パジェス レギュレーター表示とピボット・デテント脱進機を組み合わせた Régulateur à détente RP1

 By : CC Fan
AHCI(独立時計師協会)に所属するラウル・パジェス(RAÚL PAGÈS)氏、修復工房出身で、自身の名を冠したパジェス(PAGÈS)銘で、CYMAのエボーシュを使った腕時計や、亀のオートマタを作ってきました。
(工房訪問及び亀のオートマタは以前の取材紀行もご覧ください、先日掲載した関口氏が働いていたJuvalも登場します、4年前って…?)

今回、3作目として、レギュレーター表示と、なんとピボット・デテント脱進機を搭載した腕時計、Régulateur à détente RP1を発表しました。
良いことは重なると言うか、まさかのピボット・デテント脱進機!アンチ・トリッピング機構搭載!という事で、連日「深夜のラブレター」を書いています。

公式資料は英語のみなので、抄訳というか意訳で、ブログでお伝えします。



「高精度」の聖杯、精密標準時計に使われた針の重なりを減らし高精度な読み取りを可能とするレギュレーター表示、マリンクロノメーターに使われたピボット・デテント脱進機、その二つを組み合わせて小型化し、パジェス流の再解釈を加えています。
レギュレーターの読み取りを阻害する要素は極力省かれており、PAGÈS銘も5時と6時の間に控えめに入れられています。



一見すると印刷にも見えるミニッツインデックスは「切れ込み」で下のダイヤルの色が透けることで表現されていることが分かります。



時間と分、秒のそれぞれの異なる表現がコントラストを構成するシンプルなダイヤル。

建築家 ル・コルビュジェへのオマージュを捧げる文字盤デザインは複数の色と仕上げのコントラストで構成され、明るいメインダイヤルと黒いミニッツインデックスリングの対比、磨かれたエッジで一段下げられた秒のサブダイヤルはル・コルビジェのPolychromie Architecturaleにセルリアンブルー 59として登場する色をモチーフとしています。



「高精度時計」らしく、過度の装飾や細いブリッジではなく、がっちりとした幅広のブリッジで各軸を支えるムーブメント。
ピボット・デテント脱進機は比較的レバーが長い古典的な「ロング・レバー」デテントで、大型のテンワの外周より外側に支点(ピボット)が設けられています、より近代の「ショート・レバー」はレバーが小型化され、テンワの下、ガンギと同じ階層にレバーの支点も配置されています。

大型のテンワの緩急調整はゴールド製の偏心錘(マスロット)で行う構成、緩急針が無いフリースプラング方式です。



テンワを外すと、ピボット・デテント脱進機の仕組みが明らかになります。
ガンギと噛み合う4番車は文字盤側にあるのか、一見するとガンギ自体はどこにもつながっていないような「ミステリー」輪列になっています。

動作シーケンスを見てみましょう。
まず、ガンギはデテントレバーの途中にある止め石で歯を押さえて停止させられています。
レバー先端のパッシング・スプリングという1方向にだけ素通しさせる一種のワンウェイクラッチは、ガンギの回転方向とテンワの回転方向が一致するときだけレバーを動かし、これにより止め石が外れてガンギの停止が解除されて回転します。。
ガンギが回転するとガンギの歯が天真に設けられた振り石に対して「直接」衝撃を与え、テンワが加速します。
ガンギが1歯進みきる前に、支点に設けられたヒゲゼンマイのテンションでデテントレバーがガンギ側に押し付けられ、止め石がガンギの軌道に侵入し、ガンギの歯を押さえてガンギを停止させ、シーケンスは最初に戻ります。

デテントが高効率なのは、「直接」衝撃に加え、停止位置が1箇所しかなく、ガンギの停止から次の停止までの回転量のほとんどをテンワへの衝撃に使える為です。
しかし停止が1箇所しかないうえに、その停止は支点のヒゲゼンマイの力とドローと呼ばれる止め石に角度をつけてガンギ側に引き込む力で「押さえている」だけなので、強い衝撃を受けると止め石が外れてしまいガンギの歯がテンワにぶつかったり、逆方向の衝撃を与えて振りが低下したりと言った異常が起こるトリッピングという問題が避けられませんでした。

今回、パジェスはトリッピングを抑制するアンチ・トリッピング機構を開発し搭載、レバーの先端に設けられた爪のようなものがそれになります。



天真に取り付けられた切りかけを設けた円盤がレバー先端の爪と作用し、本来解除するタイミングではないときはレバーの動きをブロック、停止が解除できないようにすることでトリッピングを抑制するというシンプルな仕組みです。
この仕組みであればテンワが特定の位相以外では、幾何学的にレバーが解除されるまでは動けないことになり、「押さえている」だけよりも安全になります。

もっとも、古典デテントも振り石が取り付けられている振り座の形状を工夫し、ガンギがどのタイミングでも完全にはフリーにならないようにし、トリッピングのなかでも最悪の「複数歯が一気に進む」が起きなくする対策は行ったりしており、同じ考え方はパジェスの設計にも見られます。

ただ、スイスレバーのダブルローラー安全装置のようにテンワの位相が特定の箇所でしか停止解除できない、の方がより安全なのは間違いありません。



振動数は5振動/秒ですが、デテントは2振動に1回しかガンギが動かないので、秒針は2.5振動/秒に見えます。



ムーブメントの大きさに調和し、各部のサイズが調和した、洗練されたケースは38.5mm径。



ケースバック側から見るとムーブメントとケースが大きすぎず小さすぎず、ちょうど良いバランスを保っています。



これは実機を見てみたい!

最後に公式のスペックを掲載します。

Technical specifications

Display

Sandblasted, diamond and nickel-plated dial
Black nickel-plated minutes flange
Diamond-polished, circular-grained and rhodium plated hours flange
Seconds dial matt lacquered, cerulean blue 59
Hardened steel hands: chamfered, rounded-off and polished
Domed and polished fixing screws

Case

Material: 316L stainless steel
Polished bezel, top of lugs and back
Satin-finished case middle
Bevelled and polished lug screws
Dimensions: 38.5 mm x 10.2 mm (with sapphire crystal)
Between lugs: 19mmWater resistance: 3 atm -30m -100 ft
Sapphire crystal with anti-reflective coating, bezel and caseback

Movement

In-house movement with manual winding
Escapement: pivoted detent with anti-tripping system
Balance: variable inertia with four 18K gold weights
Dimensions: 33.6 mm x 5.6 mm
Power reserve: 47 hours
Number of jewels: 17
Number of components: 171
Balance frequency: 18,000 vibrations per hour / 2.5 Hz
Component materials: nickel silver and steel
Treatments: nickel plating and gold plating
Finishing: haute horlogerie, hand-made

Strap and buckle

Supplied with two hand-stitched straps in black and beige leather with blue stitching, fitted with bars featuring a tool-free removal system.
316L stainless steel buckle with "Pagès" logo engraving

www.pageswatches.com