新年のおはなし

 By : Ay&Ty Style


あけましておめでとうございます。Ay&Ty Style の Ty です。
大変ご無沙汰しておりましたが、WMOの記事は毎日チェックしています。ほぼ読者ですね、すみません。

2021年、本当に時計を買いにくくなりましたね。私もいくつかの時計に手を上げてみたものの、競争が激しすぎて(苦笑)。Ay 込みでいえばオーデマ・ピゲを1本、ユリス・ナルダンを1本購入しましたが、私自身は、時計趣味をスタートして以来初めて、時計が一本も増えない(買えない)年で終わるかと思いました。

そんな年の瀬、一本の時計と出会いがありましたので、こちらでその時計とストーリーをお話しします。


2005年に心臓を撃ち抜かれ、今なお愛し続けるF.P.ジュルヌ。その中で特に思い入れが大きい時計が2本あります。その中のひとつがトゥールビヨン・スヴラン。写真の左側の時計です。

こちら、ご存じの方も多いと思いますが、フランソワポール・ジュルヌ氏が1999年にブランドを立ち上げて最初に発表したモデルであり、トゥールビヨンの腕時計がまだほとんど出ていなかった当時に、1秒ルモントワールを搭載してトルクを平準化するという、ギミック止まりではなく真面目に精度を考えて設計されたトゥールビヨンです。
最初の20本はスースクリプションとしてブランド設立費用の捻出のために販売され、文字盤に番号が書かれていますよね。


私は、F.P.ジュルヌのブティックを最初に訪れたパーティーの席で、とあるコレクターからトゥールビヨン・スヴランの特殊モデルを見せてもらった時のことを、今でも鮮明に覚えています。
繊細かつ審美的な文字盤のデザイン、薄型のケース、異常なまでに詰められた風防と文字盤のクリアランス、それを可能にした独特な形の針、そして、6時位置に覗くプロペラ状の部品。すべてが素晴らしく、また他と違う。孤高、唯一無二とはこのことかと思いました。

その後、F.P.ジュルヌの時計について貪るように情報を集め、ムーブメントの設計思想に再び感動。何としてもこの時計を手に入れなければと考えるようになりました。
そして後日、たまたま遊びに行ったブティックで縁があり、ローズゴールドケースにグレーの文字盤を組み合わせた初期トゥールビヨン・スヴランを入手することができました。その時青山のマネージャーだった飛田さんは、今はご自身のブランドNH WATCHを立ち上げています。


それから15年以上を経て、昨年末に縁があり購入したのが、写真右側の時計、第2世代のトゥールビヨン・スヴランです。

F.P.ジュルヌに関心のない方にとっては大差のない2本に見えるかもしれませんが、この2本の違いはケースの色だけではありません。

文字盤を見ると、新型では文字盤の各構成要素が慎重にシンメトリーになるよう配置されているのが分かります。上下に書かれたブランドロゴや、モデル名の文字の配置。12時位置のパワーリザーブ。3時位置の時分針のインダイヤル枠と9時位置のトゥールビヨン・キャリッジの枠。6時位置のスモールセコンド。
これらが調和の取れたシンメトリーに配置、デザインされています。第1世代より洗練された印象を与えるのはそのためでしょう。

ムーブメントは、ルモントワールにデットビート・セコンド機構が付加されました。他方で、デットビート・セコンドが6時位置に置かれたことと引き換えに、第1世代の大きな魅力だったルモントワール機構は文字盤から見えなくなりました。当時は、第1世代と第2世代のどちらが好きかについて、ジュルヌ好きの友人の間でいろいろ議論したものです。

第2世代のトゥールビヨン・スヴランは2004年に発表され、レゾナンスと並ぶブランドの顔として長く製作されましたが、第3世代の垂直トゥールビヨンの発表に伴って2019年に生産終了となりました。


今回購入した個体は、トゥールビヨン・スヴラン・デットビート・セコンド、38mm プラチナケース、グレー文字盤ですが、通常のモデルと少しだけ違いがあります。この時計がブティックで販売された当時のストーリーをご紹介しましょう。


この時計の最初のオーナーとなった方(A氏としましょう)は当時、第1世代のトゥールビヨン・スヴランがどうしても欲しくてブティックに探してほしいとリクエストをしていましたが、残念ながらすべて完売しており入手することができませんでした。
この頃はブティックに販売用の時計がいくつもディスプレイされており、その中には発売されたばかりの第2世代のトゥールビヨン・スヴランもありました。ブティックはA氏は第2世代のトゥールビヨン・スヴラン勧め、A氏は当時すでに各方面から絶賛を受けていたこの新作をとても気に入りました。しかし彼は、第1世代よりもケースが厚いと感じたほか、細部のケースデザインが若干異なるような印象を受けました。

実はブランドが公表している仕様は、第1世代、第2世代とも、ケース厚は9.9mm、つまり同一サイズなのです。しかし、A氏はどうしても違いがあると感じ、見過ごすことはできませんでした。
彼は悩んだ挙げ句、ブティックを通じてジュルヌさんにお願いをしました。

そのお願いとは、

<第2世代のムーブメントを第1世代のケースに載せてほしい>

というもの。


ジュルヌさんはA氏の熱意に押されたのかもしれませんね、このお願いを快諾し、第1世代のケースに第2世代のムーブメントを入れた特別なトゥールビヨン・スヴランをA氏に納品しました。


熱心なコレクターと熱意に応えるジュルヌさん。このようなストーリーは、早くからF.P.ジュルヌを愛してきた時計ファンの間では至るところに存在します。
現代最高の独立時計師であるジュルヌさんとの間のこうした思い出は、時計そのものとは別な宝物として、いつまでもファンの心に刻まれ、語り継がれるのでしょうね。


今年は久々に、ジュルヌオフやりたいなあ。
ご興味あるかたおりましたらこっそりご連絡ください!