スプリング デテント デッキクロノメーター

 By : CC Fan


初作「プリムヴェール」
を携え来日したル・ロックル在住の時計師、関口 陽介氏、先週末に「プリムヴェール」のお披露目とNH Watch代表の飛田氏との対談を行うイベントが行われました。




関口氏との再会とイベントも、もちろん素晴らしかったのですが(そのイベントの模様や「プリムヴェール」のレポート記事はただいま準備中です)、個人的な楽しみは「本屋」で購入したスプリングデテントデッキクロノメーターの点検とオーバーホールが完了し、Juvalで購入したピボットデテントクロノメーター(ルロック時計学校のエボーシュ?)と合わせて、「ピボット」と「スプリング」の二大デテント脱進機を手に入れる夢が叶ったことです。



2019年7月18日、現時点で「最後のスイス」になったスイス取材+旅行、「本屋」ことWOSTEP創設者アントワーヌ・シモナン翁EDITIONS SIMONINにて、訪問3回目でやっとシモナン翁本人にお会いすることができ、本人しか開けられない時計ケースを開けて、クロノメーターを拝見させてもらう事が出来ました。
(本人しか開けられないので、店番しか居なかった2回の訪問では開けられず「お預け」の状態になっている)



本屋ですが、アンティークウォッチとか時計工具を買いに来る方もいるそうです。



「レバーのクロノメーターも良いけど、私はデテントが欲しい」という謎のリクエストに対してシモナン翁が出してきたのがこれ、ユリスナルダンのスプリングデテントエボーシュを使った輸出用のデッキクロノメーターという個体です。

既にピボットデテントクロノメーターは持っていたので、スプリングデテントがあると良いペアになる、と思って譲ってもらう事にしました。
色々あって、その場で引き取ることは出来なかったので、覚書を交わし「次のスイスに行ったときに」としたのですが、その後はコロナ禍によって展示会は吹っ飛び、スイスには行けず、気が付いたら2年の時が経ってしまいました。

今回、オーバーホールと点検をお願いしていた関口氏のご厚意で持参していただき、2年越しで2つのデテントが手元に揃いました。



両方ともThe・クロノメーターと言った大きなスモセコを持つ意匠です。
船の一次標準としての据置型マリンクロノメーターを補佐またバックアップするための携帯型デッキクロノメーターと呼ばれるもので、比較的大きな懐中時計の形をしています。

「スプリング」「ピボット」というのはデテント脱進機のレバーを支持する方式の違いで、スプリングは板バネのしなりを利用し、ピボットは通常の穴石と軸の支点を持ちます。



オーバーホール作業中の写真を頂きました。
左下の横からネジ止めされている部分が「スプリング」の板バネです。
バネのしなりでデテントレバーが動き、バネの復元力で元の位置に戻ります。



対して、「ピボット」はこんな感じです。
穴石と軸でレバーを支え、レバーが元の位置に戻る力を発生させているのヒゲゼンマイです。

ピボットは軸が動くための「遊び」がどうしても必要ですが、スプリングは適切に設計されていれば「遊び」がゼロなため、安定度はスプリングの方が良いようです、ただしバネが生み出す仮想の支点がレバーに対して充分動かないと見なせる条件のために、どうしてもある程度の長さが必要となるため、ピボットよりも場所が必要、というトレードオフがあるようです。



スプリングも同じく、レバーと止め石の画像を。
両方ともレバーの可動範囲を制限するスイスレバーで言うドテピンに相当する機構を、可変のカムなどではなく地板に直接穴を開けて削って合わせこんでいます。
これはクロノメーターにふさわしい精度に合わせてギリギリまで調整するための工夫、と理解しました。



地板・ブリッジ・歯車…すべてが「頑丈」「質実剛健」という印象です。
2番と3番を両持ちのブリッジで支え、4番とガンギには独立した片持ちブリッジを備えています。

香箱には、「もちろん」巻き止めがあり、パワーリザーブよりも精度を重視しています。



ピボットデテントも細部は異なりますが、同じブリッジ分割です。



コハゼは隠れていますが、非常に分厚い頑丈そうな構造。
謎の番号?も気になるところです。



時合わせはボタンを押すと噛みあうダボ押しと呼ばれる方式です。

デテントの脱進音はレバー脱進機とはまた違う…という事で動画を撮ってみました。
懐中ケースは開けられるので動きも同時に。



レバーのいわゆる、「チクタク」の往復運動ではなく、「チッチッ」と片方向にガンギが回転するときだけダイレクトに衝撃を与えている音がします。
正確には反対の時はパッシングスプリングを跳ね飛ばす音がしているのですが、衝撃音に比べると小さいためほとんど聞こえません。



ピボットデテントも同様に。
こちらはグラスバック?ケースなので簡単に撮影できるものの、音がちょっと籠ってるかもしれません。

スーパースローにも挑戦したのですが、上手くアップロードできなかったので、また挑戦します…

「高精度」の「聖杯」としてデテント脱進機が欲しい、と漠然と思ってはいましたが、関口氏とJuval、そしてシモナン翁のおかげで個人的には大満足のピボットとスプリングが揃ったのは素直に嬉しいです。