SIHH2018 オーディマ ピゲ ロイヤルオークRD#2の永久カレンダー機構

 By : CC Fan
オーディマ・ピゲ(AUDEMARS PIGUET)のSIHH2018の新作については、KIHさんa-lsさんがすでに網羅的にまとめているので、私は個人的に最も興味があったロイヤルオークRD#2の永久カレンダー機構についてレポートしたいと思います。

ブース内には動作するアクリル製のRD#2の拡大ムーブメント模型がおいてある"秘密の部屋"があり、KIHさんと一緒に実機を動かしながらレクチャーを受けたのですが、残念ながら模型自体の撮影はNGでした。
実機写真と理解したことを文章に書くのはOKとのことなので、関係者に伺った話と自分の理解をレポートしてみます。

まずは動画をどうぞ。



一瞬だけムーブメントが写りますが、これだけではなかなか理解できません。
a-lsさんのレポートにあるムーブメントの写真もあわせてご覧いただければと思います。



実機を見ると、いわゆる"四ツ目"レイアウトでありながら、月と曜日のサブダイヤルが上側にオフセットしていることがわかります。
オフセットさせている理由はすべての軸を重ならないようにするためと、大きな48ヶ月歯車のスペースを確保するためだと思われます。

48か月(12ヶ月×4年)を制御するための歯車は4時位置のうるう年表示の軸に配置されており、月表示はその歯車から変速して動かされています。
日付を制御する歯車は6時位置の日付の下に配置されています。

動画中にも出てきた”3 LAYERS BECOME 1"すなわち、3層を1つにというのがこの機構を端的に表しています。

古典的なパーペチュアルカレンダーの場合、日付の歯車の軸は、
  1. 24時に1日ずつ日を送るための31歯の歯車(動作時以外はバネで規制される)
  2. 月末にレバーで"早送り"するために引っ掛けるスネイル状のカム
  3. 31日から1日に切り替わる時に月の歯車を送る1歯分の歯車
の3つの歯車が重なった構造になっています。

月の歯車の方は、
  1. 日付の歯車から駆動される48歯の歯車(バネで規制される)
  2. 各月の月末の送り量を記録した溝を持つカム(送る量が多いほど深い)
が重なっています。

永久カレンダーは通常のカレンダーに対して、月末を処理するためのレバーが追加されており、毎日24時に日付を送る際にはこのレバーも動かされます。
レバーは両方の歯車の2.を結び付けており、月末以外はスネイル状のカムに引っかからないため空振りします。
月末になると、スネイル状のカムにレバーが引っかかるため、通常の1日単位の日付送りに加えて"早送り"が行われ、月末の数日分がスキップされるという仕組みになっています。

古典的なパーペチュアルカレンダーもAPのメイキング動画がありましたので掲載します。



1:15あたりからスネイル状のカムにレバーがかみ合い"早送り"される様子がわかるかと思います。

追記:ロイヤルオーク オフショア グランドコンプリケーションの動画にもパーペチュアルカレンダーの動作が示されていたので掲載いたします。



さて、RD#2では独立していたこれらの層を論理的に融合させて1層にすることに成功しています。
すなわち、日付の歯車では、
  1. 31歯の歯車はそのまま
  2. スネイル状のカムの代わりに、31歯のうち1歯のみ歯の側面の形状を変えてレバー先端が引っかかるようにし、ほかの30歯は空振りする形状になっている
  3. 独立した送り用の歯車の代わりに、31歯のうちの1つだけ微妙に歯の背を高くして月の歯車に引っ掛かるようにする、他は背が低いので引っ掛からず素通し
という作りで、3層を1層にまとめています。
月の歯車のほうでは、
  1. 48歯の歯車はそのまま
  2. カムの溝が歯底(歯車のギザギザの凹部分)に位置するように設計して、歯と同じ高さに直接、溝を切ってある
という作りで、2層を1層にまとめています。

言われてみればなるほど、という構造ですが、古典的な構造の常識に囚われていると考えつかないと思います。
KIHさんが「コロンブスの卵」と評していますが、まさに的を得た表現だと思います。

レバーの可動域がずいぶん広く、48ヶ月カムの溝と読み取り用のレバーも随分深いです。
これは、古典的な永久カレンダーではレバーで読み取った位置情報をレバー上に設けた関節を使い、てこの原理で大きくしているのに対し、RD#2では読み取った値で直接動かしているためだと考えられます。

さらにレバーの軸は地板側のみに設けられ、文字盤側は直接文字盤で押さえつけるという構造によってさらに薄くしています。
強度が心配になりますが、レバーは地板の凹部分に埋まっており、凹部分の形状によって動きすぎないように規制されているので、大丈夫ということのようです。



ムーブメントの厚みは2.89mm、ロイヤルオーク エクストラシンに使われる通常カレンダー搭載の2121の厚みが3.05mmなので、永久カレンダーを加えた上にさらに薄いということになります。
レバーの押さえを文字盤側に任せ、そちらをムーブメントの厚みに入れていないのでより薄いのかもしれません。
ケース自体の厚みは6.3mmで、永久カレンダーとしては世界最薄とのこと。



計時輪列の基本設計は1212をベースにしているように見えます。

非常に興味深い構造で、模型の画像と掲載許可が得られればさらに突き詰めてみてみたいものです。

https://www.audemarspiguet.com/jp/new/