グルーベル フォルセイ番外編 "発明" ダブルトゥールビヨン30° クアドラプルトゥールビヨン トゥールビヨン24セカンド

 By : CC Fan
SIHH2018の新作情報としてグルーベル フォルセイ(Greuble Forsey)の各ピースを取り上げてきましたが、ふと当たり前のようにほぼ説明なしに取り上げていたコンプリケーション、トゥールビヨン24セカンドはどれぐらい知名度があるのか、書いたことが伝わっているのかが不安になりました。
良い機会なので、グルーベル フォルセイの特色である、トゥールビヨン3種類を改めて取り上げたいと思います。
公式ホームページにOur Inventions(私たちの発明)として記載されている順に見ていきましょう。

第1の発明 ダブルトゥールビヨン30°

最初に発明されたのはダブルトゥールビヨン30°です。
ダブルというのはトールビヨンの軸が2つあることを示し(2軸トゥールビヨン)、30°は2つの軸がなす角を表しています。
公式の動画を見てみましょう。



前半の30秒は上から、後半の30秒は下から角度を変えながら観察します。

まず気が付くこととして、トゥールビヨンのケージに直接歯を切り、そこに駆動用歯車をかみ合わせています。
これにより、一般的なトゥールビヨンの中心軸のピニオンから駆動させる方式に比べ、駆動用の歯車がトゥールビヨンを遮らなくなり、またピニオンの分まで上下の支点位置を広げることができるため、より支持を安定させることができます。
また、軸が傾いており、斜め方向に回転する内側のトゥールビヨンの分、厚みが必要なので、厚み方向のスペースを節約する効果もあります。

外側のケージは駆動用の歯車から駆動され、4分で1回転します。
ケージ下部に固定歯車があり、この歯車に対して30°の傾きで内側のトゥールビヨンの駆動ピニオンがかみ合っています。
外側のケージが回転すると固定歯車にかみ合ったピニオンも回転し、内側のトゥールビヨンが駆動されます、内側のトゥールビヨンは傾いている以外は古典的なトゥールビヨンと同じで、1分で1回転します。

ここまで書いて、軸の取り方などは異なりますが、3軸トゥールビヨンと基本的な考え方は同じだと気が付きました。
30°でかみ合っている部分でトゥールビヨンケージが内側のトゥールビヨンのものか外側のトゥールビヨンのものか静止画だとわかりにくいですが、動画であれば割と伝わるかと思います。

傾きをつけている理由は明確で、古典的な1軸トゥールビヨンは回転軸に対して重力が垂直にかかる方向(12時上・3時上・6時上・9時上)では姿勢差のキャンセル効果が働きますが、回転軸に対して重力が平行になる方向(文字盤上・下)では効果がないという問題を解決するためです。
軸が2つあり、片方が傾いていることで文字盤上・下の状態でも脱進機にかかる重力が変化するため姿勢差を打ち消す作用があります。

30°の角度や4分と1分といった周期は理論と研究用のプラットフォームEWT(Experimental Watch Technology:実験的時計技術)によって検証を行い、最も効果が高かった組み合わせを選んだそうです。

理屈だけではなく、実際に効果があることは、この機構を搭載したダブルトゥールビヨン30° テクニックが精度を競う国際クロノメトリーコンクールで915/1000というスコアで優勝したことで証明されました。



このピースは特に精度を追求し、4個の同軸高速回転香箱を使い、120時間(5日間)のパワーリザーブ、1日に1秒も狂わない(日差1秒以内)という機械式時計としては驚異的な精度を実現しています。

最後に公式のプロモーション動画を…



各部の立体感が非常に素晴らしいです。
ダブルトゥールビヨン30°はムーブメント全体に対し、ブリッジも含めるとかなり大きいスペースを必要とすることもわかります。

第2の発明 クアドラプルトゥールビヨン

2番目はダブルトゥールビヨン30°をさらに高精度化するべく、2つのダブルトゥールビヨン30°を並列に動かし、差動歯車機構で平均を計算するクアドラプル(Quadruple:4重 2×2)トゥールビヨンです。



わずかに高さを変えて取り付けられた2つのダブルトゥールビヨン30°が差動歯車機構にかみ合っています。
動画内の説明を読むと、コンスタントディファレンシャルではなく、通常の差動歯車機構のようです。
片方には240秒のインデックスが、もう片方はインデックスがなく純粋にトゥールビヨンの動きのみを眺めます。

片方のダブルトゥールビヨン30°がムーブメントからはみ出していますが、グルーベルフォルセイが特徴とするアシンメトリカル(asymmetrical:非対称)ケースによってはみ出させた上で、サイドから観察するためのサファイアクリスタルの窓も追加しています。

カタログを眺めていて個人的に一番印象的だったのは、あえて文字盤側のトゥールビヨンの開口部を塞ぎ、240秒と4分のサブダイヤルのみにしたクアドラプルトゥールビヨン セクレ(Secret)という作品でしたが、まだ実物を拝見できてはいません。
ちなみに、セクレバージョンはダブルトゥールビヨン30°にもありますが、最近はないようです。
やはり"あえて隠す(Secret)"というのはあまり理解されないのかもしれません。

第3の発明 トゥールビヨン24セカンド

ダブルトゥールビヨン30°とクアドラプルトゥールビヨンは精度は素晴らしいですが、脱進機そのものの機構が大きく追加の複雑機構を入れる余地があまりありません。
そのため、精度を維持したまま小型化するために3番目に作られたのがトゥールビヨン24セカンドです。

こちらも機構だけを取り出した公式動画を見てみましょう。



ダブルトゥールビヨン30°と異なり、回転軸は垂直な1軸のみと通常のトゥールビヨンと同じで、駆動も軸のピニオンからですが、テンワ・ヒゲゼンマイとアンクル、ガンギ車の3つは回転軸に対して25°の角度をつけて取り付けられています。

ガンギ車のピニオンと固定歯車は角度をつけてかみ合うために、斜めに傾きをつけた正接傾斜歯(Tangential inclined gear)の固定歯車に垂直(?)のピニオンがかみ合っています。

2軸から1軸になったことでテンワとヒゲゼンマイのとりうる姿勢のバリエーションは減りましたが、その分高速で回すことで補おうという考えと理解しました。
高速に回転させるためにケージの重量を減らさなくてはいけないため、ケージはチタンと軽合金で作られています。

この角度や周期もEWTプラットフォームの実験によって最適値が決められたそうです。

ケースに収めた動画を見てみましょう。



単純比較はできませんが、ダブルトゥールビヨン30°に比べ、トゥールビヨン部分が小型化できているのがわかりますでしょうか?
この小型化により、ムーブメントに拡張の余地が生まれ、GMT、永久カレンダー、そしてグランドソヌリが実現できました。

如何でしょうか?
最優先で精度を求めたダブルトゥールビヨン30°と精度を保ったまま小型化を求めたトゥールビヨン24セカンドのキャラクターの違いは伝わりましたでしょうか。

現在、グルーベル フォルセイのWebサイトでは第7の発明まで公開されていますが、4から7は別の機会に…

http://www.greubelforsey.com/en/