SIHH2018 グルーベル フォルセイ メカニカル ナノ ‐ ナノ フドロワイヤント EWT +α

 By : CC Fan
2018年3月19日追記:会場でいただいたUSBメモリ内に詳細な資料があることを見逃していました!公式写真を含めたより詳細なレポートを追って掲載します。
2018年3月20日追記:フドロワイヤントの表記が一部間違っていたのを修正しました。


SIHH2018 グルーベル フォルセイ(Greubel Forsey)の最終回は謎に包まれていた研究プロジェクト メカニカル ナノ(Mechanical Nano)の成果、ナノ フドロワイヤント EWT(Nano Foudroyante EWT)についてレポートします。
メカニカル ナノプロジェクト全体についてはKIHさんが既に報じています

メカニカル ナノプロジェクトは時計塔から置時計、懐中時計、腕時計へ歴史を"機構の小型化"と捉え、腕時計の"次"に目を向けています。
懐中時計→腕時計で行われた小型化と同じような比率でムーブメントの各機構を縮小し、最適化することでエネルギー効率の上昇、それによるパワーリザーブの向上、そして小型化によってはじめて可能となる新しい複雑機構の製作を目指しています。
ナノというのは現在の時計製作で使われる長さの単位マイクロメートル(μm:1メートルの100万分の1)より1,000倍小さい単位ナノメートル(nm:1メートルの10億分の1)と、エネルギーの単位ナノジュール(nJ)であり、小型化と省エネルギーを表しています。

メカニカル ナノ自体は複数の研究開発が並行して進んでいるプロジェクトのようですが、今回は成果の一つ、小型化による複雑機構ナノ フドロワイヤントを搭載したピースを拝見させていただきました。



こちらが実機です、非常にコンパクトな輪列の左側に何か機構が付いていることがわかります。
これがナノ フドロワイヤントです。

ピースの詳細を見る前にフドロワイヤントについて少し。
フドロワイヤントというのは、1秒で1回転する針で、6振動であれば1/6秒ごと、8振動であれば1/8秒ごと、と振動数を直接目に見える形で表示する機構です。
用途としては秒積算計だけでは1秒以下の単位が読みにくいクロノグラフの補助表示などですが、個人的に一番面白いと思ったのはジャガー ルクルト(Jaeger-LeCoultre)のデュオメトル(Duomètre)シリーズです。



リュウズを逆回転させることで巻き上げる香箱を選択する両方向巻き上げで、巻き上げも別の二つの独立した香箱、計時用香箱とコンプリケーション用香箱をフドロワイヤントで連結したムーブメントを持ちます。
脱進機は1つで計時用香箱の方からの計時輪列で駆動され、コンプリケーションを駆動せず計時のみに専念します。
コンプリケーション用輪列はフドロワイヤント機構で計時輪列からタイミングだけ受け取り、駆動は独立したコンプリケーション香箱が行うため、コンプリケーションの動作によるトルク変動はコンプリケーション輪列にのみ伝わり、計時輪列には影響を及ぼさず、コンプリケーションの複雑さと高精度が両立するというコンセプトです。
いくつかのピースで6時位置で回転している針がフドロワイヤントで6振動なので1/6ごとのインデックスを持っています。

フドロワイヤントはデュオメトルのように別の香箱または分岐した独立輪列からフドロワイヤントの駆動エネルギーを取り、一種の脱進機構でメインの輪列(秒の歯車あたり)からタイミングだけ取り出すような構造になっています。
ガンギ車は振動数刻みで動いているので、その軸に単純に歯車をかみ合わせて、針を動かせば表示できるはずですが、なぜしないのでしょうか?
それは、ガンギ車に届いているトルクは小さすぎ、重たい針を1秒で1回転という速さで動かすことができないこと、動かせたとしてもトルクがかかっていない歯車をかみ合わせただけだとバックラッシ(歯車の遊び)と歯車や針の慣性モーメントのせいで針がふらついてしまいインデックス位置で停止させることができないためです。

ナノ フドロワイヤントはこれらの問題を解決し、ガンギ車から直接フドロワイヤント針を駆動することを実現しています。



解説パンフレットを撮影したものなので色々と微妙ですが、ナノ フドロワイヤントの図です。
低慣性モーメントの歯車(a)がガンギ車(b)に取り付けられた二重になった歯車にかみ合い、フドロワイヤント針(c)をダイレクトに回しています。
今までの時計で最も微細な加工が必要だったものの一つであるガンギ車と比べると、ナノ フドロワイヤントに使われる歯車の細かさがわかります。
歯車が二重になっている理由は、歯車単位では必要な遊び量を確保したまま、全体としての遊びを減らすためだと考えられます。
よく見ると歯車の位相が微妙にずれていることがわかります。

この機構がガンギ車から受け取るエネルギーはナノジュール単位であり、ガンギ車から見ると"無いのと同じ"レベルのエネルギーしか消費せずにコンプリケーションを追加できたことになります。



ガンギ車とその下部に設けされたナノ フドロワイヤントが見えますでしょうか?
横方向にインデックスが取り付けられ、さらには極めて小さく、そのままでは肉眼で見るのは難しいため、微小な彫刻を時計と組み合わせたアート ピース1(Art Piece 1)のケースを組み合わせています。
アート ピースは微小彫刻家とのコラボレーションピースで、9時位置に肉眼では見えないほどの微小な彫刻が格納されており、それをリュウズ型の23倍の拡大レンズで楽しむという作品です。





こちらがアート ピース 1の紹介動画2本です。
微小彫刻家Willard Wigon氏の作品をダブルトゥールビヨン30°をベースにしたムーブメントの専用のブリッジに収めています。
時分表示はディスクを使ったミニマルな表示で行われ、さらには通常時はシャッターで塞がれており、4時位置のプッシャーを押したときだけ現れる控えめな表現です。
このシャッターを活かし、次作のRobert Filliou氏とコラボしたアートピース、そしてダブルトゥールビヨン30°をフィーチャーしたアート ピース 2 エディション1では文字盤全体を途切れのないキャンバスとして使っています。
そして、去年発表されたアート ピース 2 エディション 2では微細彫刻の鑑賞機能をオミットする代わりに、パワーリザーブ表示をメインに据えることで、"時の流れを考える"という非常に哲学的なピースになりました。

さて、アート ピースはこれぐらいにして、ナノ フドロワイヤントに戻りましょう。



文字盤が微妙に欠けているのはテンワを見るため…ではなく、シグニチャー1 (Signature 1)の文字盤を流用しているため。
余白の大きさから考えると、メカニカル ナノを全面採用した複雑時計が作られたとすると、懐中時計レベルでしか実現できなかった超複雑なグランドコンプリケーションを腕時計サイズに収めるというのも夢物語ではなさそうです。



フドロワイヤント針がブリッジから飛び出ているのが見えますでしょうか?
テンワはほかのEWT(Experimental Watch Technology:実験的時計技術)プラットホームと共通の部品に見えました。



ケースバック側。
アート ピースのケースを流用しているため、機種名とアシンメトリカルな裏蓋はご愛敬。
アンシンメトリカルに欠けている部分には本来はダブルトゥールビヨン30°が飛び出しています。

プロトタイプ以前の実験機にもかかわらず、ムーブメントのルビーにはちゃんとシャトンが入っています。
レイアウトもトゥールビヨンこそないですが、アート ピースのムーブメントに準じているように見え、香箱の位置は同じだと思われます。
ナノ フドロワイヤント部分には穴が開けられ、ケースバック側からも観察が可能です。



さて、何とか動いているフドロワイヤント針を撮影しようとしましたが…



写らず…



ダメでした。
なので、拡大レンズ経由ではなく直接撮影に挑戦。



ガンギ車がフォーカス外…



これもピントは甘いですが、辛うじてフドロワイヤント針が写りました。



こちらは辛うじてガンギ車の下の二重歯車が。

さて、6回と番外編という長丁場でグルーベル フォルセイの新作を見てきました。
少しでも私が感じた魅力が伝わり、共有していただければ幸いです。

最後に+αとして、時計本体とともにブランドとしてアピールするために大切だと考えられるカタログや資料、ノベルティ(記念品)を紹介します。
時計以上に、なかなか目にする機会がないこれらを紹介することで少しでも身近に思っていただければ。



まずはメカニカル ナノ ナノ フドロワイヤント EWTの資料です。
カバンに入れても帰りの飛行機でずっと読んでいたので早くも紙がめくれてしまいました。



このような感じです。
メカニカルナノにより、エネルギー消費は1,800分の1に、スペースは4%(96%の圧縮)に削減されると謳われています。



純正のBOXの製作も行っているイギリスの家具メーカーLINLEY社によるグルーベル フォルセイオーナーに向けたカタログです。



それぞれの創業者からのメッセージ。



着色や素材自体の色など色が異なる木材を組み合わせて模様を作る寄木細工(Marquetry)の技法で模様を作り出します。



要望に合わせ、複数ピース収納などもOK。
GMTの公式BOXはKIHさんによる銀座ブティックレポートに掲載されています。
寄木細工でGMTの世界観を見事に再現しています。



そして、技術資料兼カタログ。
カタログが大型化し、持ち帰りに苦労するブランドが多い中、非常にコンパクトなバイブル(聖書)サイズなのはありがたいです。



このような見開きでピースの写真とスペックが一望できます。



カタログと同サイズの黒いノート。
去年?まではこちらにブランドの哲学やピースの概要を載せており、白いほうはテクニカルスペックのみだったのですが、今年から白いほうが統合されたカタログになり、こちらは純粋なノートになりました。
非常に書きやすいので早速バーゼル取材に使おうと思います。



これはノベルティ(記念品)です。
"グルーベル フォルセイの碑文"のシールが張られた紙の包みと布の袋。



布の袋の中にはプレス資料が入ったUSBメモリが。



紙の包みの方はロゴ入りのペンケース兼ブックバンドと鉛筆。
これを使っていると良いアイディアが浮かぶかもしれません。

そしていつも楽しみなのが…



細長い紙に包まれているのは…



共同創業者の二人によってTasted(味わって) & Approved(承認された)という…



チョコレート!
微妙に影になってしまっていますが、GMTとグルーベル フォルセイと彫られています。
創業者の二人の好みに合わせ、ヌーシャテルのJacot Chocolatierにて製造されています。





英語とフランス語で書かれた解説がついており、カカオ64%のダークチョコレートで甘さは控えめ。
創業者のお二人と同じものを食べていると思うと何となく身近に感じられます。

http://www.greubelforsey.com/en/