スヴェン・アンデルセン氏来日、「時を刻む芸術」展 イベントレポート

 By : Guest Blog


皆様こんにちは。ウォッチメディアオンラインにて何度か記事を投稿しております、ゲストブロガーのDWBです。
この度、本サイトでも事前告知があり、先日10日まで開催されていた、スヴェン・アンデルセン氏による特別展に行ってまいりましたので、そのイベントレポートを書かせていただきました。それでは早速本文に移ります。

本イベント「スヴェン・アンデルセン 時を刻む芸術 展」は、GINZA SIXの5階にあるアートギャラリー「Artglorieux GALLERY OF TOKYO (アールグロリュー ギャラリーオブトーキョー)にて行われました。

まず、スヴェン・アンデルセン氏について簡潔に説明します。氏は、初めて個人でブランドを立ち上げた時計師であり、AHCI(通称アカデミー)を設立した一人でもあります。時計学校で技術を学び、有名時計店で経験を積んでパテック・フィリップの複雑時計部門に所属した後、1984年に独立して自身のブランド「アンデルセン・ジュネーブ」を設立しました。複雑機構を得意とした氏は、パーペチュアルカレンダーやワールドタイム、ミニッツリピーター、オートマタなどの機能を搭載した作品を数多く発表し、独立時計師界の重鎮として、その名声を築き上げた人物なのです。その凄さから現在では「不可能を可能にする時計師」と呼ばれています。

さて、会場は高級感あふれる上質な雰囲気で、入場する前から思わず気分が高まります。

 

ギャラリー内へ入ると、そこにはアンデルセン氏の作品がディスプレイされていました。ほとんどの作品の数々がズラリと並んだその光景は、圧巻のひとことです。日本での取り扱いがわずかな上、時計自体の希少性も極めて高いため、この光景を見ることができる機会は二度と来ないのではないか、と思います。

日曜日の午後ということもあり、会場は関係者や愛好家の方々で大変な賑わいでした。アンデルセン氏御本人の登場で、私の心拍数は確実に上がりました(!!) 只者ではないオーラを感じながらも、私の質問や写真撮影などに快く応じていただきました。

イベント期間中は、アンデルセン氏御本人に相談しながら時計をオーダーすることが可能なプログラムが用意されていたそうだが、果たして会期中に受注はあったのでしょうか...。

注目すべきは時計だけではありません。会場の壁には日本人の漫画家によって描かれた、アンデルセン氏の「生涯の物語」の原画が展示されていました。人物はもちろん、町の風景や機械などが緻密に描かれ、漫画の1ページ・1枚ずつがまるで絵画のようでした。

それでは実際にディスプレイされていた作品を、いくつか抜粋して紹介させていただきます。

まずはこちら。今年のバーゼルワールドで発表された新作「ジョーカー」です。この作品は、AHCIに所属する独立時計師のコンスタンチン・チャイキン氏との共同製作された時計で、主に文字盤側の「目が動く」機構をチャイキン氏が、ケースバック側の「トランプゲームをしている様子」を再現したオートマタ機構をアンデルセン氏が担当しています。

両者が得意とする部分をうまく融合させて完成した、歴史的合作です。

ちなみにこの作品はGPHG2018(ジュネーブ時計グランプリ)のファイナリストに選出されています!個人的に推したい一本です。

 

続いて「モントル ア タクト」です。一見、文字盤の隙間から回転するリングで時刻を読み取る、シンプルな時計だと思われます。しかし、ケース側面に注目すると、もう一つの回転リングが第2時間帯を表示していることが分かります。それともう一つ、リュウズが見当たらないことにお気付きでしょうか。実はケース背面にリュウズを配置するという設計を採用しており、この機構は特許を取得しているということも驚きです。

また、文字盤のバリエーションの豊富さも魅力です。写真のようなギヨシェ彫りやアヴェンチュリン等の鉱石、エナメルのミニアチュールペイントなどなど…顧客のオーダーに沿って自由自在です。

次に「パーペチュアルカレンダー・ムーンフェイズ・ミニッツリピーター」です。そのまま名称が機能を表しているこの時計は、アンデルセン氏が製作した作品の中では初期のものです。いかにも複雑そうな内部構成については「1920年代に製造されたティファニー銘のオールドムーブメントをベースに、アンデルセン氏が開発したレトログラード式デイトインジケーターを採用したパーペチュアルカレンダーモジュールを付加したもの」との記載がありました。複雑ながらも非常に見やすく、バランスのとれた配置が美しいですね。遥か昔に製作されたムーブメントは、氏の手によって現代へと生まれ変わりました。この事はまるで、過去を生きた時計師と現代を生きる時計師との対話のように思えます。

 

最後になりますが「セキュラー パーペチュアル カレンダー」です。カレンダー関連の機構はアンデルセン氏が得意とする部分ですが、その中でも特に複雑で画期的な仕組みが盛り込まれているのがこの作品です。

現代において、世界の殆どの地域で使用されている暦法はグリゴレオ暦です。このグリゴレオ暦には「西暦年が100で割り切れる年は平年とし、また西暦年が400で割り切れる年は閏年とする」という決まり事があるので、一般的なパーペチュアルカレンダーを搭載した時計でも、100年ごとに年修正を行う必要があります。そこでアンデルセン氏は、面倒な(?)100年ごとの修正を必要としない「セキュラー パーペチュアルカレンダー」という仕組みを開発したのです。ケース裏面にもカレンダー関連の表示があるそうなのですが、この時は見ることができませんでした。

実際2100年になった時にこの時計が動いていて、この機能を果たす時が来ることを願いたいですね。

これらの他にも数多くの作品や一部の部品、写真などが展示されており、私は会場内でひたすらカメラのシャッターを切っていました。

そして最後に嬉しいことが一つ。アンデルセン氏ご本人からサインと名刺をいただくことが出来たのです。今回のような貴重な機会を大切にし、これからの自分の生涯に活かしていきたいと、常々思う次第でありました。

長文でしたが、最後まで本記事をお読みくださいましてありがとうございました。