オーディマ ピゲ ロイヤル オーク “ジャンボ” エクストラ シンの新ムーブメント 7121を読む

 By : CC Fan


オーデマ ピゲより発表されたロイヤル オーク50周年モデル、その中でもロイヤル オーク “ジャンボ” エクストラ シンに使われていたムーブメント2121(OnlyWatch 2021で有終の美を飾った)が完全新設計の7121に更新されました。

このムーブメントは2121と同等のサイズながら、より「現代的」な設計を取り込み、厚さを押さえる為に重なりを減らしたことが特徴と読み取れます。
分解動画から探っていきましょう。



わかることは、2121で特徴的だったブリッジに嵌るような円周状のレールを地板側のルビーの車輪で支える構造の自動巻きローターが、現在としては一般的な中心をボールベアリングで支える方式に変更されていることです。

これにより、ムーブメント中心部分にベアリングが配置されるため、中心部で使える厚みが減ります、しかし計時輪列と自動巻き輪列をオフセットさせて外周に逃がし、中心部には香箱に噛みあう2番車(相当)のピニオンだけ配置するオフセット輪列にすることで重なりを分散させて厚みを減らしています。



対称性を強調したブリッジ、向かって左側のブリッジに自動巻き・手巻き・時合わせ(リュウズ操作)関係の輪列が、向かって右側のブリッジに2番車から4番車、ガンギ車の計時輪列が収まっています。



2121は香箱真を角穴車側だけで支え、地板側は香箱の外周を地板で支える吊り香箱と呼ばれる方式でしたが、7121では地板側にも香箱真を受ける穴があり、香箱を両持ちで支え、より安定した香箱の挙動を実現させるようになっています。



計時輪列は、香箱外周(1番車)からスタートし、2番→4番で加速する加速輪列です。
ブリッジを裏から見ると、複雑に切削し、薄いながらも最大限に強度を確保しようとしていることが分かります。



テンプの振動数が5.5振動(2.75Hz)/秒と非整数で、1振動は0.18…秒なので、1秒ごとの表示は行えず、スモールセコンドを設ける必然性もない、という事で4番車も機能で決まる位置に配置することができます。
この振動数は2121と同じであり、2121をベースにしたコンプリケーション(永久カレンダーやグランドコンプリケーション)も7121に置き換えるための布石ではないか?と予想されます。



表示用のピニオンは計時用輪列とは別に、香箱に独立に噛みあい、センターに設けられた筒カナ(相当)軸と摩擦クラッチで結合しています。



筒カナと日の裏車はその名前に反して、ムーブメントの表側(計時輪列がある側)に配置されています。
筒カナから日の裏車へ減速された日の裏車のピニオンは地板を貫通して文字盤側に出力され、文字盤側の筒車と噛みあいます。



筒車は地板の大径ルビーと筒車・日の裏車を支えるブリッジによって支持されます。



筒車の外周を支える大径ルビーと、日の裏車のピニオンが抜けるための穴。



筒車と日の裏車を支えるブリッジ。
筒車から伸びている4つの歯車はカレンダーを動かすための24時間中間車です。
筒車から1:2で減速され、24時間で1回転し、6時位置の爪でカレンダーを送ります。

通常であれば文字盤側にすべて集中し、薄型化のためには部品自体を薄く(弱く)するしかなかった筒カナ・日の裏車・筒車を地板内に埋め込むことによって厚みを押さえていることが分かります。



薄型ムーブメントながら、地板自体は相対的に厚く、部品が収まるところを深く掘りこむことによって強度を保ったまま部品を納めて全体として薄くする設計になっています。
これは、配置を「最適化」することにより、部品の強度は保ったまま薄くする、逆に言えば2121と同じ厚みを保つ、より堅牢な実装を目指した作り、と読みました。



複雑な地板、それぞれの歯車が適切な高さになるよう細かく高さの違う面が設けられている。



このような設計が実現できたのは、3D CADによる三次元的な部品配置の検討、CNCによる複数レベルの深さを含む複雑な地板やブリッジ加工による「現代」の恩恵であると考えられます。

筒カナ(相当)がムーブメント側にあるため、時合わせ輪列もムーブメント側にあります。



自動巻き、手巻き、時合わせの輪鉄はスケルトナイズが施された7124を見るとよりわかりやすいかもしれません。
筒カナ、日の裏車、筒車同様、地板を深く掘りこむことで配置を最適化し、全体として薄くしている構造なのが分かります。
2121ほど「尖った」構造ではありませんが、逆に言えば手堅い作りと言えます。



逆にテンワのひげ持ちは「尖った」構造を持っています。
通常であれば天真のブリッジに取り付けられるヒゲ持ちが独立しており、外周から支えるように個別に地板に固定されます。
これにより天真のブリッジとヒゲ持ちが重ならず、同じ階層に置くことで薄くすることができ、重ならないためそれぞれは薄くしなくてよい(≒強度が担保できる)ことになります。



緩急は偏心錘(マスロット)を回転させ、慣性モーメントを変化させるフリースプラング方式。
ヒゲ持ちの構造的に緩急針は使えなさそうなので、必然かもしれません。



ローター取り付け前、対称性を強く意識したデザインが見て取れます。

名機とされながらも、約50年前に基礎設計された2121を今回現代的にアップデートした7121。
ロイヤル オーク50周年にふさわしいアップデートではないでしょうか。





本記事に続いて、この新キャリバーを搭載した「ロイヤル オーク "ジャンボ" エクストラ シン」の最新世代4モデルと、その派生キャリバーであるスケルトン仕様のキャリバー7124を積んだ「ロイヤル オーク“ジャンボ”エクストラ シン オープンワーク」の2モデルをプレスリリースから紹介しているので、引き続き下記のリンク記事、
https://watch-media-online.com/blogs/5337/ をお読みください。


オーデマ ピゲ、ロイヤルオーク50周年のマイルストーン~新キャリバーを搭載した「ロイヤル オーク "ジャンボ" エクストラ シン」と「ロイヤル オーク“ジャンボ”エクストラ シン オープンワーク」 へ続きます。