カンタロスのストラインキング付きクロノグラフ機能

 By : CC Fan
引き続き、カンタロス(Kantharos)のことを記します。

前の記事ではコンスタントフォース機構について説明いたしました。
今回はもう一つの目玉であるCHRONOGRAPHE SONNERIE (ストライキング付きクロノグラフ)機能と、75石という複雑性を持つムーブメントMBA13について説明いたします。

MBA13はカンタロス専用に開発されたムーブメントです。
ベースムーブメントを持ちクロノグラフモジュールを乗せた(所謂二階建てクロノグラフ)とは違い、完全に一体化された(integrated)構造を持っています。

構造を見ていきます。
まず文字盤側です。



ストラインキング付きクロノグラフのためのカテドラルゴングとハンマーを確認することができます。
ハンマーは人間の力(クロノグラフプッシャーを押す力)で動かすことができるため、ミニッツリピーターやソヌリより大きく重いハンマーと強いバネと使うことができます。
これにより、より大きな音を鳴らすことができるようになりました。

中央にはコンスタントフォース機構がサファイヤブリッジに支えられて配置されています。
透明なサファイヤを使うことで、上下から挟んで支えることで安定化させるた状態で、機構を視覚化する要求を満たすことができます。
サファイヤは固いですが割れやすく、直接ルビーを圧入することができないため、ゴールドのシャトンを介して圧入しています。
このシャトンはケース素材の色に合わせて、ホワイトゴールドとピンクゴールドが使い分けられているようです。
サファイヤブリッジは文字盤と面一になり、ケーシングされた状態では文字盤の一部のように見えます。

スペック上は厚みが10.56mmもあり、それだけ聞くと非常に厚いムーブに思えますが、これはサファイヤブリッジが出っ張っているためのようです。
直径はゴングを含めずに31.6mm、含めると37.6mmです。

反対の面に移ります。



こちらの面はクロノグラフ輪列とその制御機構、及び自動巻き輪列で占めています。
香箱からコンスタントフォースまでの通常輪列は地板の中に隠されているらしく、どちらの面からも見ることは叶いません。

大きめのチラネジ付きテンプには手作業で仕上げられた古典的な意匠を持つスワンネック緩急針が備えられています。
また、通常インカブロックなどの耐震装置がむき出しになっている天真の軸受け部分にはブリリアントカットされたルビーの飾り石があしらわれ、テンプ周りを古典的な仕上げにまとめ上げています。
この意匠はより古典的な意匠を持つ次作マエストーゾ(Maestoso)でも採用されています。

自動巻き機構は片方向巻き上げで、慣性重量を増させるために外周部にプラチナ(PT950)のウェイトを取り付けたローターを持ちます。
ローターのウェイト部分およびブリッジのウェイトが通過する部分にはルビーの受け石が備えられています。
薄型ムーブメントでは見かける構造ですが、通常の厚みのムーブメントでは見たことがなかったです。
ローターは極めて薄く作られている上に、ブリッジ・裏蓋とのクリアランスもギリギリなので、衝撃が加わったときの接触対策かもしれません。

クロノグラフ機構はボタンが一つのみで、押すたびにスタート→ストップ→リセットが切り替わるモノプッシャークロノグラフです。
理屈だけで考えると再スタートできないというのが気になっていましたが、私の使い方では全く問題がなく、むしろボタンが一つというシンプルさが気に入っています。
プッシュボタンがリュウズ同軸ではなく、2時位置にあるためリュウズのでっぱりが少なく、操作するときに力をかけやすいのも気に入っているポイントです。

クロノグラフの制御は12時位置にあるコラムホイールが行っています。
この図では見えませんが、ボタンを押した動作はレバーによってコラムホイールを引っ張って回す動作に変換されます。
ストラインキング機構のバネへのエネルギーチャージはコラムホイールを回す歯車経由で行われますが、この重さをボタン押し心地の演出として使っているようです。
操作感の感じ方には個人差がありますし、身内びいきもありますがすごく良い操作感と感じます。

クロノグラフへの動力のON/OFFを行うクラッチは垂直クラッチ方式を採用しています。
ここでも一味違う機構を盛り込んでいます。





コンスタントフォースの秒の歯車に連結した中間車(文字盤側のコンスタントフォース機構の向かって左上)から地板を貫通する軸によってクラッチの入力プレートに回転が伝えられます。
クラッチディスクはコラムホイールに直結したペンチによって開閉が制御され、直下にあるクロノグラフ歯車と入力プレートの連結を制御します。
他の垂直クラッチ方式と異なる点として、クラッチディスクとクロノグラフ歯車を完全に分けた3ピース構造になっていることがあげられます。
これにより、リセット時に秒の歯車が急回転したとしてもクラッチディスクは影響を受けません。
クラッチディスクと秒の歯車を一体化した2ピース構造だと、クラッチディスクが回転し、ペンチとの間で摩擦が発生します。
もちろん、影響がないように作られているでしょうし、気にしすぎかもしれませんが、細部にまで気を遣う執念のようなものを感じます。

この機構と調整により針飛びはまったく起こらず、きわめて精度の高いクロノグラフになっています。

関連 Web Site (メーカー・代理店・図案記載のプレスシート)

CHRISTOPHE CLARET
http://www.christopheclaret.com/

Noble Styling Inc.
http://noblestyling.com/

CHRISTOPHE CLARET Download
http://www.christopheclaret.com/en/download.php

Kantharos日本語プレスリリース(図版はここから引用)
http://www.christopheclaret.com/uploads/downloads_document_file/CLARET_Kantharos_JP.pdf