カール F. ブヘラ、ペリフェラルローターを「読む」

 By : CC Fan

カール F. ブヘラ自社キャリバーの特徴である「ペリフェラル」技術、今まで何度か断片的に触れてきたこの技術について、改めてふり返ってみたいと思います。



まず、自動巻きの動きから考えてみましょう。
外周部に錘をつけた回転体(ローター)をムーブメントに取り付け、手首の動きを錘の動きに変換、その回転からエネルギーを取り出して香箱を巻き上げる機構です。

効率よく巻き上げるための指標として、ローター回転から取り出せるトルクを検討します。
トルクはてこの原理より、回転中心から力が加わる点(錘の重心)の距離×錘が発生させる力(質量×重力加速度=力)で定められるため、なるべく重く、なおかつ回転する半径が大きいほどトルクが大きくなる、と見做すことができます。
効率を良くしたい、と考えた場合にムーブメント直径すべてを覆うような「フルローター」が主流になった理由でしょう。
フルローターの欠点として半円状のローター部品がムーブメントを覆ってしまうため、特に高級な仕上げを施した高級機で見た目をスポイルしてしまうという問題があり、昨今では小型化したローター(ムーブメント直径の半分~3分の1程度)を地板に埋め込む「マイクロローター」を採用したムーブメントも作られています。
こちらはローターが覆わなくなるため美観を損なわない、重なりを減らすことでムーブメント自体を薄型化することが出来る、と言うメリットはありますが、逆にトルクを確保するために錘自体の質量を大きくする必要があるため軸への負担が相対的に増加するという問題はあります。

さて、フルローターがムーブメントを覆う理由は回転軸が中心にあり、外周部の錘部分までスポークを伸ばさないといけないためでした、改めて考えると、フルローターと同じように外周部に錘を配置し、中央の1軸ではなくムーブメントの外周部で保持すれば回転半径が大きいままムーブメントを遮らずに自動巻きが実現できないでしょうか?
これが錘を外周部(ペリフェラル)に配置する「ペリフェラルローター」の基本的な考え方です。

ペリフェラルローターの発想自体は古く、1955年ポール・ゴステリによる特許(No.322325)の取得から始まりますが、当時の技術力では量産することが難しく、効率よく巻き上げるための要素技術であるベアリングなどもまだまだ未熟でした。



カールFブヘラがこの技術に着目したのは2005年、自社キャリバーの製作を目指した際に効率の良さと薄型化の両立のために採用し、2008年に自社キャリバーA1000として完成させ、ペリフェラルロータームーブメントをシリーズ生産したブランドとなりました。



2008年のA1000からスタートしたペリフェラル技術は、2016年のA2000キャリバーでCOSCを取得、2018年のT3000キャリバーではトゥールビヨンを「ペリフェラル」技術で保持して同じくOCSCを、更に2021年のMR3000ではトゥールビヨン+ミニッツリピーターを実現しました。

では、具体的には同やっているのでしょうか?



巻き上げ輪列の透視図を見れば一目瞭然です。
センターの軸の代わりに3つのボールベアリングで支持されたピンがリング状の錘を支えており、これにより中心軸が無くてもリングは回転することが出来ます。
ピン自体にDLC加工を行って摩擦を低減し、ボールベアリングにも耐久性に優れて摩擦が小さいセラミックボールを使い滑らかな回転を実現しています。



ペリフェラルローターは外周にしかないため、手巻きムーブメントのように常にムーブメントの全容を眺めることが出来ます。

3つのピンとベアリングにはそれぞれ衝撃が加わった時にバネ要素を使って衝撃を受け流すダイナミック・ショック・アブソーバー(DSA)と名付けられた機構が備えられ、衝撃が巻き上げ輪列まで伝わらないように工夫されています。
錘は比重の大きいタングステンで作られ、必要なトルクを生み出しています。

何よりフルローターと違い錘とムーブメント輪列を同じ層に納めることが出来るため、ムーブメントを薄くし装着感を向上させることが出来ました。
また、両方向巻き上げで両方向で錘が適度にダンプされた動きになるため、片方向巻き上げ自動巻きにありがちな錘が高速回転することもなく自動巻きという事をあまり意図せず使えます。

はじめて実現したA1000キャリバーからCOSCを取得し、コンプリケーションのベースとしての「基幹キャリバー」として実現されたA2000への進化において、高振動化・フリースプラング化など安定性を高める技術のほか、ペリフェラルローターを支えるDSAも受けと衝撃吸収用スプリングを一体化した実装にするなどよりスマートな実装になっています。


A1000のパーツ、受けとバネが別


A2000のパーツ、受けとバネを一体成型

さらにペリフェラルを「アイコン」として、トゥールビヨンの駆動と支持を外周で行うT3000。


ローター同様外周のボールベアリングで支持されるペリフェラルフローティングトゥールビヨン。

T3000をベースにペリフェラル式ガバナーのリピーターユニットを搭載したMR3000と


「ペリフェラル」をブランドのアイコン、と定め、自動巻きでだけではなくトゥールビヨン、ミニッツリピーターと開発を進めたブヘラ。
これからも独自の方向性を貫いてほしい、と思います。


※このブログと併せてお読みください。
C F・ブヘラの新時代を象徴する「マネロ・ペリフェラル」というダイナミックなキーワード~インプレッション・レポート
https://watch-media-online.com/blogs/7329/ 




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