあるハンマー駆動爪をそれぞれ弾いている様子が分かります。



既存のツァイトヴェルク表示部に重ねるためにかなりタイトな設計。
ラック回転軸の中心が開いているのは秒針の軸を通すためです。



香箱から調速した動力を伝える輪列。
こちらも省スペース



計時輪列と。
ルモントワール機構と重ならないように配置されている様子が分かります。

幾重にも安全機構が備えられ通り、プッシャーと言う構造そのものが安全機構の一部です。
プッシャーはリピーター停止状態から動作状態に移行させることはできますが、動作状態から停止状態に移行するためにはシーケンスが完了することでしか行えず、動作状態中にプッシャーを押しても何も起こりません。
これによりに二度引きは原理的にできなくなっています。

リピーターの状態管理をパワーリザーブインジケーターとリュウズを制御するオシドリとも連動させることにより、パワーリザーブ残量が十分に無い場合はリピーターは起動できないようにする、またリピーター動作中にはリュウズが引けなくすると安全を徹底しています。

扱いが分かっている人向けではなく、万人が扱っても壊れないリピーターを目指していると実感しました。



まさに唯一無二、他に並ぶものがないであろう独特なフェイス。



しかしよく入れたな…

非常に興味深いリピーター機構、ふんわり理解でしたがガシガシ触ることで理解することができました。
今回の記事を書くにあたり、A.ランゲ&ゾーネならびに銀座ブティックのスタッフからの多大なご協力を受けましたことを、感謝いたします。ありがとうございました。

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