MB&F Legacy Machine Perpetual

 By : CC Fan
GPHG 2016関係の話題で、もう一つ。

カレンダー表示付き時計の賞、Calendar Watch Prizeを獲得したMB&F(Maximilian Büsser and Friends)のレガシー・マシーン・パーペチュアル(Legacy Machine Perpetual)を、偶然拝見する機会に恵まれたので、そのレポートと新しいアイディアを用いた永久カレンダー機構について書きたいと思います。
どうせなら受賞前に書いていれば良かったですが…

MB&Fはハリー・ウィンストン(Harry Winston)で独立時計師とのコラボレーションしたOPUSシリーズなどのディレクターを務めていたマキシミリアン・ブッサー氏が独立して設立したブランドで、コラボレーションした"フレンズ"と呼んでいる才能ある職人・工房との共同作業で作品を作り出しています。

主にSFなどからインスピレーションを得た近未来的な腕時計のオロロジカル・マシーン(Horological Machine)シリーズと、"ブッサーが100年前(1867年)に生まれていたらどんな腕時計を作ったか"という発想のレガシー・マシーン(Legacy Machine)シリーズをはじめ、オルゴールのリュージュ(Reuge)やクロックのレペ(L’Epée)とコラボレーションした作品などを作っています。

6月にジュネーブを予備知識なしでぶらついていたところ、MB&FのM.A.D Gallery Genavaに偶然たどり着き、レガシー・マシーン・パーペチュアルのサンプル機(販売機はその時点では限定数完売・現在はニューバリエーションを追加)を拝見できました。


M.A.D. (Mechanical Art Devices) Gallery Geneva

M.A.D. Galleryは時計のほか、アーティストが作成したメカニカルアートと呼ばれるアーティスティックな動きをする機械も展示・販売しています。
この時点でMB&Fという名前とレガシー・マシーン・パーペチュアルは知っていましたが、まさか実機が拝見できるとは思いませんでした。


Legacy Machine Perpetual RGケース ブラックムーブメント

レガシー・マシーンに共通の意匠としてテンプを文字盤(正確にはムーブメントの地板が直接露出している)側に浮かせたデザインになっています。
他のレガシー・マシーンではガンギ車とアンクルも文字盤側に配されますが、パーペチュアルでは永久カレンダー機構が文字盤側にあるため、ガンギ車とアンクルはムーブメント側にあります。
そのため、MB&Fが"世界で最も長いと思われるテン輪ピニオン"と呼んでいる極端に長い軸でテンプと脱進機をつないでおり、この信頼性確保も大変だったようです。

文字盤側に配された永久カレンダー機構は独立時計師ステファン・マクドネル(Stephen McDonnell)氏とMB&Fが開発したもので、今までの永久カレンダーとは考え方が根本的に異なっています。
既存の永久カレンダーは31日分ある日付の歯車に対し、レバーや追加の歯車を使い、"月末に多く進ませる"ことで不要な日付を削除する考え方です。
対して、レガシー・マシン・パーペチュアルの考え方は28日分のレトログラード・カレンダーに対して"月末前に日付を足して"必要な日付にするという発想の転換を行っています。

言葉で説明してもわかりにくいと思うので、公式の解説動画をご覧ください。


Legacy Machine Perpetual - MB&F - How it works (YouTubeのMB&Fチャンネルより)

カレンダーが閏年を認識する仕組み自体は12ヵ月カムと2月の時だけ動作する4年カム、レバーを使った永久カレンダーと同じです。
しかし、レバーが直接日付を早送りするのではなく、25日に"機械処理装置(Mechanical Processor)"を設定するという動作になっています。
34秒当たりから機械処理装置の解説が出ており、直歯の歯車で、一部が欠けた24歯・可動する5歯・ベースの28歯が重なったような構造になっています。
可動する5歯の可動範囲は5日分で、それ以外はベースの28歯と同じ高さにあります。
おそらく、斜めから見るとより分かりやすい気がしますが、私が認識した動作は下記のようになります。

1日~24日:
一部が欠けた24歯がレトログラード歯車と噛み合い、普通に送る。

25日:
レバーが作動し、可動する5歯を押し込む(日付の追加)。
直歯の歯車なので、噛み合っている1歯以外は自由に動かすことができ、位置は機械処理装置上の規制バネによって固定される。

26日以降:
押し込まれた稼働する5歯が1日につき1歯ずつ戻される、この時一部が欠けた24歯とベースの28歯は動かない。
戻りきるとピンが引っ掛かるようになり、再びかけた24歯とベースの28歯も動くようになる(次の月の開始)。
また、レトログラードの歯が引っ掛からなくなり、レトログラードが1日に戻る。
おそらく月送りはレトログラードの動作によって行われる。

いまいち自信がないところもありますが、ポイントは稼働する5歯が戻りきるまでは他が動かないと言う事で、これが"日付を足す"動作だと思われます。
戻りきったときは通常の1日と同じ位置になっているため、機械処理装置自体はそのまま進めればよいと言う事になります。
レバーも日付全体を押すわけではなく、機械処理装置の可動部(軽い・規制バネを持ち上げれば負荷無し)を動かすだけでよいため、軽い力で動かすことができます。
動作を見ると、25日のカレンダーに対して月末を足す、すなわち28日の動作の時にも足される動作自体は起きているように見えますが、おそらく説明の分かりやすさを優先したのではないかと推測します。

4年カムの部分も地味ながら便利な改良がおこなわれています。
遊星歯車機構を使い、遊星キャリアに月、遊星に4年カム(閏年の時だけより深くなる=足す日数が増える)、太陽ギアに閏年を割り当てることで、太陽ギアを動かして他とは全く独立に年だけ進めることができるようになっています。


Legacy Machine Perpetual RGケース ブラックムーブメント

永久カレンダー時計にしては部品点数が多く、581部品もありますが、これは前述の機械処理装置と安全装置のためだと思われます。
コレクターは全てボタンで、全てを1日進める、曜日のみ、月のみ、年のみの4個が10時、2時、4時、8時にバランスよく配置されています。
全てのコレクターには安全装置が備えられ、午後10時から午前2時の間は操作できないようになっています。
また、月と年は25日から月末までは操作できないようになります。

ブッサー曰く、"ブーメラン・ウォッチ(しょっちゅう修理に戻ってくる)"だった永久カレンダーの原因となっていた早送りシステムを根本的に改善した素晴らしい機構だと思います。
また、設定の神経質さなどもない素晴らしい機構ではないでしょうか。
調整もやらせてもらいましたが、道具も不要で日付→曜日→月→年とやればよいので特に気を使う事もありませんでした。

6月の時点で写真のみだったパープル&WGバージョンもすでに販売されているようです。

最期に公式のプロモーションムービーを掲載します。


Legacy Machine Perpetual: Complexity simplified with integrity and beauty - MB&F (YouTubeのMB&Fチャンネルより)

他にもシンプルなデュアルタイムのLegacy Machine 1や初の"自社製" Legacy Machine 101なども拝見できました。


Legacy Machine 1 RGケース

Legacy Machine 1はムーブメントをジャン・フランソワ モジョン(Jean-Francois Mojon)氏のクロノード(Chronode SA)が製作しており、仕上げを監修したのはカリ・ヴティライネン(Kari Voutilainen)先生です。
ムーブメントの仕上げは流石の一言です。


Legacy Machine 101 YGケース フロスト文字盤

古典的な"フロスト"(顆粒状)の仕上げを現代に復活させたピースです。
伝統的な製法では危険な酸などを使うため現在では実施できず、ワイヤーブラシを使ったブラシフロストだそうです。
ムーブメントはMB&F社内製で、仕上げの監修はこちらもヴティライネン先生です。


Legacy Machine 101 RGケース フロスト文字盤

MB&Fの腕時計は日本ではあまり見ることがかなわないですが、とても個性的な作品を多数作っているので、是非機会があればご覧ください。
M.A.D. Galleryはジュネーブのほか、ドバイと台北にもあります。

ちなみに腕時計はあまり見られませんが、レペとコラボしたクロックとリュージュとコラボしたオルゴールはそれぞれの販売ラインにも載っているため、日本国内でも割と見られます。


Music Machine 3

これはリージュとコラボしたミュージック・マシーン3(MUSIC MACHINE 3)です。
スターウォーズをほうふつとさせるフォルムで、翼(?)の根元にシリンダーオルゴールがセットされています。
各色33台の限定ですが、すでに限定完売状態だとか…

リージュも扱っているノーブルスタイリングさんが仕入れたそうで、恵比寿のノーブルスタイリング ギャラリーに展示されています。

関連ウエブサイト

MB&F
https://www.mbandf.com/en

M.A.D. Gallery
https://www.madgallery.net/